前回記事で、患者にペニシリンアレルギーと言われたときは証言を鵜呑みにせず患者に聞き取りをしてリスク分類することが重要とまとめました。
では、実際にペニシリンアレルギーのリスクが高そうだった場合、真のアレルギーの可能性が高い場合、リスクを避けるための抗菌薬の選択はどうすればよいのでしょうか?
- ペニシリンアレルギーの患者にセフェム系は避けるべき?
- カルバペネム系は?
- モノバクタムは安全とされるけどどんな場合でも大丈夫?
そのような疑問に答えるべく文献を基にペニシリンアレルギーの場合の抗菌薬選択についてまとめています。
もくじ
ペニシリンアレルギーではセフェム系は避けるべき?
先輩!
前回、患者にペニシリンアレルギーと言われたときにどうすればいいかについて書いたじゃないですか
そうだったね
別の患者さんでセフェム系抗菌薬が処方になった人がいるんですけど、この記事を基に考えたらその患者さんはどうやら真のペニシリンアレルギーの確率が高そうなんですよね……
セフェム系とか他の抗菌薬ってペニシリンアレルギーのある人には投与しても大丈夫なんでしょうか?
ほう、では今回は
ペニシリンアレルギーのある患者に他の抗菌薬を投与しても大丈夫か
について調べてみようか
ペニシリンアレルギーでの抗菌薬の選択
ペニシリンアレルギーのある人にセフェム系を投与してアレルギーが起こる確率はどのくらいなんですかね?
今までの報告からだいたい次のようになっているようだよ
ペニシリン系にアレルギーがある場合には、セフェム系にもアレルギーがある場合があり、それを交差アレルギーとよび出現率は5~15%とされています
岸田直樹(2014)「感染症非専門医・薬剤師のための感染症コンサルテーション」じほう
世代によって差があり
- 第一世代
- 5〜16%
- 第二世代
- 10%
- 第三世代
- 2〜3%
世代が上がると低くなる傾向があるとされる
5〜16%と言われると結構多そうですけど、2〜3%と言われるとなんか少なそうな印象がありますね
2〜3%だから投与しても大丈夫!
とは言えないとは思いますが……
確率はわかったのですが、実際にそのような場合はどう考えればいいのでしょう
「感染症非専門医・薬剤師のための感染症コンサルテーション」に次のような記載があったよ
書かれていたのは「セフェム系にアレルギーがある場合」だったが「ペニシリン系」に置き換えても特に問題ないと思われるよ
- βラクタム系全般を完全に使用できないとする
- I型アレルギーだった場合
- 患者が重症な場合
- 最もリスク回避になる
- 抗菌薬の選択肢が大きく減る
- ペニシリン系はよいとする
- 現実的な考え方
- 同じβラクタム系でも世代を変えればよいとする
- 一番抗菌薬の選択肢が残った考え方
①I型アレルギーの病歴がある場合には極めて重篤なアレルギーなので交差アレルギーも含めて100%回避すべき
ペニシリンにⅠ型の即時型過敏反応(アナフィラキシーなど)がある患者の3〜5%にセフェム系との交差反応があると考えられ、このような患者には基本的にセフェム系も投与してはいけません
大野博司(2006)「感染症入門レクチャーノーツ」医学書院
3〜5%、少ないように感じますが当たったらもう大変なことになりますもんね
「ええい、ままよ」で投与するのはダメ、ゼッタイってことだね
②セフェム系による軽い薬疹程度であれば注意深くペニシリン系を投与することは可能とされる
Ⅰ型アレルギーなど重症薬疹でなければ選択肢の一つとして考えてもよいとされます。
軽い薬疹程度であれば、その原因は構造式における側鎖の問題程度のことが多く、世代を変えるだけでも改善することが多いといわれます。
岸田直樹(2014)「感染症非専門医・薬剤師のための感染症コンサルテーション」じほう
側鎖のもんだい……!
どんな問題なのか気になりますね
抗菌薬は側鎖の構造を変化させることで新しい種類のものが次々と開発されてきたんだったね
だがしかし……
なんということでしょう……
その側鎖自体がアレルゲンとなってしまいうるのである……!
そのため、共通した側鎖を持つ抗菌薬同士では交差反応を生じることがあるのだよ
ななな
なんということでしょう……!
気になるので早速まとめてみます!
緑枠がペニシリン系、青枠がセフェム系、オレンジ枠がカルバペネム系です
1、2、3、4はセフェム系の世代を示していてそれぞれペニシリンとの交差反応率を載せてみました
ちなみに側鎖は下図のRの部分ですね
アミノペニシリン(アモキシシリン、アンピシリン)とセファレキシンは側鎖を共有しているんだね
これらは避けるべきと言えそうであるな
図には載せませんでしたがセファクロル(ケフラール)とも一緒でした!
側鎖の構造を見比べると第1世代が交差反応の割合が高くて世代が進むにつれて割合が低くなっていくのがなんとなくわかる気がしますね
迷ったら一旦構造を見比べてみるというのは判断手段の一つとして良いかもしれないね
側鎖が似てるとどのくらいの確率で交差アレルギーがあるんですかね?
文献(PMID:31170539)をみてみよう
(J Allergy Clin Immunol Pract, 7(8), 2722-2738.e5 Nov-Dec 2019)
- 全く同じ(Identical)
- 16.45%(95%CI, 11.07-23.75)
- 半分くらい同じ(Intermediate similarity)
- 5.6%(95%CI, 3.46-8.95)
- あまり似てない(low similarity)
- 2.11%(95%CI, 0.98-4.46)
※側鎖の類似性はbioinformatic modelを基に検証し、Similarity score = 1をIdentical、0.563-0.714をIntermediate similarity、0.4未満をlow similarityとしている
これらはセフェム系の世代には関係ないとのことだよ
側鎖が全く同じアモキシシリン・アンピシリンとセファレキシン・セファクロル間では16%くらいの確率で交差反応が起きるんですね!
