「私はペニシリンアレルギーです」
と言う患者は少なくないですが、それを聞いて反射的に薬歴や電子カルテに登録してその患者にペニシリンやセフェムなどの抗菌薬が処方されるたびに疑義照会して他剤に変更を求めることは果たして本当に患者のためになると言えるのでしょうか?
ためにならないばかりか、むしろ害になってしまうかもしれません。
今回はそんな疑問に答えるべくペニシリンアレルギーに対する評価とマネジメント方法についての総説論文を基にビジアブ(ビジュアルアブストラクト)を作って、患者にペニシリンアレルギーと言われたときの正しい対応についてまとめてみました。
もくじ
患者にペニシリンアレルギーと言われたときの正しい対応とは?

今日入院した患者さん、ペニシリンアレルギーって言ってたから申し送りに登録してセフェム系とかが出たら止めてもらわなきゃ
申し送り:ペニシリンアレルギー……と

し、しばし待たれよ……!
本当にその人はペニシリンアレルギーなのか確認したのかな

はい、本人がペニシリンアレルギーって言ってたのでまちがいないです!

いつ頃、どんな症状だったかとかはちゃんと確認したのかしら?

え、症状?
聞いてないです……

なるほど……
よし、この論文を読んでみよう
【文献】ペニシリンアレルギーの評価とマネジメント
Review JAMA, 321 (2), 188-199 2019 Jan 15
Evaluation and Management of Penicillin Allergy: A Review
Erica S Shenoy, Eric Mac , Theresa Row , Kimberly G Blumenthal
- PMID: 30644987
- DOI: 10.1001/jama.2018.19283

アメリカ人の約10%は自分がペニシリンアレルギーであると報告している。高齢者や入院患者ではもっと多いとされる。

たしかにうちの患者さんには「我こそはペニシリンアレルギーなり」って言う人がたくさんいますよね

いるなあ

他の論文(PMID: 31993070)にも患者のうち9.89%が自分は抗菌薬アレルギーであると答えていて、そのうちペニシリンアレルギーが最多(全体の42%)だったと書かれていました!
T細胞依存性やIgE依存性の過敏症はまれ(5%未満)である。
その理由として近年は非経口ペニシリンの処方量が減少していることや、IgE依存性のアレルギーは時間とともに薄れてくる(80%の患者が10年後にはペニシリンに対して寛容になる)とされていることなどが挙げられる。

少ないですね

「感染症非専門医・薬剤師のための感染症コンサルテーション」にも次のように書かれているよ
ペニシリン投与による有害反応の頻度は一般的に0.7~10%とされています。さらに、ペニシリンアレルギーと自分で訴える患者の10~20%しか真のアレルギーではないともされます(皮膚反応試験で80〜90%は真のアレルギー反応を示さなかったとされます)。
岸田直樹(2014)「感染症非専門医・薬剤師のための感染症コンサルテーション」じほう

なんと、10〜20%しか真のアレルギーじゃないと……なんでそんなことに……!
抗菌薬適正使用の最終目標は患者からペニシリンアレルギーの報告を受けて不必要に広域抗菌薬に変更することを徐々に減らすことである。
ペニシリンを避けて広域抗菌薬に変更することで次のようなリスクがある。
- MRSAやVREを含む抗菌薬耐性菌の増加
- 広域抗菌薬の使用によるClostridioides difficile感染の増加

耐性菌、良くないですね……CD腸炎も良くないですね……
良かれと思ってやってたことが…………

あと、第一選択薬を不必要に避けることでその人は最適の治療がずっと受けられなくなってしまうということになるよね
もし真のアレルギーじゃなかった場合、それは悲しいことであるなあ
アレルギーに気を使うこと自体は良いことだと思うが、このようなリスクを避けるためにもきちんとした評価とマネジメントが必要なのだと思うよ

「抗菌薬の考え方、使い方」には次のように書かれているね
さて、ペニシリンにアレルギーがある、という患者さんに最初にすることは、本当にペニシリンアレルギーがあるのかを確認することです。「イヤー薬飲んだら下痢しちゃって」というのはよくある話です。これはアレルギー反応ではありませんね。
岩田健太郎(2018)「抗菌薬の考え方、使い方 ver.4」中外医学社

最適の治療をするためにも耐性菌とかCD腸炎とかを避けるためにも、真のアレルギーかどうかを確認することはとっても大切なんですね……!
確認……
…………
どうすればいいでしょう……!!

論文には患者の証言ごとにリスク分類をして、それぞれに対する対応が書かれてあるよ

おお!
早速見ていきましょう!
- 胃腸症状
- 発疹のない掻痒
- 単に家族がペニシリンアレルギーというだけ
- 10年以上前のIgE依存性が示唆されない症状

確かによくよく聞いたら下痢とか吐き気とかアレルギーっぽくないなあって人は以前いたかもしれないです!
- 蕁麻疹
- 発疹のある掻痒
- その他IgE依存性の特徴を持つ反応

むむ、蕁麻疹とか湿疹とかって言われると怪しくなってきますね
- アナフィラキシー
- 皮膚反応試験陽性
- ペニシリンアレルギーの再発歴あり
- 複数のβラクタム系抗菌薬にアレルギー歴あり

これはもう完全にアレルギーと言って良さそうですね……!

アナフィラキシーとかを判断するためには患者さんにはどう聞けばいいですかね?

