晴れて国家試験に合格して薬剤師になったけれど、これからどうやって勉強していけばいいだろう?
医学書、たくさんあるけど何の本を読めばいいのだろう?
そんな疑問が浮かぶこと、きっとあると思います。
私がおすすめする新人薬剤師の勉強法はたった1つです。
そして、基本的に新人薬剤師の勉強法として「ただ本を読む」というのはあまりおすすめしません。
おすすめ本の記事なのにいきなり矛盾してやがる……さて違う記事を探すか
そう思ったあなた、Uターンするのはちょっと待ってください。
もくじ
新人薬剤師におすすめのたった1つの勉強法
新人薬剤師の勉強法の正攻法とは何ぞや
ただ本を読むのはあまりおすすめしないと書きましたが、「ただ」とは「漫然と」という意味です。
新人薬剤師の勉強法の正攻法とは何ぞや。
それは漫然となんとなく本を読んで勉強するのではなく、日々の業務で出会った処方箋でよくわからないもの、なんとなくわかるけど詳しくはわからないものから発生した疑問を一つ一つ解消していくことであり、それこそがたった1つの正攻法かつ薬剤師スキルUPの一番の近道であると私は思っています。
理由は簡単です。学校の試験でも事前にテスト範囲が発表されてその分野を勉強しますよね。試験範囲が神経薬理だけなのにNEW薬理学を最初から最後までくまなく読んだりはしないですよね(そういう人も中にはいましたが)。
薬剤師も同じです。職場によってよく出る、よく来る処方というのはある程度決まっているので、そこから発生した疑問を地道に一つ一つ解消していくことこそが結局は早道なのです。
その「疑問を解消する方法、解消した上で更に周辺知識を身につける方法」として本を読む、というのが新人薬剤師時代において正しい本の使い方であると言えるでしょう。
そこで、今回はそのような疑問を解消することができるような本、疑問を解消する手段を学べる本を中心に、私が実際に読んでみて新人薬剤師が読むべきだと自信を持ってオススメできる本を3つ選んでみました。
新人薬剤師が読むべき3つの本
感染症プラチナマニュアル
感染症・抗菌薬の知識は薬局の薬剤師でも病院の薬剤師でもドラッグストアの薬剤師でも慢性期でも急性期でもどこで働くにせよ、どの道に進むにせよ必ず必要になってきます。
感染症の本は世に数多ありますが、本書は知識がコンパクトにまとまっておりかつ過不足無く網羅されているため、とりあえずこれを一冊持っておけば間違いないでしょう。
何よりサイズが小さめで持ち運びしやすいことが大きなポイントです。いつでも持ち運んで気になったらすぐに調べることができるため「疑問を解消するための本」としては理想的と言えます。
職場の上司も本書を持っている人が多かったです。ちなみに私も常に職場に置いていて、よく空き時間にパラパラと読んでいます。
また、医師でも研修医のみならず感染症診療に携わるベテランも持っている人が多いとのこと。岩田健太郎氏曰く「日本版サンフォード・マニュアル」(抗菌薬の考え方、使い方ver.4の前書きより)。
その岩田先生の「抗菌薬の考え方、使い方」とどちらを挙げるか迷いましたが、「プラチナマニュアル」で端的に知識を得た後に「抗菌薬の考え方、使い方」でさらなる周辺知識を得るのがスムーズかつ王道であると思います。
「抗菌薬の考え方、使い方」は純粋に読み物として楽しく読むことができます(私が新卒のときはまだVer. 3だったのにもうVer. 5が出ています)。
感染症・抗菌薬の本は他にもおすすめがたくさんあるのですが、それはまたいつか別の記事にて紹介できればと。
ICU/CCUの薬の考え方、使い方
特にICUや救命病棟がある病院の薬剤師にオススメの本です。
世の新人薬剤師は皆一度は「ICUとか救命の薬ってなんだか添付文書と使い方が全然違う気がしてよくわからないんだけどどういうことなの……」と葛藤を抱えたことがあると言われていますが(私調べ)、この本を読むだけでだいたいその葛藤が解決します。
