不眠・不穏時:リスパダール
不眠時:ベンゾジアゼピンのみ
あなたの病院では、こんな必要時指示が出ていませんか?
私の病院ではまさにこのような指示がテンプレと化して、誰に対してもさながら決まり文句かのようになっています。
これで効果があれば良いのですが、朝に看護師さんの申し送りを聞いていると
不眠時の薬を使ったところ、夜間全く寝ないばかりかかえってせん妄状態になってしまいました……。
不穏になって興奮状態が収まらなかったのでリスパダールを飲んでもらいましたが、全然効果ありませんでした……。
というような状況になってしまっていることが多いです。
毎週、いや毎日のように発生している気がします。
精神科医のいない当院では、薬剤に関して看護師さんからまず薬剤師に調整を依頼されることも多く「なんとかせねば」と思う機会が増えてきたので、一度自分の勉強も兼ねてせん妄に対して使う薬についてまとめることにしました。
もちろん「せん妄を発症したら全身評価、原因を突き止めて治療の見直しを1)」することが最重要だとは思いますが、本記事では「まず今晩どうすればよいか」に対応できるように薬剤に関して図解(インフォグラフィック)を作ってまとめていきます。
(Twitterに投稿したものを加筆修正したりデザインを改良したりして本記事に載せています)
- せん妄に対して使う薬、なんかイマイチよくわからないのよね……という薬剤師さん
- 病棟定数の不眠・不穏時薬について詳しい使い方を知りたいという看護師さん
- 薬理学などなどについて勉強中の薬学生さん
- その他せん妄に対して使用する抗精神病薬について学びたい医療従事者の方々
インフォグラフィックはとにかくわかりやすさを重視しているので、語弊や齟齬があるかもしれません。また、私も現在進行系で勉強中の身のため、何か間違っている点や補足点などがあれば教えていただけると幸いです。
「○○はいつもこんな場合によく効きます」
「こう書いているけど、実際使ってみたらこうでした」
など実際の使用感などもぜひコメント欄で教えてください。
- 2021/07/02 記事を公開しました。
- 2021/07/05 「おさえておきたいこと」にいくつか追記しました。
- 2021/07/09 クエチアピンを追加しました。
- 2021/07/15 リスペリドンとクエチアピンの比較を追加しました。
- 2021/08/13 ハロペリドールとトラゾドンとミアンセリンを追加しました。
もくじ
リスペリドン(リスパダール®)
チャート
それぞれの受容体遮断作用の強さをチャート化しています(強弱は文献1を参考)。
わかりやすさを重視してゲームのパラメータ表示っぽくしてみました。
リスペリドンは黄色のイメージがあるので黄色に。
「もちろん、これがすべてではないですが、この5つの作用を把握するだけで、たくさんあるせん妄の薬のしくみが、専門家ではない私たちにもよくわかってくると思います」1)
とのこと。さあ、ひとまずざっくりと把握してみましょう。
幻覚や妄想を抑える作用
×:強く遮断しすぎると錐体外路症状などの副作用が出てしまう。
催眠作用
○:呼吸抑制が無い
×:脳機能を低下させるため、せん妄の悪化(原因)にも繋がりうる。
鎮静作用
×:血圧低下
意欲改善、睡眠を深める作用(2Cのほうがより睡眠にかかわる)
せん妄改善効果もある
ざっくりと把握できたでしょうか?
