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薬剤熱とは?起こしやすい薬や機序まとめ【抗菌薬やロキソニンでも起きる?】

抗菌薬を投与しているにもかかわらず解熱しない、全身状態が改善しない場合に検討すべき項目のひとつに薬剤熱などの非感染性疾患があります。

薬剤熱はその名の通り薬剤が関わる発熱のため、薬剤師もそれについて精通している必要があるでしょう。

薬剤師は、原因不明の発熱を認める患者を目の前にしたとき、「薬剤熱らしさ」について考えるべき筆頭の職種であるといえるでしょう

國本雄介, 月刊薬事 60(8): 1552-1560, 2018.

そこで、今回は薬剤熱の概要や薬剤熱を起こしやすい薬についてまとめてみました。

薬剤師うさぎ
薬剤師うさぎ

薬剤熱とはなんぞや?

そんな風に思っている人はぜひ読んでみてください。

注意

この記事は医療従事者・薬学生を対象としています。もし医療従事者以外の方が記載内容を読んで思うところがあっても自己判断で処方薬を減量・中止等したりせず、必ず担当医・担当薬剤師に相談するようにしてください。

抗菌薬無効時の対応

まず、抗菌薬無効時に考えるべきこととして文献では次の9項目が挙げられています[1]。

  1. 感染症ではなく、薬剤熱、悪性腫瘍、自己免疫疾患などの非感染性疾患
    • 対応:診断を再考する
  2. 抗菌薬無効の感染症→大部分のウイルス感染症
    • 対応:抗菌薬を中止する
  3. 抗菌薬選択の誤り(抗菌スペクトラム、カバーが不適切)、投与量・投与経路の誤り
    • 対応:抗菌薬の変更・追加、投与経路・投与量の変更
  4. 排膿ドレナージができていない、異物除去ができていない
    • 対応:外科的ドレナージ、デブリドマン、異物除去を行う
  5. 感染巣へ薬物が到達しない、細胞内増殖菌による感染
    • 対応:抗菌薬の変更
  6. 2種類以上の起因菌による感染
    • 対応:抗菌薬を併用もしくは変更
  7. 免疫不全や糖尿病など宿主防御能の低下
    • 対応:健常者の感染症に比べて軽快にかかる時間が緩徐であることを理解する
  8. 長期抗菌薬療法中の重複感染、真菌感染症合併
    • 対応:抗菌薬の併用もしくは変更、安定しているならば中止。抗真菌薬変更
  9. 起因菌の耐性化
    • 対応:抗菌薬の併用もしくは変更、薬剤感受性の再確認

抗菌薬投与にも関わらず全身状態が改善しない、解熱しない場合、むやみやたらとブロードスペクトラムの抗菌薬にエスカレーションするよりも、上記を順番に検討することで解決することがほとんどでしょうと述べられています。

その一番目に「薬剤熱」などの非感染性疾患があります。

そのため、薬剤熱とは、薬剤熱を起こしやすい薬とは、について薬剤師も把握しておく必要があるでしょう。

薬剤熱とは?起こしやすい薬まとめ

おおわし医師
おおわし医師

この患者さん抗菌薬ずっと行ってるのに熱が下がらないんだけれども、薬剤熱起こりそうな薬がないか調べてみてくれない?

薬剤師うさぎ
薬剤師うさぎ

薬剤熱ですね!

了解しました!!


薬剤師うさぎ
薬剤師うさぎ

…………

薬剤師うさぎ
薬剤師うさぎ

薬剤熱……とは??

プレーリードッグせんぱい
プレーリードッグせんぱい

ズコーーーッ

一緒に調べてみようか

薬剤熱とは?

