溶解液(母液)に注意が必要な注射薬は意外とたくさんありますが、添付文書には詳しく書かれていなかったり、理由がよくわからなかったりするものもありますよね。
そこで、薬剤師が注射薬の処方監査をする時に気をつけるべき「溶解液の種類や量に注意が必要な注射薬」をまとめて一覧にして、根拠を持った疑義照会ができるようにできるだけ理由も一緒に記載しました(主に添付文書、インタビューフォーム、審査報告書、薬事・食品衛生審議会医薬品議事録、その他各種文献などを参考としています)。
投与速度に注意が必要な注射薬一覧と併せてぜひブックマークや印刷などしていただき、日々の薬剤師業務に使用してもらえると嬉しいです。
内容は順次アップデートしていきたいと考えているので、これも追加したほうがいいのではというのがあればぜひ教えてください。
もくじ
溶解液の量や種類に注意が必要な「あ行」の注射薬
アシクロビル点滴静注(商品名:アシクロビン点滴静注250mgなど)
1A当たり100mL以上の補液で希釈する
血管痛、静脈炎、結晶形成(尿細管で結晶を形成し腎機能悪化)を避けるため
海外の添付文書では1A50mLまで補液を減らせるとの記載があるが、50mLだと血管痛が起きやすいとのこと
アミオダロン塩酸塩静注150mg(先発品名:アンカロン注150)
持続投与時の投与濃度は2.5mg/mLを超えないこと
2mg/mLを超える濃度で1時間以上投与する場合は中心静脈からの投与が推奨される[3]。また、3〜6mg/mLでは、末梢静脈の静脈炎や幹細胞壊死が起こることがある[4](米国では1〜6mg/mLの濃度で使用)
溶解には5%糖液を使用(生理食塩水で溶解した場合は、24時間後の観察で沈殿を認めるため)
アムビゾーム点滴静注用50mg
1Vを注水12mLに溶解→必要量を5%Gluで希釈(2.5mg/kg/日未満投与の場合100mL、2.5mg/kg/日以上投与の場合250mLが望ましい)
電解質溶液に溶解すると白濁・沈殿を生じるおそれがあるため(リポソーム製剤であるため)
アルブミナー5%静注 12.5g/250mL、25%静注12.5g/50mL
5%ブドウ糖液、生理食塩液等の中性に近い輸液・補液以外の他剤との混合注射を避ける
蛋白製剤であり、pHの変化や薬剤により変質する可能性があるため。生理食塩水、5%ブドウ糖液、リンゲル液以外とは混合しない。
イーケプラ点滴静注500mg
500~1500mgを100mLの補液(生食、5%Glu、乳酸リンゲルなど)で希釈。小児では成人での希釈濃度を目安に希釈液量の減量を考慮。
1回量を 15 分かけて点滴静脈内に投与する必要があるため投与にあたっては希釈が必要
※イーケプラ500mg・生食50mLのオーダー
→希釈は15分かけて投与するためで小児では成人での希釈濃度を目安に母液を減量できる
→最大1500mg/100mL=15mg/mLまで大丈夫→生食50mLでもOK(だと判断してます)。
また、浸透圧比3(生理食塩水に対する比)であり、ビーフリードと同様の浸透圧比と考えると浸透圧的にも静脈投与できない濃度ではない。しかし有益性と静脈炎のリスクを十分に考慮する必要はある。
エルシトニン注
希釈する場合は生食など電解質を含む輸液で行う
5%Gluなど電解質を含まない輸液を使用した場合、容器への吸着が認められており含量が低下するため。
オノアクト点滴静注用50mg
10mg/mLとなるように希釈
10mg/mL以上では局所反応や皮膚壊死が発現するおそれあり
溶解液の量や種類に注意が必要な「か行」の注射薬
ガベキサートメシル酸塩静注用100mg、500mg(先発品名:注射用エフオーワイ500)
1Vを5%Glu又はリンゲル液を用いて溶解して全量500mLとし8mL/分以下で点滴静注する
一般的に使用されている量を記載しているだけなので、末梢投与であれば100mgあたり50mL以上の輸液(0.2%以下)に溶かせば特に問題ない
カンレノ酸カリウム静注用200mg(先発品名:ソルダクトン静注用200mg)
10mg/mLまで希釈して投与
血管痛を起こしやすいため。pH9-10と塩基性が強いため血管痛を起こしやすいと考えられる
キュビシン静注用350mg
ブドウ糖を含む希釈液とは配合不適
力価が低下するため
※生食7mLに溶解後、希釈せずそのまま緩徐に静注可能。希釈する際にも特に濃度の指定はなく、30分かけて投与できれば何mLでも良いとされている。
クリンダマイシン注射液300mg/600mg
300〜600mgあたり100〜250mLの補液に溶解する。溶解濃度は18mg/mlを超えない。
溶解液の量や種類に注意が必要な「さ行」の注射薬
サンディミュン点滴静注用
生理食塩液またはブドウ糖液で100倍に希釈して点滴静注する。
指定された速度での投与がしやすいように100倍としているとのこと。最少20倍希釈での安定性等のデータあり。
ジアゼパム静注用5mg,10mg(ホリゾン注射液5mg,10mg)
他の薬剤と混合又は希釈して使用しない。
ジアゼパムが水に溶けにくく、有機溶媒としてプロピレングリコールを使用しているため、他剤と混合し水分が混ざると白濁を生じる。ただ、40倍以上に希釈すれば配合変化はないと記載されている書籍もある