これを基にチャートを見てみます。
D2が大きいのでひとまずリスペリドンは幻覚・妄想に対する効果が強そうということがわかりますね。
せん妄に対しての特徴
鎮静作用△・抗幻覚・妄想作用◎2)
5HT2Aは強いですが、より睡眠に関わる5HT2Cが弱く、5HT2A単独では入眠には不十分。加えて主催眠作用であるH1も弱いです。
しっかり眠ってもらうためにはある程度の量が必要ですが、D2が強いため増量すると副作用(錐体外路症状)発現のリスクが高くなってしまいます。1)
「日中にウトウトするのは困りますが、だからといって、夜には眠るほどではない薬であり、使いどころがなかなかむずかしい」1)
「眠らせる目的では使わない」1)
よくあるケースである「夜間にせん妄が発現したためリスペリドンを使用したが全然眠らなかった」というのは不思議なことではなく、むしろ当然というわけですね。
そのため、リスペリドンの使いどころとしては「日中の不穏で幻覚を伴う場合」というのがプロファイルにも合致しているでしょう。
(当初ツイッターに上げた際に「眠らせる作用はない」と記載していましたが、実際には「ない」わけではなく下段の記述とも矛盾してしまっていたため、誤解を避けるためにも「弱い」に修正しています。ただ、眠らせる目的では使わないためにも眠らせる作用はないと思っていたほうが良い場面もあるかもしれないとも思ったので、そういう意味では「ない」でも良いのかもしれません)
薬剤的な特徴+使用例
Tmaxは効果発現の目安として利用される指標です。
速やかな効果発現を必要とする頓服としての使用の際にはTmaxが早い薬剤が有用となるでしょう。
リスペリドンはTmaxが約1時間と他精神病薬と比べても早めなので、速やかな効果が期待できます。
「鎮静効果の遷延は睡眠覚醒リズムなどにも影響し、さらなる不眠を助長することにもつながりやすくなります。したがって各抗精神病薬のT1/2(臨床的には薬効の作用時間の目安となる)を知っておくことは重要であり、特別な理由がなければまず半減期の短い薬剤を選択し使用してみることが無難です」3)
リスペリドンはそれ自体のT1/2は約4時間と短めですが、活性代謝物のT1/2が約20時間と長めです。
そのため、眠前や夜間に服用した場合は翌日に持ち越してしまうことがあります。
肝機能や腎機能の低下によって薬効が遅延したり強くなったりすることがあるので注意する必要があるでしょう。
リスペリドンは活性代謝物が腎排泄なので、腎機能が低下している患者に使用すると排泄が遅延して体の中に長時間残ってしまうことになります。
そのため、腎機能障害を認める際には開始用量や増量幅を少なめに設定するよう留意することが大事です。2)
処方例は文献によって結構違いがあり、それぞれの施設での経験による判断に依るところが大きいのだと感じました。
そのため、記載の使用方法はあくまでも参考程度としてください。
インフォグラフィックに載せた使用例は少なめのものに合わせています。
文献では定期薬として使用する場合の用量も記載されていたため引用して載せていたのですが、Twitterに載せたところ「精神科医不在の状況では強い不穏がある場合0.5mLずつ頓服使用などに限定したほうが良い」とのコメントを専門家の先生より頂きました。
一度効果が出るとその後定期で漫然と継続する、ということが当院でも少なからずあるので、副作用の観点からは確かに頓服での使用のほうが良いのかもしれません。
「リスペリドンは幻覚妄想に対する効果は強いのですが、その一方で鎮静効果がやや弱いため、半減期の短いベンゾジアゼピン受容体作動薬(エスゾピクロンやブロチゾラムなど)を併用することがあります」2)
「ベンゾジアゼピン受容体作動薬の単独使用はせん妄惹起のリスクがあるため避けるべきですが、抗精神病薬と併用することでせん妄のリスクが抑えられ、むしろ有意な鎮静効果が得られることがあります」2)
ベンゾジアゼピンはせん妄に対して絶対悪だと思っていたのですが、上記のような記載を見つけました。
どちらも病棟定数に置いてある薬なので、これは看護師さんに伝えておくと良いかもしれないと思いましたが「ベンゾジアゼピンには様々な種類があって半減期の長短、筋弛緩作用の強弱などによる使い分けが必要であり即効性がある分依存性も高いので、精神科医がいる場合を除いてやめたほうが良い」とのコメントをTwitterにて専門家の先生より頂きました。
ベンゾジアゼピンはせん妄だけでなく転倒リスクにもなりますし、ベンゾジアゼピン以外にも様々な種類の薬があるのであえてそのようなリスクのあるベンゾジアゼピンの使用にこだわる必要は確かにないのかもしれません。
当院は病棟定数にベンゾジアゼピンしか置いておらず、気軽に不眠時使用→効果があったので定期処方へ→ずっと継続、となってしまう例が散見されるのですが、確かにこうなってしまうことが目に見えているのでやはり併用するべきではないですね。
(スタッフに何度か説明しても中々そのリスクをあまり理解してもらえず手をこまねいているところです)
余談:リスペリドンはお茶で飲んでいい?