薬剤熱とは非感染性の発熱のうちの一つです。

身体所見や検査所見から他の原因を認めず原因薬剤の投与に伴って起こり中止により改善する発熱と定義され、入院患者の原因不明の発熱の10%を占めるとされています。

薬剤熱は疑わなければ診断できないため「その可能性を常に疑う姿勢をもつこと」が大切と言われています。

ポイントとなる事項には以下のような項目が挙げられます。

薬剤熱ルールその2

薬剤熱を疑うきっかけとしては、

①薬剤熱を起こす薬剤が投与されている。

②発熱しているが、全身状態が良好である。

③薬剤中止後48〜72時間で軽快する。

④比較的徐脈 Relative bradycardia がみられることがある

※薬剤熱でもCRP上昇、白血球数上昇(左方移動を伴う)はある。また薬剤熱で好酸球増多、肝機能障害がみられるのは全体の50%である。

大野博司(2006)「感染症入門レクチャーノーツ」医学書院

上記引用では50%となっていますが、薬剤熱のうち白血球、好酸球数増加は22%に認められたとの報告もあるようです。

また、薬剤熱のうち皮疹を伴うものは18%であったとの報告もあるとのこと。

臨床的に経過良好で改善しているにもかかわらず発熱が続く場合は、強く薬剤熱を疑う必要があるといえると種々の文献で記述されています。

プレーリードッグせんぱい
プレーリードッグせんぱい

白血球や好酸球が上昇していないから、皮疹が出ていないからといって薬剤熱を否定することはできないということだね

好発時期

原因薬開始から発熱までの中央値は7〜10日との報告があります。

ただ、必ずしもこの期間しか発熱しないというわけではなく原因薬服用中はどのタイミングにおいても薬剤熱を発症する可能性はあるとされています。服用後数年後に発症する例もあるようです。

プレーリードッグせんぱい
プレーリードッグせんぱい

これも7〜10日じゃないから、ずっと飲んでるからといって可能性を除外することはできないということだね

薬剤熱を起こしやすい薬剤

臨床の現場での薬剤熱の原因No. 1は抗菌薬であるとされています。

薬剤熱を起こしやすいとして報告されている代表的な薬剤を図にしました。

薬剤師うさぎ
薬剤師うさぎ

熱を下げるはずのNSAIDsとか抗菌薬で発熱する可能性があるなんて、知らなかったら思いもしないですね……

薬剤熱の機序

薬剤熱の機序としては主に次の5項目が考えられています[2]。

体温調節機構の変化

過量投与の状態でのみ、この機序による薬剤熱が生じる

  • レボチロキシン:代謝を亢進する代表的な薬剤であり、直接的に熱産生を亢進する。
  • アトロピン、抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬:汗腺分泌を減少させ、熱放散を抑制する。

薬剤投与に関連した発熱

薬剤の夾雑物や内因性発熱反応により薬剤投与自体が発熱反応を引き起こす

  • 夾雑物:現在は精製技術の向上により改善されているが、バンコマイシンが代表的薬剤
    • バンコマイシンは現在では頻度は減少しているが、以前は「ミシシッピの泥」と言われるほど不純物が多く、この機序の発熱を起こす代表的な薬剤として知られていた。
  • アムホテリシンB、ブレオマイシン:薬剤自体が発熱活性を有している
  • 薬剤投与に関連した発熱は薬剤投与後数時間以内に発現する

薬理作用に関連した発熱

薬剤の薬理作用そのものによって生じる薬剤熱

  • 梅毒治療時のJarisch-Herxheimer反応など;破壊された菌体からエンドトキシンが放出され、発熱反応を引き起こす
  • ブレオマイシン、ビンクリスチン、シスプラチンなど:抗がん剤によって腫瘍細胞が破壊された際に内因性発熱物質が放出され、発熱反応を引き起こす
  • SSRIなど:過剰なセロトニン受容体刺激が引き金となるセロトニン症候群も発熱を引き起こす

特異体質反応

遺伝的素因を有する患者に生じる発熱性の特異体質的な薬剤反応

  • 悪性症候群:ドパミンD2受容体拮抗薬であるフェノチアジンやハロペリドールにより生じる。用量の増加1〜6日後に生じやすいとされている。
  • 吸入麻酔薬(ハロタン、イソフルラン、エンフルランなど)による悪性高熱

過敏反応

最も一般的な薬剤熱の機序

  • 液性免疫を介した機序が最も頻度が高く、次いでT細胞あるいは細胞性免疫を介したものが多い。
  • メチルドパや抗てんかん薬、抗菌薬、プロカインアミド、キニジン、アロプリノールなどがこの機序による。
  • 薬剤投与の数日〜数週間以内での発症が多い。
薬剤師うさぎ
薬剤師うさぎ

