ねえ、患者さんが眠れないって言ってるから先生に眠剤を出してもらおうと思うんだけど何を提案すれば良いかな?
うーん、ロゼレムとかどうだろう?
ふっ……ロゼレムね……
な、なによ?
ロゼレムで寝れたって言ってる人、あまりいないイメージなんだよねえ……
(えぇ、そうなの?)
シュババババ
あなたはいまえぇ、そうなの? と思っていますね
わっせんぱい…!
ロゼレムってなぜか軽視されることが多いですよね……
ふむ、軽視されがちロゼレムくん……か
では今回はロゼレムくんはしっかりと寝られるのかについて、作用機序や実際の報告から検証していこうか
もくじ
ロゼレムって本当にしっかりと寝られるの?
メラトニンとラメルテオンのはたらき
まずはメラトニンのはたらきについて復習しましょうぞ
睡眠と覚醒のリズムを作っているんですよね
メラトニンとは、脳にある松果体から夜間に分泌されるホルモンのことです。
動物において概日リズム、睡眠、免疫、生殖機能など様々な生体機能に影響を与え、体内時計の機能に関与しています。メラトニンが作用する受容体のうちMT1とMT2受容体は脳内に広く発現しており、メラトニンの脳に対する作用発現に重要な役割を果たしているとされています。
MT3受容体は脳のほか、肝臓、腎臓、心臓、肺など全身に分布し炎症反応への関与が考えられていますが、詳細については未だ不明な点が多いようです1)。
メラトニンの分泌調整により体内時計の規則的なリズムが作られていて、起床して日光を浴びた14~16時間後より分泌、その1~2時間後から睡眠状態を誘発するとされています。
そして、翌朝に日光を浴びると急速に分解されて睡眠状態がリセットされ、健常な覚醒に至ります。寝起きに日光を浴びると良いとされているのはこのためですね。
また、メラトニンは加齢とともに分泌量が低下し2)、体内時計の乱れを生じることで高齢者の不眠の原因となっていることが推察されます。
また、日光以外の人工光でもその分泌リズムは乱されることが知られており3)、夜間にパソコンやスマートフォンを長時間操作することやテレビを見ることなどによる光刺激で、規則正しい睡眠覚醒リズムが乱されてしまう可能性があるでしょう。
上述したようにメラトニンは夜間にのみ分泌され、尿中メラトニン代謝産物が最も高い夜中で最も眠気が強いということが示されています4)。その一方でヒトの睡眠にメラトニンは必須ではないとされ、脳外科の手術で松果体を切除したとしても睡眠障害が起こることはまれのようです5)。
ラメルテオン(ロゼレム)はMT1受容体とMT2受容体に選択的に結合します1)。
他の受容体には作用せず中枢神経の直接的な抑制作用を有していないことから、ベンゾジアゼピン系睡眠薬で見られ、しばしば問題となるような反跳性不眠や離脱症状、乱用・依存性また筋弛緩作用によるふらつきなどのなどの副作用は見られません。こういった副作用が起きにくいことは、特に高齢者への投与においては大きな利点となるでしょう。
一方で長期投与により血清プロラクチン値の上昇やテストステロン値の低下が起きる可能性があります。添付文書6)にはラメルテオンの投与によりプロラクチン上昇があらわれることがあるので、月経異常、乳汁漏出又は性欲減退等が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うことと記載されています。
ラメルテオンの入眠促進効果は主にMT1受容体に対する作用により、深部体温低下、血圧低下、交感神経機能低下などの視交叉上核を介した身体的な休息促進作用と関連していると考えられています7)。
また、ラメルテオンはMT2に対しても強力に結合するため、概日リズム位相を変化させる作用、つまり概日リズム睡眠障害における睡眠位相の後退や前進の治療に役立つことも期待されます8)。
これらのことから、ラメルテオンの治療ターゲットとなる主な患者層としては次の2つが挙げられます9)。
1つは夜型化した不規則な生活によりメラトニンによる体内時計のリズムが乱れたいわゆる現代型の不眠患者で、もう1つは加齢により夜間のメラトニン分泌量の減少・枯渇を原因とする内因性の睡眠・覚醒リズム障害を伴う不眠患者です。
これらの体内時計のリズムの乱れによって生じている睡眠覚醒リズム障害を伴う不眠に対しては鎮静作用や抗不安作用を主軸とする従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬では不十分と考えられるため、ラメルテオンがその効果を十分に発揮できるのではないでしょうか。
実際の効果はどのくらい?