薬の具体的な使用方法はもちろんのこと、病態生理や治療指針など多岐にわたって相当詳しく書かれており内容がすさまじく濃いです。
ICUや救命病棟がある病院の薬剤師にオススメと書きましたが、注射薬だけでなく内服薬も抗凝固薬や抗不整脈薬、利尿薬など循環器の薬からステロイド、抗甲状腺薬、スタチン、抗けいれん薬、気管支拡張薬、抗菌薬などなどに至るまで幅広い分野がこれでもかというほど詳しく解説されているので、それ以外の薬剤師にももちろんオススメできます。
特に苦手な人が多いであろう循環器の薬の勉強はこれ1冊あれば十分すぎるのではないでしょうか。
正直結構ムズカシイので実は私もまだ半分も読めていないのですが、疑問を解消するために必要な部分だけ読んでいるのでそれで良いと思っています。
新社会人にとっては値段が少し高く感じるかもしれませんが、ずっと使えるのでおそらく買って後悔はしないはずです。
薬剤師のための医療情報検索テクニック
上記2冊には読むことで疑問がすぐ解決できるような本を挙げましたが、それらを読んでもわからない疑問というのはどうしても出てきます。たくさん。
そういった場合、新人時代であればとりあえず先輩に訊くというのは最もらしい解決法と言えます。先輩にもやる気のある新人だと印象付けることができるかもしれません。
ただ、その先輩の意見というのは本当に正しいのでしょうか。もしかしたら昔の知識を基に答えており、現状にはそぐわない知識かもしれません。
先輩を疑えというわけではありませんが、先輩の意見だからと鵜呑みにせず必ず後に自分で調べて確かめることが薬剤師スキル上達のためにはすごく大切なことだと思います。調べることで周辺知識も得ることができますし。
さて、ではどう調べればいいのでしょう。
新人時代は検索する術を知らず、ただなんとなく添付文書やインタビューフォームを見たりGoogle検索でとりあえず上位に出てきた記事を読んでみたりして、なんとなくわかったようなわからないような、曖昧な解決をして終了してしまうということが少なくないと思います。
そこで登場するのが本書です。
本書はそのような「知りたいことがあるけど知る方法がよくわからない」という新人薬剤師にはうってつけの本であり、添付文書やインタビューフォームから診療ガイドライン、医学論文やコクランライブラリーに至るまで様々な医療情報の検索テクニック、医療情報の活用法について学ぶことができます。
取り上げられているテーマも「チアマゾールとプロピルチオウラシル、副作用のリスクが高いのは?」や「桔梗湯で喉の痛みは本当に軽減するの?」のような医師や患者からの質問で実際にありそうなものだったり処方箋を見て実際に疑問に思いそうなものばかりが基にされているので、読んだ後すぐに自分の疑問にも役立たせることができます。
こういったテーマの本は得てしてお堅くムズカシイ内容のものが多いですが、本書は薬局の先輩と後輩による会話形式で読み進めることができるため非常に読みやすいです。読みやすいは正義。
後輩のエイコさんは新人薬剤師の設定なので新人薬剤師の方は感情移入して読めると思います。
本書で「知る方法」を知ることで、調べることが楽しくなりもっともっと調べたくなることうけあいです。
日々の業務でも何か調べることはないかと臨床上の疑問ことクリニカルクエスチョンを積極的に探すようになります。クリニカルクエスチョンを求めて職場を彷徨うようになれば一人前と言えるでしょう。
調べよう、疑問。解消しよう、クリニカルクエスチョン。
それが上達への近道であると信じています。
本の選び方について
基本的な選び方
もっとたくさん本が読みたい! 自分で選びたい! という新人薬剤師のあなたへ。