アナフィラキシーではない軽度なペニシリンアレルギーであれば下記に注意して慎重に投与することが考慮される
- 側鎖に注意する
- 側鎖の異なるセフェム系を選択する
- 第一世代ではなく、第二世代、第三世代を選択する
- 第三世代が一番交差反応が低い(2〜3%)
カルバペネムとの交差反応はどうなんでしょう?
避けるべきとの見解と大丈夫との見解がどっちもあるようだね
避けるべきとの見解
カルバペネム系はペニシリン系との交差アレルギーが強く、ペニシリン系にアレルギーの既往がある患者においては使用できません。
岸田直樹(2014)「感染症非専門医・薬剤師のための感染症コンサルテーション」じほう
ペニシリン系抗菌薬の次に注意すべきものとして、カルバペネム系抗菌薬があげられる。ペニシリン系抗菌薬との交差反応性が高いことから使用は避けるべきとされる。
陶山恭博・岡田正人(2012)「抗菌薬アレルギー」治療 Vol.94 No.11
大丈夫という見解
一般的にカルバペネムはペニシリンアレルギーがあっても安全に使用が可能です。とくにメロペネムについては多くの研究があり安全性が確立しています。
大野博司(2016)「ICU/CCUの薬の考え方、使い方 ver.2」中外医学社
Eleven observational studies on carbapenem cross-reactivity involving 1127 penicillin-allergic patients showed that the risk of cross-reactivity to any carbapenem was 0.87% (95% CI, 0.32-2.32).
ペニシリンアレルギーとカルバペネムの交差反応の確率は0.87%であった。
J Allergy Clin Immunol Pract, 7(8), 2722-2738.e5 Nov-Dec 2019
むむむ、どっちを信じればよいのでしょう
0.87%なら第三世代セフェムと同じくらいではありますが……
たしかに悩ましいが……
まあ、この場合もペニシリン→セフェムのときと同じようにI型アレルギーの病歴がある場合には100%回避で、軽度なアレルギーであれば側鎖に注意して投与できうるというので良いのではないかなあ
各々のケースでそれぞれ判断してくださいということですね
アズトレオナム(アザクタム)
ペニシリン系との交差アレルギーを持たず基本的には安全に使用可能
唯一セフタジジムとは側鎖を共有するため、セフタジジムでアレルギーのある患者への使用は避けるべきとされる
さっきの図に載せています!
完全に側鎖が一緒だね
- グラム陽性菌
- バンコマイシン
- クリンダマイシン
- グラム陰性菌
- アズトレオナム
- ニューキノロン
- 嫌気性菌
- クリンダマイシン
- メトロニダゾール
ペニシリン系抗菌薬に対してI型アレルギーの既往がある場合、安全を優先して交差反応リスクの少ないβラクタム以外、バンコマイシン、アミノグリコシド、ニューキノロンなどを選択する
βラクタムを完全に避けたいときはこれを参考に考えると良さそうですね
ペニシリンアレルギーでの抗菌薬の選択まとめ
まとめると
患者がペニシリンアレルギーだった場合
- アレルギーの評価をしてリスク分類する(前の記事)
- 評価したリスク分類を基に対応を考える
- その際、側鎖の類似性も考慮する
といった感じになりそうだね
やはり一番重要なのは最初の適切なアレルギーの評価ってことですね……!
- ペニシリン→セフェムの交差反応
- 第一世代:5〜16%
- 第二世代:10%
- 第三世代:2〜3%
- I型アレルギーの病歴がある場合には極めて重篤なアレルギーなので交差アレルギーも含めて100%回避すべき
- 交差反応リスクの少ないβラクタム以外(バンコマイシン、アミノグリコシド、ニューキノロンなど)を選択する
- 共通した側鎖を持つ抗菌薬同士では交差反応を生じることがある
- アミノペニシリン(アモキシシリン、ペニシリン)とセファレキシン、セファクロルは側鎖を共有しているためアレルギーがある場合これらは避ける
- 側鎖の類似性と交差反応率(ペニシリン→セフェム)の関係
- 全く同じ:16.45%
- 半分くらい同じ:5.6%
- あまり似てない:2.11%
- アナフィラキシーではない軽度なペニシリンアレルギーであれば下記に注意してセフェム系を慎重に投与できうるとされる
- 側鎖を確認する
- 第一世代ではなく、第二世代、第三世代を選択する
- 同様にセフェム系による軽い薬疹程度であれば注意深くペニシリン系を投与することは可能とされる
- カルバペネムはペニシリン系との交差反応性が高いことから使用は避けるべきという見解と安全性が確立されているという見解の両方がある
- メタアナリシスの結果ではペニシリン→カルバペネムの交差反応率は0.87%とも
- モノバクタムはペニシリン・セフェムとの交差アレルギーを持たず安全に使用可能だが、唯一側鎖を共有するセフタジジムへのアレルギーのある患者へは使用は避けるべき
参考文献
◆陶山恭博・岡田正人(2012)「抗菌薬アレルギー」治療 Vol.94 No.11
◆岸田直樹(2014)「感染症非専門医・薬剤師のための 感染症コンサルテーション」じほう ◆大野博司(2006)「感染症入門レクチャーノーツ」医学書院◆J Allergy Clin Immunol Pract, 7(8), 2722-2738.e5 Nov-Dec 2019(PMID:31170539)
◆大野博司(2016)「ICU/CCUの薬の考え方、使い方 ver.2」中外医学社