「ESBL産生菌感染症の治療薬って結局カルバペネム一択なのだろうか?」
「他の抗菌薬はESBL産生菌に対してはどうなんだろう?」
と思ったのをきっかけにESBL産生菌に対して使用される抗菌薬の評価をまとめています。
もくじ
ESBLとは?
- ESBL=Extended-Spectrum Beta-Lactamase
- 基質特異性拡張型βラクタマーゼ
- もともとAmbler分類でクラスAでありペニシリンを分解するペニシリナーゼの基質がセファロスポリンにも拡張していったもの。
- グラム陰性菌や腸内細菌群Enterobacteriaceae、とくに大腸菌とクレブシエラ(K. pneumoniae)でよく見つかり問題となる。
- 当初ESBLはセフメタゾール、セフェピム、カルバペネムには感受性があると考えられていたが、セフメタゾールやセフェピムでは効果がないものもみられるようになる。カルバペネムにまで耐性を示すESBLも見つかるようになった(KPCなど)。
- ESBLの正確な定義についてはコンセンサスがない。
- ESBLはプラスミドで伝播するため接触感染予防策が必要。
治療薬の評価まとめ
カルバペネム
第一選択であり治療効果が最も優れている
- AmpCを同時に産生するグラム陰性桿菌にも有効。
- ただし、カルバペネム耐性菌もごく少数だが報告されている。
セフメタゾール
賛否両論あり
- セファマイシンはESBLに安定性がある。
- 比較的軽症な尿路感染などに有効な場合もあるが、重症感染には推奨されていない。
- しかし、日本ではセフメタゾールの効果を吟味し尿路感染や菌血症で治療効果がカルバペネムに劣らなかったという後ろ向き研究が複数報告されており、臨床症状が改善・安定しているという前提でセフメタゾールへのde-escalationを推奨しているところもある。
- 最近の総説論文でもセファマイシンはカルバペネムを使わない戦略として捉えられており、特に尿路感染では選択肢としてよいかもとされている。
- AmpC同時産生には無効。
ピペラシリン・タゾバクタム、アンピシリン・スルバクタム
賛否両論あり
- βラクタマーゼ阻害薬でESBLは阻害されるが、実際の臨床例では効果が得られないことも多い
- ESBLをもつ細菌が染色体由来の別のβラクタマーゼを持っていたり、別の耐性メカニズムを持っていることがあるため。
- 体内では大量にESBLが作られるので実験室のような阻止効果は期待できないという説も。
- ただ、尿路感染の場合は尿中抗菌薬濃度が高濃度になるために有効な場合(40%)があるなど、近年の臨床試験では効いたという報告もある。
- カルバペネムとの比較で予後不良とする報告もあり。
- 重症感染症でない場合に使用を検討。
セフェピム
あえて選択する機会は少ない
- MIC≦1の場合のみ高用量で投与検討するべきとの報告あり。
第3世代セフェム
使わない
- 検査上感受性があるように見えても臨床的に効果が得られない可能性が高い。
アミノグリコシド、フルオロキノロン
通常選択肢とならない
- 感受性があれば使えるかも(ESBL産生菌の約70%はキノロン耐性)。
ホスホマイシン
感受性がある場合は下部尿路感染に対して有効であったとの報告があるが重症感染には勧められない
- 軽症の尿路感染に限り代替薬として検討。
- 使用増加により既に耐性化が認められている。
チゲサイクリン
有効である可能性はあるが臨床でのデータが乏しく選択肢にはならない
- 他の抗生物質が使用できない場合や多剤耐性化している場合に検討。
内服では?
- ホスホマイシンやST合剤、ミノサイクリンなどが有効な場合がある。
参考文献
- 岩田健太郎(2018)「抗菌薬の考え方、使い方Ver.4」中外医学社
- 青木滋編(2017)「J-IDEO Vol.1 No.1」中外医学社
- 青木滋編(2017)「J-IDEO Vol.1 No.2」中外医学社
- 安井由佳子(2016)「オチる前に読む! 感染症治療のピットフォール(第15回)ESBL産生菌のピットフォール」月刊薬事
- JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015―尿路感染症・男性性器感染症―