本記事の趣旨とはずれますが、看護師さんからの質問を基にリスペリドンを飲み物と混ぜたときの含量低下について別記事でまとめています。
リスペリドンをお茶やジュースに混ぜて良いか気になる人はぜひ読んでみてください。
閑話休題。次の薬に行きましょう。
クエチアピン(セロクエル®)
チャート
セロクエル®のPTPが緑色なことから、なんとなくクエチアピンは緑色のイメージ。
H1が大きく、催眠作用や抗不安作用が強そうということがわかりますね。
せん妄に対しての特徴
鎮静作用◎・抗幻覚・妄想作用△2)
H1が強いことで催眠作用がしっかりとあります。1)
また、D2作用は弱く、幻覚・妄想に対する効果はほとんどありませんが、錐体外路症状などの副作用発現が少なくなることでむしろメリットになります。1)
そして半減期が短く、翌朝への持ち越しも少ない。
そのため、専門家からもせん妄の第一選択として挙げられることが多い9)ようです。
興奮が顕著なせん妄では、やはり強い鎮静効果を有するクエチアピンが第一選択薬となる7)
しかし、糖尿病で禁忌のため一定数の患者では投与が不適切となります。
病棟定数の不穏時薬としていつも使用するのではなく、個別に安全を確認できた患者にのみ使うのが良い1)でしょう。
薬剤的な特徴+使用例
Tmaxは約1時間であり、効果発現は早いです。
速やかな効果発現を必要とする頓服としての使用の際には、Tmaxの早いクエチアピンは使いやすい薬剤と言えるでしょう。
抗精神病薬特有の副作用である、振戦や動作緩慢といったパーキンソン症状が極めて少なく、比較的安全性が高いです。2)
実際にパーキンソン病治療ガイドライン20185)においても、パーキンソン病に対するクエチアピンの投与は許容されています。
CYP3A4で代謝されるため、CYP3A4の誘導薬や阻害薬との併用には注意しておく必要があると考えられます。
例えば、CYP阻害作用を有する薬剤がすでに使用されていれば、クエチアピンの血中濃度が上昇し、過度な鎮静や薬効の遅延が起こるリスクがあります。
- イトラコナゾール
- エリスロマイシン
- クラリスロマイシン
- ベラパミル
- シメチジン
併用により作用が増強することがある
- フェニトイン
- カルバマゼピン
- リファンピシン
- バルビツール酸誘導体
併用により作用が減弱することがある
実際には大きな問題になる可能性は低いと思われますが、抗精神病薬開始後に予想を超える過剰な効果が認められたり効果の遷延が認められたりした場合には、薬物相互作用の影響も考慮し中止や多剤への置換も含めて対処を検討する必要があるでしょう。3)
特に腎機能障害がある患者に対する減量等の用量調節は必要とされていません。
特別な理由がなければまず半減期の短い薬剤を選択してみることが無難3)であり、半減期が約3時間と短いクエチアピンは最初の選択肢として選びやすいでしょう。
半減期が短いことで、翌朝への持ち越しも少ないとされています。
やはり重要なので再掲しました。
平成14年に「セロクエル®投与中の血糖値上昇による糖尿病性ケトアシドーシス及び糖尿病性昏睡について」のイエローレターが出ていますし、死亡例も報告されているため、糖尿病患者への投与は避けるべきでしょう。
著しい血糖値の上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の重大な副作用が発現し、死亡に至る場合があるので、本剤投与中は、血糖値の測定等の観察を十分に行うこと。12)
(ツイッターにて最近では精神科限定で糖尿病患者にも使用されることがあるとコメントいただいたのですが……どうなのでしょうか? 薬剤の特性や副作用を熟知している精神科の先生ならあえて使用することもあるのかもしれませんが、私は見たことがありません……。糖尿病の入院患者がクエチアピンを持参していたら主治医に中止依頼するだろうと思います)