へえ、作用機序を聞くとちゃんと効きそうな雰囲気……
でも実際に投与してもその通りになるの?
ふむ、では実際の臨床効果を見ていくとしよう
ラメルテオンの短期使用は不眠症患者の入眠の改善と関連しますが、その効果量は比較的小さいようで臨床的には有意でない可能性があるとされています10)。
メタアナリシスでは、ラメルテオンはプラセボと比較して主観的睡眠潜時(-4.6分)と総睡眠時間(7.3分)の改善と関連していたが、主観的総睡眠時間、覚醒回数、入眠後の覚醒など他のパラメータでは有意差はなかったとのこと11)。
しかし短期的には有意でなくても、中長期的に投与した場合であればどうでしょう。
慢性不眠症患者190例(年齢:21〜81歳、中央値47歳)を対象とした長期投与試験において、ラメルテオン8mgの投与により睡眠潜時の短縮は長期にわたり維持されたとの報告6)があります。
消灯から睡眠までの時間を表す睡眠潜時(分)が投与開始前は70.51±47.58だったのに対し、第1週では54.35±37.32、第4週では43.04±27.64、第24週では38.83±29.11だったとのこと(図1)。単盲検試験ではあるものの、最終的に30分程度は入眠までの時間が短縮されているようです。
図1 ラメルテオンの長期投与における睡眠潜時(分)の推移 6)より作成
また、別の多施設による特定使用成績調査では、207例における最終評価時の睡眠潜時の平均値は38.9分だったとの報告12)があります。投与前後差の平均値は-60.1分であり、総睡眠時間も増加し中途覚醒も減少が見られ、それらは投与4週後以降投与52週後(または投与終了時)まで持続したようです。
また、Patient Global Impression of therapy(PGI)調査での入眠において、「とてもよくなった」または「少しよくなった」と評価した症例の割合は投与4週間後は80.2%であり、投与52週後(または投与終了時)は93.2%、最終評価時は85.5%だったとのこと。
他でも、投与4週後から有意に睡眠潜時や夜間覚醒回数が改善したという報告13)があり、これらからラメルテオンにおいては短期的に入眠効果を求めるのではなく、中長期的に考えていくというのが望ましいのではないでしょうか。上述した報告からは少なくとも4週間程度は継続するのが良さそうです。
さて、入院患者の場合だと4週間も待てないと思う人もいるかもしれません。入院環境においてはあまり使いどころがないかというとそうではなく、ラメルテオンは入院患者に対する予防投与でせん妄の発生を減少させたという報告があります13)。
せん妄は睡眠覚醒リズムが乱れる患者がほとんどなので、作用的に考えるとその補助としては有用と考えられますね。せん妄ハイリスクに該当する患者には入院時から飲んでもらうというのもせん妄予防の手段の一つとして挙げられるため14)、入院環境だとしても使いどころはしっかりとあると思います。
患者説明のポイント
なるほど、患者さんにも事前にポイントを伝えたほうが良さそうですね
うむ、患者説明のポイントや気をつけるべきことについて見ていこう
ラメルテオンは投与4週間までの脱落が多い一方で、その後の継続率はほぼ保たれていたという報告15)があります(図2)。
図2 ラメルテオンの服薬継続率(%)
ラメルテオンを処方されたけれど、数回飲んでみて全然効かないと思って飲むのを止めてしまう……という人は結構多いのではないでしょうか?