基本的には上述したように自分の疑問を解消することができるような本、解消した上で更に周辺知識を身につけることができる本というのを念頭に選ぶと間違いないと思います。
Amazonでカテゴリ毎に調べたり、薬剤師ブログでおすすめ本の記事を読んだり、本屋の医学書コーナーをぶらぶらしたりしてみましょう。
医師と違う視点を常にもつ
蛇足かもしれませんが、私が現時点で考えている本の選び方についてこっそり書き残しておこうと思います。今後また考え方が変わるかもしれないのであくまでも現時点での考えです。
たまに、やる気のある新人さんが診断学の本を読んでいたりします。
いろいろなことを勉強したいとやる気があるのは大変素晴らしいと思いますし、ある程度勉強し尽くして確固たる目的を持って読むというのなら別に何も問題ないとは思います。
しかし、新人薬剤師がいきなり手を出すのは個人的には一旦待ったと言いたいところです。
なぜなら、診断するのは医師の仕事だからです。
私は、医師と同じ視点で物事を考えていたら薬剤師の存在意義はないと思っています。
薬剤師としての専門性を発揮して医師と協働するためには、せっかく大学で長い時間をかけて学んだ薬理学や製剤学、薬物動態学など医師よりも薬剤師のほうが詳しいであろう知識を存分に活かすべきですし、そういった知識を深めることのできる本を読むべきなのではないでしょうか。
ちなみに、偉そうに書いておいて大きな声では言えませんがこれらはだいたい名著「実践薬歴」の受け売りです。
私の薬剤師としての在り方、考え方に大きな影響を与えてくれた本といっても過言ではないかもしれません。
以下、読んだ当時感銘を受けた言葉の一部を引用します。
医師と違う視点を常にもつ
どんな薬にも、目的とする作用(主作用)と好ましくない作用(副作用)が存在します。副作用のない薬なんて存在しません。だから、薬剤師は医師と協働できるのです。つまり、視点の違いです。医師は主に主作用をターゲットにし、薬剤師は副作用に重きを置くのです。副作用にターゲットすることで僕らは医師と連携できるし、薬剤師の仕事がなくなることはないわけです。
医薬分業は薬のダブルチェックではありません。医師と薬剤師という、立場や方法を変えて薬をみるクロスチェックなのです。
副作用の判別ができないようでは副作用の早期発見、早期対応の担い手にはなれませんし、それは医師だけではなく、薬剤師にも期待されている役割なのです。
山本雄一郎(2018)「誰も教えてくれなかった実践薬歴」じほう
実践薬歴、薬剤師におすすめの本を1冊選べと言われたら間違いなくこれなのですが、入職したばかりのときに読むよりは少したってから(病院薬剤師なら病棟に行ってから)読むほうが効果てきめんな気がしたので今回は入れませんでした。
でも全ての薬剤師が読むべき本だと思っています。
ちなみに薬剤師になったあとはどうしても用法とか用量を覚えることに気が向きがちで薬理学や製剤学、薬物動態学、有機化学などの知識は意識しないと徐々に忘れていってしまいます。
国家試験で勉強した知識を覚えている今がチャンスです。「薬剤師としての」知識、専門性を活かすことのできる素敵な薬剤師になってください。
まとめ
- 日々の業務で出会ったよくわからない処方箋から発生した疑問を一つ一つ解消していくことこそが正攻法かつ薬剤師スキルUPの一番の近道
- 疑問を解消する方法、解消した上で更に周辺知識を身につける方法として本を読むべし
- 調べよう、日々の疑問。解消しよう、クリニカルクエスチョン
- 医師と違う視点を常にもつ
【今回紹介した本】
抗菌薬・感染症の必携本→「感染症プラチナマニュアル Ver.7 2021-2022」 プラマニュと併せて→「抗菌薬の考え方,使い方 ver.5 コロナの時代の差異」 救命、循環器の薬なら→「ICU/CCUの薬の考え方、使い方 ver.2」 疑問を解消する術を知りたいなら→「薬剤師のための 医療情報検索テクニック」