ジスロマック点滴静注用500mg
注水4.8 mLに溶解した液(濃度100 mg/mL)を、5 %Glu等の輸液を用いて1.0 mg/mLに希釈する。
国内第I相試験で、注射液濃度が2.0mg/mLの場合注射部位疼痛の発現頻度が上昇したため
日本での検討で、2ml/mLでも静脈炎の発現率は低いとの報告[1]や、2mg/mLにしても点滴時間は2時間のままにすることで静脈炎が防げるとの報告[2]もあるが、まだ一定の見解は得られていない。
注水以外に溶解データがないためそれ以外での溶解は不可
シンビット静注用50mg
生理食塩水 or 5%糖液を用いて、1mg/mL以下の濃度で
高濃度の投与で薬物の結晶形成による血管炎や血栓形成のリスク
溶解液の量や種類に注意が必要な「た行」の注射薬
タゾピペ配合静注用4.5g(先発品名:ゾシン静注用4.5)
末梢投与であれば4.5g1Vあたり50mLは必要
浸透圧:ゾシン4.5gを生理食塩液もしくは5%Glu20mLで溶解した場合の浸透圧比は約4であり、100mLで溶解した場合の浸透圧比は約2
溶解液の量や種類に注意が必要な「な行」の注射薬
注射用ナファタット10/50
白濁あるいは結晶が析出する場合があるので,生理食塩液又は無機塩類を含有する溶液をバイアルに直接加えない。10mgあたり1ml以上の5%ブドウ糖注射液又は注射用水で溶解したものは混注できる。
※濃度が濃いと血管炎の副作用が起こりやすい
末梢:0.48 mg/mL 中心静脈:4.8 mg/mL
で投与可能との報告あり
ニカルジピン塩酸塩注射液10mg/10mL(先発品名:ペルジピン注射液10mg)
0.01~0.02%(1mLあたり0.1~0.2mg)に希釈(5~10倍)
原液投与で静脈炎のリスクあり
溶解液の量や種類に注意が必要な「は行」の注射薬
バクトラミン注
1Vあたり75mL以上に希釈
ハンプ注射用1000
生理食塩液での直接溶解は行わない
直接溶解により塩析が確認されているため。
フィニバックス点滴静注用
最小溶解量:0.25g1Vを溶解するのに最低で生食12-13mL必要
ブイフェンド200mg静注用
注水19mLに溶解した後(濃度10mg/mL)、通常生理食塩水を用いて希釈する(希釈後の点滴静脈内注射溶液濃度0.5~5mg/mL)。
注水以外に溶解データがないためそれ以外での溶解は不可
フェジン静注40mg
5%Gluで5~10倍に希釈して緩徐に静注。2分以上かければ原液でも良い。
フェジン→コロイド性の鉄剤、 pH9~10で安定→ブドウ糖以外だとpHの変動で鉄イオンが遊離し副作用が生じやすくなる。→遊離した鉄イオンが生体組織に直接作用し、発熱・悪心嘔吐の原因となる。
注射用ペニシリンGカリウム
推奨濃度 2万単位/mL/hr
血管炎予防のため
ヘパリンナトリウム注射液
原液でもOK
ホストイン静注750mg
原液でもOKだが既定の投与速度(だいたい15分以上)で投与できる量に希釈
原液のまま使用した場合には容量が少ないことからある程度希釈する必要がある→臨床試験では約4倍に希釈して投与。添付文書では5~30倍希釈時の安定性記載あり
溶解液の量や種類に注意が必要な「ま行」の注射薬
メロペネム点滴静注(先発品名:メロペン点滴用)
最小溶解量:0.5g1Vを溶かすのに生食10mL必要
髄膜炎doseで生食20mLだと溶けないため注意
溶解液の量や種類に注意が必要な「ら行」の注射薬
リコモジュリン点滴静注用12800
添付文書上の記載は臨床試験のプロトコルからそのまま記載されているものであり実際に希釈液を減量して投与を行った試験はないが、投与速度は厳守のもと溶解量の10倍希釈であれば浸透圧の問題もなく投与可能であると考えられている。
リトドリン点滴静注
5%Gluなどで溶解
電解質溶液は肺水腫防止のため避ける
レボフロキサシン点滴静注500mg/20mL(先発品名:クラビット点滴静注500mg/20mL)
生理食塩液80mLで希釈した際の浸透圧約0.9。希釈しない場合の浸透圧比は約0.3。臨床試験では5mg/mLの希釈であり、 5mg/mL以下(1V100mL以上)の希釈が望ましい。
ロヒプノール静注用
2倍以上に希釈
溶解度が低いため2倍以下の希釈では結晶が析出
- 内田 裕之ほか「アジスロマイシンの高濃度希釈投与における安全性の検討」日化療会誌 62 (3): 382-384, 2014
- Yuto Haruki et al., Investigation of Intravenous Azithromycin Treatment Safety When Reducing Solvent for Intensive Care Unit Patients, Yakugaku Zasshi. 2015;135(8):987-90.
- lexicomp Drug Information Handbook, 28th ed, Lexi- Comp, 2020
- Betty L, et al., Gahart’s 2020 Intravenous Medications, Elsevier, 2019