しかし、上述したように安定した効果が得られるまでには時間がかかることを考えると、ラメルテオンを服用する際はすぐに寝られることを過度に期待するのではなく中長期的な展望で服用を継続していく必要があるため、そのことは事前に説明しておくべきでしょう。
また、薬に頼るだけではなく、生活習慣の見直しを図ることも大事です。
特に上述したような現代型の睡眠覚醒リズム障害に伴う不眠患者の場合には、生活習慣の見直しによる効果が期待できると考えられます。
就寝前に長時間スマートフォンをいじったりテレビを見たりゲームをしたりするのを控えることや、カフェインの多いお茶やコーヒーなどは就寝4時間前までに飲み終えること、夕方以降に昼寝をするのは避けることなど一般的な睡眠衛生についての患者指導も意識して行うようにしましょう。
厚生労働省の研究班によって作成された睡眠障害対処 12の指針(図3)などを参考にすると良いかもしれません。
図3 睡眠障害対処 12の指針 16)より作成
また、併用薬の確認も必須です。
例えば、ラメルテオンはうつ病に用いられる選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のフルボキサミンとは併用禁忌となっています。代謝酵素の阻害によって最高血中濃度、AUCが顕著に上昇するとの報告があり、併用により本剤の作用が強くあらわれるおそれがあるためです。
この「顕著」というのがどのくらいかというと、健康成人(23例)を対象に、ラメルテオン8mgをフルボキサミン1日1回200mgの7日間反復経口投与の7日目に併用投与したとき、単独投与時と比較してCmax及びAUC0-infは未変化体でそれぞれ約27倍及び82倍に増加したとの報告6)があるようです。
この数字を見ると、両者の併用は絶対に避けなければならないというのがわかりますね。
また、キノロン系抗菌薬やマクロライド系抗菌薬、アゾール系抗真菌薬とは代謝酵素の阻害によって効果が強く現れる可能性があるため、また反対にリファンピシンとは代謝酵素の誘導によって逆に効果が減弱する可能性があるため添付文書では併用注意に設定されています6)。
どれも服用している患者は少なくないと思うので、新規処方時には必ず併用薬を確認するようにしましょう。
まとめ
なるほど! ロゼレムは正直あまり効かないと思ってたけど使いどころを見極めるとしっかり効く薬なんだね
事前の説明不足が原因で患者さんが飲むのを途中でやめてしまったら悲しいのでしっかりと説明するようにしたいところです…!
生活習慣の見直しも大事だね。睡眠衛生についても患者さんに説明できるように勉強していこう
ラメルテオンはすぐに寝られることを過度に期待するのではなく、中長期的な展望で服用を継続していく必要がある…!
4週以内に服用をやめてしまう人が多いため、その特徴について事前にしっかりと説明することが大事!
参考文献
(1)Karl Doghramji : Melatonin and Its Receptors: A New Class of Sleep-Promoting Agents, J Clin Sleep Med. 2007 Aug 15; 3(5 Suppl): S17–S23.
(2)Y Touitou : Human aging and melatonin. Clinical relevance, Exp Gerontol. 2001 Jul;36(7):1083-100.
(3)Zeitzer JM et al:Sensitivity of the human circadian pacemaker to nocturnal light:melatonin phase resetting and supPression.J Physiol 2000;526(Pt 3):695-702
(4)Tzischinsky O, et al : The association between the nocturnal sleep gate and nocturnal onset of urinary 6-sulfatoxymelatonin. J Biol Rhythms, 8 : 199-209, 1993
(5)Arendt J : Importance and relevance of melatonin to human biological rhythms. J Neuroendocrinol, 15 : 427-431, 2003
(6)ロゼレム錠 添付文書
(7)内山真, 金野倫子:治療薬を使いこなす メラトニン受容体アゴニスト, 月刊薬事 56(4): 511-516, 2014.
(8)Hirai K, et al : Ramelteon(TAK-375) accelerates reentrainment of circadian rhythm after a phase advance of the light-dark cycle in rats. J Biol Rhythms, 20 : 27-37, 2005
(9)大林浩幸: 第37回 Question メラトニン受容体作動薬ラメルテオンについて, その特性と, 特にプライマリーな診療での有用な使い方のコツを教えてください. 患者さんのアドヒアランスを維持する説明のポイントはありますか?, 睡眠医療 10(1): 145-151, 2016.
(10)Sateia MJ, Buysse DJ, Krystal AD, Neubauer DN, Heald JL ,Clinical Practice Guideline for the Pharmacologic Treatment of Chronic Insomnia in Adults: An American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline. , J Clin Sleep Med. 2017;13(2):307.
(11)Kuriyama A, Honda M, Hayashino Y Ramelteon for the treatment of insomnia in adults: a systematic review and meta-analysis., Sleep Med. 2014 Apr;15(4):385-92. Epub 2014 Feb 8.
(12)内山真ほか:入眠困難を伴う不眠症患者に対するラメルテオンの長期使用時の安全性および有効性の検討 – ロゼレム(R)8mg錠特定使用成績調査結果 -, Geriatric Medicine(老年医学) 54(11): 1159-1177, 2016.
(13)Kotaro Hatta et al : Preventive effects of ramelteon on delirium: a randomized placebo-controlled trial, JAMA Psychiatry. 2014 Apr;71(4):397-403.
(14)山川宣(2017)「今日の夜からはじめる一般病棟のためのせん妄対策」学研プラス
(15)大林浩幸:不眠症患者における, ラメルテオン(ロゼレム(R))の睡眠覚醒リズム改善効果, 新薬と臨牀 62(6): 1122-1133, 2013.
(16)睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会編, 睡眠障害の対応と治療のガイドライン