(後日追記→日本総合病院精神医学会が出版している「せん妄の臨床指針 第2版」に「わが国ではolanzapineおよびquetiapineは糖尿病に禁忌とされている。その根拠は科学的に明瞭とは言えず、臨床上も議論があり、わが国以外でこの禁忌に追従している国はない」との記載がありました。ただ、もしその状況で使用していて不測の事態が発生した場合に、添付文書に明記されている以上患者側に指摘されるとその説明がかなり難しくなるためリスク管理が必要であるといった旨の記載も同頁にされています。やはり、精神科以外ではあえて糖尿病患者に使用するべきではなさそうですね)
ハロペリドール(セレネース®)
セレネースことハロペリドールです。今までの2つとは違い注射薬です。
チャート
劇薬でアンプルが赤文字表記なのとPTPも赤文字なのとで、赤色にしてみました。
前2つと比べると顕著にチャートが小さく形が鋭利であり、特化型という感じがしますね。
D2が大きいことから、ひとまずリスペリドンと同様に幻覚・妄想に対する効果が強そうということがわかります。
せん妄に対しての特徴
鎮静作用△・抗幻覚・妄想作用◎2)
D2が強い半面α1は弱いので、鎮静作用はあまり期待できません。
文献でも「幻覚・妄想にしか効果がない」「ハロペリドールは寝れない薬」1)
と言い切っていました。
厳密には多い量で使用すると一定の鎮静効果が得られる場合もあるが、副作用領域での使用になる、と。
ちなみにセレネース®は当院の指示では「不穏時1A筋注」となっていることが多いです。1アンプルは5mg/1mLなので1回5mgになりますね。
この1回5mgは副作用領域での使用になるようです。
至適用量は1.0〜1.5mg(0.2〜0.3A)程度であり、この量で十分にD2受容体は遮断され、これ以上だと錐体外路症状が出現する可能性があるとのこと。1)
「数日は1mLを許容」1)できるようですが、連用する場合は0.2〜0.3mLとしておいたほうが良さそうですね。
薬剤的な特徴+使用例
まず、ハロペリドールがパーキンソン病に禁忌なのは押さえておく必要があるでしょう。
入院時指示で全員一律にハロペリドールが入っている施設は多々あると思いますが、パーキンソン病患者ではうっかり使用されることのないように入院のタイミングで削除してもらわなければなりません。
併せて重症心不全に禁忌というのも頭に入れておくべきですね。「重症」というのがどの程度なのかの咄嗟の判断は難しいかもしれませんが、頭に入れておけば条件に合致しそうな患者が入院した場合の使用是非の確認に役立つと思います。
筋注と比べて静注のほうが副作用が少なく、即効性も期待できる7)ようです。
当院の入院時指示は一律で「不穏時1A筋注」となっていますが「①静注または②筋注」のようにもしルートがある場合は静注を優先するなど、状況に応じて選択できるようにしておくほうが良いのではないでしょうか。
トラゾドン(レスリン®、デジレル®)
コアな(?)ファンが多い気がするトラゾドン。ツイッターのコメントでも好んで使用しているという医師の方が多かったです。
最近読んだ本、オニマツ先生の「ぶった切りダメ処方箋」にも
「入院中の不眠時指示」は何がいいかって話してたんだけど、たぶんレスリンなんじゃないかな、ということになった。
國松淳和(2021)「オニマツ現る!ぶった切りダメ処方箋」金原出版株式会社
と書かれていました。
チャート
デジレル25mgの印字が紫色だったことから紫にしました。
