感染性心内膜炎などの難治性感染症では、根治のためにABPC(アンピシリン)やVCM(バンコマイシン)に加えてGM(ゲンタマイシン)やCTRX(セフトリアキソン)を併用することによりシナジーを得る必要がある1)とされています。
アミノグリコシド系の併用については以前調べてある程度の納得はできたのですが、セフェム系については「そもそも腸球菌にセフェム系は自然耐性があるのでは?」「どっちも作用機序は同じ細胞壁合成阻害だから作用が重複してるのでは?」 といったような疑問がふつふつと浮かんで、あまり納得することができていませんでした。
そこで、今回重い腰を上げてその意義について調べてみた結果、とりあえずなんとなく結論っぽいところにフワッと軟着陸してざっくりとした理解をすることができたので備忘録的に記事にまとめています。
これが完璧な正解というわけではないとは思いますが、ざっくりとした理解はできると思うので気になる人は読んでみてください。
この記事でわかること
腸球菌にセフェム系は効かないのにABPCとCTRXを併用することに対する理由のようなもの
もくじ
腸球菌にセフェム系は効かないのにABPCとCTRXを併用する理由
セフェム系の作用機序の復習
- セフェム系の作用機序は?
- 細胞壁の合成阻害。
- 詳しく言うと?
- ペニシリン結合タンパク質(PBP)の活性部位セリンをアシル化して、PBPがペプチドグリカン(PG)合成の架橋反応を行うのを阻害することによりPG生合成を阻害する。
PBPについても復習
PG合成を担う高分子量PBPは、クラスA(PG合成の糖転移と架橋の両方を行うことができる;以下「aPBP」)とクラスB(架橋のみを行うことができる;以下「bPBP」)に分類される。
ほとんどの細菌は、両方のタイプのPBPを代表する複数のPBPホモログ(ホモログ:相同遺伝子)をコードしている。
- 例えば?
- E. faecalisとE. faeciumのゲノムは、それぞれ3つのaPBPと3つのbPBPをコードしている。
一般にβ-ラクタム系抗菌薬はaPBPとbPBPの両方をアシル化し架橋活性を阻害することができるが、あるβ-ラクタム系抗生物質に対するPBPの反応性の程度は異なることがある。
そのため、あるβ-ラクタム系のPG生合成阻害作用は、細菌が発現するPBPの種類によって異なることになる。
- ポケモンで例えると?
- あいて(細菌)のタイプ(PBPの種類)によっては、こちらのこうげき(βラクタム)が効かないかもってこと!
特定のPBPは特に低いβ-ラクタム反応性を示し(低親和性PBPと呼ばれる)、他のPBPがアシル化されてもβ-ラクタムの存在下でPG生合成を継続できるようにすることによってβ-ラクタム耐性を付与している。
補足説明
一般的な例として、ブドウ球菌のbPBPであるPBP2a(PBP2’)は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌にβ-ラクタム耐性を与える。
そもそもセフェム系はなんで腸球菌に対して自然耐性があるの?
PBP5またはPBP4と呼ばれている特定の腸球菌のbPBPは、セファロスポリン耐性に必要であることが知られている。
このbPBP(以下;PBP5(4))はセファロスポリンに対して本質的に低い反応性を示し、それによってセファロスポリンの存在下で増殖することが可能となっている。
このPBP5(4)が自然耐性の要因であると考えられてきたが、その後E. faecalisとE. faeciumの両方において、PBP5(4)に加えて第2のbPBP(PBPAまたはPBP2bとして知られる)がセファロスポリン耐性に必要であることが報告された。
- つまり?
- 腸球菌のPBP4とPBP5、PBPAまたはPBP2bがセフェム系に対する自然耐性がある原因として考えられている。
- 噛み砕いて言うと?
- 腸球菌(の一部のPBP)はセフェム系に対してもともと全然興味がないから、セフェム系がやって来ても反応しない(=耐性)ってこと。
βラクタム系2剤併用の理由
βラクタム系2剤併用の相乗効果はペニシリン結合蛋白(PBP)同族体の相補的阻害による細胞壁合成阻害に基づくものと考えられている。2)
- 例えば?
- アモキシシリンとセフォタキシムの相乗効果は、アモキシシリンによって必須であるPBP4とPBP5が部分的に飽和し、セフォタキシムによって非必須であるPBP2とPBP3が完全に飽和することによって説明できると仮定されている。3)
- RPGで例えると?
- 複数の攻撃部位があるボスに対して、勇者が中心部を攻撃している間に武闘家は末端部を攻撃するってことかな。
まとめ
上で挙げた例はアモキシシリンとセフォタキシムでしたが、アンピシリンとセフトリアキソンでも同様のことが言えるとするならば……
アンピシリンによって生育に必須なPBP4とPBP5を阻害し、セフトリアキソンで生育に必須ではない(しかし生育に何らかの影響を与える)PBP2とPBP3を阻害することで相乗的な効果を与える
ことが同じβラクタム系抗菌薬を併用することによるシナジー効果の機序として考えられるのではないでしょうか。
(ふわっとした着地)
参考文献
- 岡 秀昭(2021)「感染症プラチナマニュアル」メディカル・サイエンス・インターナショナル
- Lara Thieme et al., In Vitro Synergism of Penicillin and Ceftriaxone against Enterococcus faecalis. Microorganisms. 2021 Oct 14;9(10):2150.
- Mainardi J.L., Gutmann L., Acar J.F., Goldstein F.W. Synergistic effect of amoxicillin and cefotaxime against Enterococcus faecalis. Antimicrob. Agents Chemother. 1995;39:1984–1987. doi: 10.1128/AAC.39.9.1984.