感染症非専門医・薬剤師のための感染症コンサルテーションの「ペニシリンアレルギーが疑われる患者での問診のポイント」がとてもわかりやすかったよ
- アレルギーが起こったときの年齢
- 何に対して投与したのか?
- その際に出現した症状・皮疹はどのようなものであったか?
- 呼吸苦はあったか?
- 胸はヒューヒューいっていたか?
- 皮疹は局所のみか?
- それとも全身性か?
- 結膜・口腔内・陰部などの粘膜疹はあったか?
- 唇が腫れたりしなかったか?
- 投与から症状・皮疹出現までの時間
- 30分以内か?
- ほかに内服していた薬剤はなかったか?
- その出来事の前後にペニシリン系の投与を受けたことがなかったか、その際どうだったのか?

Ⅰ型(即時型)かそうじゃないかを判断するためにIgE依存性特有の症状やタイミングなどを細かく聞いたほうがいいんですね……!

そしてここからは対応ですね
直接アモキシシリンチャレンジが適切

アモキシシリンチャレンジとは?

超簡単に言うとアモキシシリンを少量から投与してちょっとずつ増やしていってアレルギーが起きないか確かめるテストのことだね。
通常量をそのまま投与することをリチャレンジとしている場合もあるようだが、方法とかは色々あるみたいだから詳しいことは興味があれば調べてくだされ。

確かに胃腸症状とかあまりアレルギーじゃなさそうなのはそのまま投与しても問題はなさそうですしね
今度調べてみます!
皮膚反応試験で95%以上で陰性が期待できる。
アモキシシリンチャレンジと組み合わせるとほとんど100%に近づく。

皮膚反応試験とは?

これも超簡単に言うとちょっと投与してみてアレルギーが起きないか確かめる試験のことだね。
「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン」に次のように書かれていたよ。
薬剤アレルギーにおける皮膚試験の検討からみると、病歴からアレルギーが疑われる患者においては、即時型薬剤アレルギーではプリックテストと皮内反応試験が薬剤に対するアレルギーの有無を局所の皮膚反応として調べる検査法として有用性が認められる
抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン(2004年版)

上記ガイドラインには方法も詳しく記載されているので興味のある人は要チェック……!(参考文献にリンク貼ってます)
特になし

ハイリスク群に関しては論文には特に何も書いてないですね

ハイリスクは問答無用でペニシリンは避けましょうってことだろうなあ
まとめ

まとめに何を書こうと思っていたら今回何回も引用している「感染症非専門医・薬剤師のための感染症コンサルテーション」に良い感じのまとめが既に書かれてたので引用します!
大切なのはカルテのアレルギー欄の情報や患者さんが言うペニシリンアレルギーという情報そのものを鵜呑みにしないことです。どのようなアレルギー反応があったかを、臨床推論の知識を活かして詳細に聴取できるようになることはとても重要です。しっかり病歴を聴取してきて「何だかペニシリンアレルギーっぽくないんですよね」と主治医に的確に情報提供できるようになりましょう。
岸田直樹(2014)「感染症非専門医・薬剤師のための感染症コンサルテーション」じほう

思考停止で薬歴に「ペニシリンアレルギー」と記載することはやめましょうということだね

反省しています。。。
ちなみにさっきの患者さんは子供の頃にたしかなんかの抗菌薬で下痢になった記憶があるから一応ペニシリンアレルギーって言ってるって言っていました

そこはかとなく低リスクのふんいき

先生に「何だかペニシリンアレルギーっぽくないんですよね」って言ってきます!!
- 患者のうち10%は自分がペニシリンアレルギーだと答える
- 実際のペニシリン投与によるIgEやT細胞依存性過敏症の頻度は5%未満
- ペニシリンアレルギーと訴える患者の10-20%しか真のアレルギーでないとされる
- 証言を鵜呑みにして必要以上にペニシリン・セフェムを避けると
- 薬剤耐性菌発現、Clostridioides difficile感染リスクの増加
- 最適な治療が受けられなくなる
- ペニシリンにアレルギーがあるという患者さんに最初にするのは本当にペニシリンアレルギーがあるのかを確認すること
- 患者に聞き取りをして証言を基にリスク分類し、そのリスク毎に対応する
- 「何だかペニシリンアレルギーっぽくないんですよね」と言えるようになる

じゃあ実際ペニシリンアレルギーが疑わしかったら、抗菌薬どうすればいいの?!
についてはまた今度まとめたいと思っているので乞うご期待ください!

記事書きました!
こちらも併せてどうぞ!
AMPCチャレンジも良いですが、私はTestDoseという方法を提案しています。
AMPCチャレンジは内服による負荷なので、臨床現場では意外と実行しにくい側面があります。また、他抗菌薬へ応用しにくいとも思われます。
Test Doseで、予想通りアレルギー反応を示した症例(医師より確認できてよかったと)、問題なく投与できた症例(T/PIPCでじんま疹→PCGで問題なし)、ともに経験あります。
ふろねこさん
いつもコメントありがとうございます。
確かにAMPCチャレンジは記事を書いているときにも思ったのですが院内でやっているケースは見たことないんですよね。
Test doseについて知らなかったので調べてみましたが、0.1-1%より開始して徐々に増量していくというものなんですね。確かに内服より実行しやすそうで、かつ応用が効きそうです。
T/P→PCGで問題ないケースもあるんですね。当院では完全にリスクを避けた選択をするかリスクが少なそうであればそのまま慎重投与というパターンが多いので、必要に迫られた場合はTest doseの提案についても考慮したいと思います。ありがとうございます。