D2がないので幻覚や妄想に対する効果はなさそうですが、5HT2が大きめなので睡眠には効果がありそうです。
せん妄に対しての特徴
鎮静作用◯・抗幻覚・妄想作用ー2)
抗うつ薬としての評判は悲しいかな
「抗うつ薬であるにもかかわらず抗うつ作用が弱い」1)
「効果が弱くてほとんど忘れられている薬」2)
など様々な書籍で散々な言われようでした。
けれど、抗うつ作用が弱いということは副作用も少ないということ。
適度な鎮静作用を持ち、5HT2A、5HT2Cがしっかりあることで深睡眠を増やして自然な睡眠に近づけることができます。
興奮の強いせん妄には力不足なので、興奮の少ないせん妄に用いられます。
また、トラゾドンは高齢者への睡眠薬の「安全な」代替薬として用いられることが多いです。
「安全」という理由は次で説明します。
薬剤的な特徴+使用例
トラゾドンにはそのメリットとして筋弛緩作用が弱く転倒リスクが少なかったり、用量に幅があるため用量調節がしやすかったり、半減期が短いから翌朝への持ち越しが少なかったり、小規模ながらせん妄に対する効果が報告されていたりと様々な良いところがあります。
反面、色々な文献を読んでいてもトラゾドンに関してはデメリットの記載は少なかった印象です。
デメリットとは少し違いますが興奮が強い患者には不向きといったくらいでしょうか。
代表的な睡眠薬であるベンゾジアゼピンはせん妄を惹起するリスクがあるため、睡眠薬として使用されながらむしろせん妄に対する効果があるトラゾドンは高齢者でも比較的安全に使用できるでしょう。
これらがトラゾドンが高齢者への睡眠薬の「安全な」代替薬と言われる所以ですね。
また、抗コリン作用は参考にした文献1)では「100人に1人くらいのイメージ」との記載でしたが、Twitterに投稿したところ「もっと多いんじゃないだろうか」とのコメントを頂きました。
文献でも「イメージ」という言葉が使われていたので個々人の使用経験によって印象は変わるのだとは思いますが、とどのつまり割合が少ないにせよ多いにせよ口渇、ふらつき、排尿障害、便秘など抗コリン作用の症状について使用中はきちんとモニタリングすることが肝要と言えそうですね。
私も前向きに調査して「○○人に1人のイメージである」と言えるようになりたいと思います。
ミアンセリン(テトラミド®)
次はミアンセリン(テトラミド)です。
チャート
テトラミド10mgの印字が水色なので水色っぽくしています。
詳しくは後述しますが、トラゾドンの置き換えとして使用されることが多いという意見が多かったのでトラゾドンとの比較形式にしてみました。
重ねてみると、テトラミドとトラゾドンはほとんど同じ形ですが、テトラミドではトラゾドンにあまりないH1が強いのがわかりますね。
トラゾドンより催眠作用は強そうです。
せん妄に対しての特徴
H1が強いということで、抗ヒスタミン作用により催眠が得られやすいです。
その他はトラゾドンとだいたい同じような作用を持ちます。
シンプルな理解方法としては「トラゾドンと似たような薬剤であるが、トラゾドンよりも半減期が少し長くて、鎮静効果がやや強いのがミアンセリン」2)というのがわかりやすいでしょう。
そのため、基本的にはミアンセリンはトラゾドンで効果がなかったときの置き換えとして使用することが多いようです。
薬剤的な特徴+使用例
トラゾドンと比較して「半減期が長い」というのがミアンセリンの特徴として挙げられます。
半減期が十数時間(約18時間)あるため「遷延する場合が結構ある」1)とのこと。
添付文書では肝・腎障害患者には慎重投与となっていることなどもあり、高齢者への投与では遷延に十分な注意が必要であり、その場合は減量または他剤への変更が必要となります。
Coming soon……!
