腸球菌に対してペニシリンとアミノグリコシドを併用することがあります。
これはシナジー(相乗)効果を目的としての併用であることは有名ですよね。
知った当時は「2つ使えばそりゃあ効果もUPするよね」くらいの感覚で深く知ろうとはしていなかったのですが、ふとしたきっかけでその機序を知りちょっと面白いなと思ったので記事にまとめることにしました。
もくじ
シナジー効果とは?
腸球菌はアミノグリコシド系抗菌薬に対して、細胞壁の透過性低下により耐性を示すと考えられている。
そのため、単独使用はしないがシナジー(相乗)効果を期待してペニシリン系抗菌薬やグリコペプチド系抗菌薬と併用することがある。
シナジーはアルファベット表記ではsynergyであり、英和辞典によると「共同作用、共働」などの意味。
つまり、複数の抗菌薬が共同作業することにより期待できる効果のことをシナジー効果という。
シナジー効果の機序とは?
腸球菌は薬剤透過性の低下により、基本的にはアミノグリコシド系抗菌薬に耐性がある。
しかし、ペニシリン系抗菌薬やグリコペプチド系抗菌薬の細胞壁合成阻害効果により細胞内のリポソームの結合部位まで移行でき、薬効を発揮し殺菌的な作用が期待できるとされている。
つまり……こういうことかもしれない
つまり、アミノグリコシド系抗菌薬が開けることのできない腸球菌城の城門をペニシリン系抗菌薬がこじ開けて、その開いた扉からアミノグリコシド系抗菌薬が攻め込む……といったイメージ。
さながら普段は共闘することのないキャラクターが力を合わせて捨て身で敵に立ち向かうという少年漫画では盛り上がること必至のシーンであり、体内でこんな連携技が繰り広げられていると思うと胸が熱くなってくることうけあいである。
併用するときは
高濃度アミノグリコシドのスクリーニング検査(ゲンタマイシン、ストレプトマイシンが対象)を行い、感性である場合に相乗効果が期待できる。
アミノグリコシドを併用する場合は必ずスクリーニング検査を行い、高濃度のアミノグリコシドに耐性の場合は併用しないのが原則とのこと。1)
仮にゲンタマイシンに高度耐性であれば、感受性があればストレプトマイシンやセフトリアキソン(Enterococcus faecalisに限る)をペニシリンに併用するのが良いらしい。2)
アミカシンはなぜかシナジーできない
アミノグリコシド系抗菌薬のうち、上述したようにゲンタマイシンとストレプトマイシンは腸球菌に対してペニシリンとのシナジー効果が期待できるが、アミカシンやトブラマイシンなどその他のアミノグリコシドは何故かシナジーできない。
そのため、それらのシナジー目的での併用はしてはいけないことになっている。
上で書いてきた機序からするとどれでもシナジーできそうではあるが……果たしてその理由とはいかに。
連携技を発動するにはそれなりの経験値が必要ということなのだろうか。いや、そもそも私のイメージが安直すぎて間違っているのかもしれない。
長くなりそうなのでそれについて調べるのはまたの機会とする。
シナジーについて、謎は深まるばかりである。
- 複数の抗菌薬が共同作業することにより期待できる効果のことをシナジー効果という。
- アミノグリコシド系抗菌薬は、ペニシリン系抗菌薬やグリコペプチド系抗菌薬の細胞壁合成阻害効果により細胞内、リポソームの結合部位まで移行でき、薬効を発揮し殺菌的な作用が期待できる。
- つまり、アミノグリコシド系抗菌薬が開けることができない城門をペニシリン系抗菌薬がこじ開けて、その開いた扉からエイヤッとアミノグリコシド系抗菌薬が攻め込むといったイメージ。
- アミノグリコシドを併用する場合は必ずスクリーニング検査を行い、高濃度のアミノグリコシドに耐性の場合は併用しないのが原則。
- アミカシンはシナジーできないため、シナジー目的での併用はしない。
- 望月敬浩、倉井華子(2018)「セファロスポリン系抗菌薬に自然耐性である腸球菌菌血症の治療を研究せよ!」薬局 Vol.69 No.1
- 岡 秀昭(2020)「感染症プラチナマニュアル2020」MEDSi
- 日本化学療法学会編(2020)「抗菌薬適正使用生涯教育テキスト第3版」