バンコマイシン、ミシシッピの泥とかひどい言われようですね

プレーリードッグせんぱい
プレーリードッグせんぱい

発売当初は不純物の多い褐色の物質で腎障害の頻度も多かったからそんな風に言われていたようだよ

薬剤熱に気づく手がかり

熱のわりに元気

発熱の程度は37℃〜43℃と幅があるが、通常は39℃〜40℃

発熱と重症度は関連がなく、体温を測定して初めて発熱に気づく場合も多い

薬剤師うさぎ
薬剤師うさぎ

熱のわりに比較的元気なことが多いようです

比較的徐脈

体温の上昇と比べて不適切に徐脈であるときのことをいい、次の表より脈拍が少ない場合のことを指します。

脈拍(回/分)体温
15041.1℃
14040.6℃
13040℃
12039.4℃
11038.9℃

Cunhaによる定義だと、13歳以上、体温38.9℃以上、脈拍が体温上昇時に同時測定されていることの3つが包括基準とされており、房室ブロック、ペースメーカー装着、β遮断薬、Ca拮抗薬内服中の患者などが除外基準とされています。

比較的徐脈は薬剤熱の症例の11%にのみ認められたとの報告もあるため、必ずしも全ての薬剤熱で起こるというわけではなく、比較的徐脈を起こす病態は他にも多数あります(レジオネラ症、オウム病、Q熱、チフス、中枢神経病変、悪性リンパ腫など)。

薬剤師うさぎ
薬剤師うさぎ

比較的徐脈ってめちゃストレートなネーミング

比較的徐脈だったら薬剤熱!とはいかないんですね……

プレーリードッグせんぱい
プレーリードッグせんぱい

まあでも手がかりの一つとしては比較的徐脈と比較的元気(熱のわりに元気なこと)は使えるということだね

薬剤熱に到達するまでのステップ

薬剤熱の診断に到達するまでのステップとして次の5つが示されています[4]。

血液培養陰性も含め、感染症の否定
薬剤熱を起こしやすい薬剤が投与されていることの確認
発熱しているが全身状態が良好であることの確認

例外的にアムホテリシンBや抗痙攣薬(フェニトイン、カルバマゼピン)による薬剤熱の場合、悪寒戦慄を伴うなど重症感がある

比較的徐脈、好酸球増多、肝機能障害

これらが原因薬剤投与後に同時に見られれば、薬剤熱の可能性が高まる

薬剤中止48〜72時間以内に軽快することを確認

薬剤熱の治療

原因薬剤の中止

被疑薬の特定は難しいので重症度によっては疑わしい薬剤、最近開始された薬剤、必要ない薬剤はすべて中止が望ましいですが、過敏反応がない発熱であれば最近開始された薬剤や可能性が高い薬剤のみの中止でも良いともされます。

通常48〜72時間以内に解熱が認められますが、半減期の長い薬剤だともっと時間がかかることもあるようです。

その薬剤の継続が必要な場合は、構造の異なる他剤への変更が推奨されます。

薬剤師うさぎ
薬剤師うさぎ

疑わしき者は罰せよ

プレーリードッグせんぱい
プレーリードッグせんぱい

すべからく罰すべし

まとめ

  • 薬剤熱とは身体所見や検査所見から他の原因を認めず原因薬剤の投与に伴って起こり中止により改善する発熱
  • 原因薬開始から発熱までの中央値は7〜10日だが、どの期間でも起きる可能性はある
  • 薬剤熱No. 1は抗菌薬だが、その他いろいろな薬剤で報告されている
  • 薬剤熱は5つの機序が考えられている
  • 薬剤熱に気付く手がかりとして比較的徐脈比較的元気がある
  • 原因薬剤の中止で通常48〜72時間以内に解熱が認められるが、半減期の長い薬剤だともっと時間がかかることもある
  • 薬剤師は原因不明の発熱を認める患者を目の前にしたとき「薬剤熱らしさ」について考えるべき筆頭の職種!

参考文献

[1]大野博司(2006)「感染症入門レクチャーノーツ」医学書院

[2]丹羽隆(2019)「薬剤熱とその対応」月刊薬事 61(16): 3027-3031

[3]國本雄介(2018)「この「発熱」はST合剤による薬剤熱ですか?」月刊薬事 60(8): 1552-1560

[4]大野博司(2009)「薬剤熱」臨床研修プラクティス 6(12): 24-26

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