今後、他の薬剤についても順次追加していきます。
リスペリドンとクエチアピン
比較としてチャートを重ねてみました。
元々チャートにすれば複数比較しやすそうだなあと思ったのがきっかけで、本チャートを作り始めました。こんな感じに複数選択して比較できるアプリが作りたいっというひそかな野望があります。
どちらも形が特徴的であり、リスペリドンはD2が強くクエチアピンはH1が強いということがわかりますね。
次に特徴を比較してみました。ゲームの設定画面風。
リスペリドンは鎮静作用はやや弱い反面抗幻覚・妄想作用が強く、クエチアピンは鎮静作用が強い反面抗幻覚・妄想作用がほとんどない、と相補的な関係のようになっていますね。
効果発現はどちらも早いですが、半減期はクエチアピンが短い一方リスペリドンは活性代謝物が20時間と長めです。
2剤の使い分けについて。
シンプルに糖尿病が無ければクエチアピンを、あればリスペリドンとしている文献が多かったです。
(何やらキャラクターが喋っていますが、リスペリドンとクエチアピンの思念がそれぞれの薬剤のポイントについて語っている……というイメージで作りました。こういう感じのお勉強ゲームが作りたいというひそかな野望があります)
あくまでも対症療法
冒頭にも書きましたが、せん妄は一般身体疾患や薬物の影響などのさまざまな生理学的な要因が関与する病態であるため、治療の原則は原因の検索と除去にあります。10)
よって原因が取り除かれない限り改善は困難であり薬物療法はあくまでも対症療法であるということを意識しておく必要がある10)でしょう。
せん妄の薬物療法の注意点10) ①原因の除去が重要であり、薬物療法は対症療法 ②できるかぎり単剤治療 ③改善が得られたら漸減中止(退院時処方の際中止)
適応について
日本においてせん妄で保険適応となる薬はチアプリドのみで、他の抗精神病薬はすべて適応外として使用することになります。
2011年に厚生労働省から
「クエチアピン、リスペリドン、ハロペリドール、ペロスピロンの4剤について器質性疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性に対する適応外使用を審査上認める」
という通知が出されていますが、それでもこれらを含めた抗精神病薬はせん妄に対して保険適応が無いことには変わりないので、使用の際には患者やその家族に十分な説明を行い同意を得た上で投与することが望ましいです。
これはせん妄に関するどの本にも書かれていました。
そのうえで(同意を得た上で)、各薬剤の副作用プロフィールや投与経路について患者の現状と照らし合わせて検討し薬剤を選択する。そして、まずは単剤を少量からスタートし、効果および副作用の発現の評価を行いながら用量を調整していくことが基本となる。8)
また、「2005年のFDAのレポートで非定型抗精神病薬を認知症の行動異常に用いた場合に死亡率が1.6~1.7倍増加することなどの問題が指摘され、一時期せん妄に対し抗精神病薬の使用がためらわれた時期があった」10)ようです。
こういった報告も念のため意識はする必要がある1)でしょう。
しかし、その後の研究により総合病院などの管理が行き届いた環境では重篤な有害事象はほとんどみられないことが判明し9)たことや、上記厚生労働省の通達も考慮して「必要に応じた積極的な薬剤の使用が受け入れられたと考えている」10)という意見もありました。
一般病院では投与量の微調整や副作用の早期発見などの管理のもと、高齢者のせん妄に対する抗精神病薬のリスクは介護施設や外来での認知症に対する抗精神病薬とは異なり低い可能性がある。
ポイントは抗精神病薬の使用をいかに避けるかではなく、そのリスクをいかにモニターするかということなのかもしれない。
Int J Geriatr Psychiatry. 2014 Mar;29(3):253-62.
漫然投与について
せん妄に対して投与した薬剤を漫然と投与し続けることは望ましくないでしょう。
抗精神病薬の長期内服によって、遅発性の副作用(遅発性ジスキネジアと呼ばれる「口をもぐもぐさせる」「手足が勝手に動いてしまう」などの症状)が出現することがあるためです。7)
そのため、原則としてせん妄の直接因子(身体疾患や薬剤など)が取り除かれた段階ですみやかに投与薬剤の減量・中止を行う必要があります。7)
速やかに減量・中止を行い、もし薬剤投与中に転院が決まった場合は情報提供書にて薬の漸減・中止について提案しておくことが望ましいと種々の文献で記載されていました。
著者らは、できるかぎり単剤投与を目標としている。また,漫然と薬物を投与しつづけることがないよう定期的な観察を行い、改善が得られたら速やかに中止することを念頭においている。
せん妄の改善から7~10日程度で薬物を減量するとの報告があるが、著者らも認知症の合併例を除き、せん妄改善後数日で薬物の漸減中止が可能であると考えている。
医学のあゆみ 256(11): 1140-1144, 2016.
薬剤による「拘束」
ツイッターのコメントで専門家の先生に「抗精神病薬は薬剤による『拘束』」と教えていただきました。
適切に使用されれば非常に有効だが、過鎮静、誤嚥、転倒などのリスクは常にあると。
色々学ぶと気軽に試してみたくなりますが、このことは常に頭に入れておきたいと強く感じたのでここに書き記しておきます。
まとめ(図解)のまとめ(本記事)のまとめです。
いかがだったでしょうか。受容体遮断作用をパラメータで理解することで、それぞれの薬剤の特徴がおぼろげながら浮かんできたことと思います。
あくまでも本記事はきっかけとして、さらに学びたくなった人は素晴らしい成書が世にたくさんあるのでそれらを読んで勉強してみてください。
- 山川宣(2017)「今日の夜からはじめる一般病棟のためのせん妄対策」学研プラス
- 井上真一郎(2019)「せん妄診療実践マニュアル」羊土社
- 上村恵一ほか(2015)「がん患者の精神症状はこう診る 向精神薬はこう使う」じほう
- 済生会熊本病院「せん妄対応のステップ」(https://sk-kumamoto.jp/medical_quality/team_medicine/delta/detail/)
- 日本神経学会編「パーキンソン病治療ガイドライン2018」
- Y.Okumura et al(2016), Expert opinions on the first-line pharmacological treatment for delirium in Japan: a conjoint analysis, Int Psychogeriatr
- 井上真一郎編(2019)レジデントノート 2019年1月 Vol.20 No.15
- 日本サイコオンコロジー学会「がん患者におけるせん妄ガイドライン2019年版」
- Hatta,K.et al.:Antipsychotics for delirium in the general hospital setting in consecutive 2453 inpa- tients:aprospective observational study.Int1 leriatx Psychiatry,29:253-262,2014.
- 日野恒平, 竹内崇(2016)「せん妄治療に対する薬物療法的アプローチ」東京医科歯科大学医学部附属病院精神科, 医学のあゆみ 256(11): 1140-1144, 2016.
- リスパダール®内用液添付文書
- セロクエル®錠添付文書
- 日本総合病院精神医学会編(2015)「せん妄の臨床指針-せん妄の治療指針 第2版」
- 國松淳和(2021)「オニマツ現る!ぶった切りダメ処方箋」金原出版株式会社
会話形式で、わかりやすくためになる。
副題の「今日の夜からはじめる」は本当で、すぐに使える知識が満載です。
本記事はこの本から引用が一番多いかもしれません。
「日本をリードする岡山大学病院精神科リエゾンチームの診療ノウハウを余すことなく一挙公開」との帯のアオリ文の通り、この一冊があればせん妄対策の予備知識や鑑別、予防的介入から治療的介入まで一通りの知識を身につけることができます。
フローチャートや処方例も豊富かつクリティカルでとてもわかりやすいです。
新人のときに緩和ケアチームに所属している緩和薬物療法認定薬剤師の資格を持つ上司の勧めで購入した本。
せん妄だけではなく、がん患者の精神症状について非常に詳しく解説されています。
章の始まりに医師、薬剤師、看護師ができるようになっておくべきポイントがそれぞれ示されているので、ゴールを明確に思い浮かべながら読みすすめることができます。
日本総合病院精神医学会が発行している指針書です。
Kindle版が出ているので、どこでも持ち運ぶことができます。
オニマツ先生がダメな処方箋をぶった切ってくれます。
本屋で立ち読みしてみて、冒頭の数ページで頓服5回分の処方に対して「ていうか普通、錠剤は1シート10錠なんだから10錠とか出せよ。5回ってなんやねん。自分でハサミで切れや。5回分って気持ち悪いわ!!!」とオニマツ先生が言っているのを見て購入を決断しましたが、その決断は間違っていませんでした。
薬剤師同士では処方箋に関してあれこれ議論する機会はそれなりにありますが、医師が他の医師の処方箋に対してあれこれ言っているのは医学書でもあまり類を見ないのでためになり、かつ面白かったです。
バッサリぶった切りすぎていて思わず笑ってしまう箇所もちらほら。
ぶった切るだけではなく、きちんとした解説もあるので勉強になります。