内服抗菌薬の重要ポイントをまとめています。
「内服抗菌薬ってたくさんあるけど、どう使い分けてるの?」
という人のために、これさえ読めば内服抗菌薬についてなんとなく使い分けがわかるというまとめを目指しています。
色々な抗菌薬関連の本からの情報をまとめています。今後、新しい知見を入手したらどんどん追記していきます。
もくじ
ペニシリン系
アモキシシリン(サワシリン)
- スペクトラム
- 溶連菌、肺炎球菌、大腸菌に加え感受性があればProteus、Salmonella、Shigella、H. influenzaeのβラクタマーゼ非産生菌
- アンピシリンと同一スペクトラム
- バイオアベイラビリティ:74~92%
- 溶連菌咽頭炎、細菌性の中耳炎や副鼻腔炎、肺炎球菌肺炎、丹毒など多くの外来感染症で第一選択
- 処方例
- A群溶連菌咽頭炎、副鼻腔炎、中耳炎:1回500mg1日3回
- 感受性ある大腸菌などの尿路感染症、肺炎球菌性肺炎:1回500㎎1日3~4回
- ピロリの除菌:1回750mg1日2回
- 連鎖球菌の骨髄炎や感染性心内膜炎、梅毒:1回1g1日3回
アモキシシリン・クラブラン酸(オーグメンチン)
- 多くのグラム陰性菌(緑膿菌など除く)、嫌気性菌に効果がある
- βラクタマーゼ産生菌にも効く
- ピシリバクタと同一スペクトラム
- バイオアベイラビリティ:90%・60%
- 日本で発売されているものはアモキシシリンの含有量が少ないが、単純に増やすとクラブラン酸の投与量が増えて下痢などの副作用が増える
- そのためアモキシシリンを併用する(オグサワ)
- 処方例
- 副鼻腔炎、中耳炎、市中肺炎、腹腔内感染症:オーグメンチン1錠+サワシリン1錠を1日3回
セフェム系
セファレキシン(ケフレックス)
- 第一世代
- MSSAを含めたグラム陽性球菌に有効であり、軽症の皮膚軟部組織感染に良い
- 乳腺炎、溶連菌咽頭炎にも使用できる
- 大腸菌にも感受性があるため、膀胱炎にも使用可能
- de-escalationとして感受性があれば使う
- バイオアベイラビリティ:99%
- 処方例
- 黄色ブドウ球菌をふまえた感染症:1回2cap1日3回
- 市中肺炎・尿路感染でのde-escalationでクレブシエラ、プロテウス、大腸菌
- 創傷処置後の内服
- 咽頭炎で伝単(IM)心配:1回2cap1日2回
セファクロル(ケフラール)
- 第一世代(米国などでは第二世代と分類)
- セファレキシンに比べて……
- レンサ球菌に活性がある(←ペニシリンのほうが有利)
- 黄色ブドウ球菌には活性が低い
- グラム陰性菌(腸内細菌科など)に対する広い活性あり(←そもそも皮膚軟部組織感染症ではカバーする必要がない)
- 血清病様反応を起こしやすい
- 食事とともに服用すると濃度が下がる
- 呼吸器組織への移行性が悪い
- セファレキシンの利点を考えると、セファクロルの臨床的な使い道はない
セフロキシム(オラセフ)
- 第二世代
- H.flu、Moraxellaなどグラム陰性桿菌に対する効果の増強
- グラム陽性球菌には効果が落ちている
- 肺炎球菌に対して有効であるがPRSPには無効
- 理論的には使い道はあるが、使わない
- バイオアベイラビリティ:35-45%とあまりよくない
セフジトレンピボキシル(メイアクト)、
セフカペンピボキシル(フロモックス)、
セフジニル(セフゾン)、
セフポドキシムプロキセチル(バナン)
- 第3世代
- 多くの第3世代セフェム系経口薬にはあまり違いがない
- ピボキシル基による低血糖も問題
- 消化管からの吸収が不良であり、原則として使用しない
- バイオアベイラビリティ:メイアクト16%、フロモックス35%、セフゾン25%、バナン46%
- バナンはまあまあ
- 安易な処方は切り札であるはずの第3世代セフェム系の耐性菌を蔓延させるリスクがある
- 感冒→抗菌薬自体不要
- 蜂窩織炎、溶連菌感染、膀胱炎、中耳炎→セファレキシンやアンピシリンの使用が推奨される
ニューキノロン系
シプロフロキサシン(シプロキサン)
- 第2世代
- 緑膿菌に活性あり
- バイオアベイラビリティ:80%
- 前立腺への移行が良い
- 連鎖球菌ははずしていると考える、嫌気性菌も×
レボフロキサシン(クラビット)
- 第3世代
- 緑膿菌に活性あり
- 前立腺への移行が良い
- 肺炎球菌への抗菌活性が高まっているが、CPFXに比べて緑膿菌に対する抗菌活性は下がる
- バイオアベイラビリティ:98%
モキシフロキサシン(アベロックス)、
メシル酸ガレノキサシン(ジェニナック)、
シタフロキサシン(グレースビット)
- 第4世代
- より肺炎球菌への抗菌活性が高い(しかしレボフロキサシンで十分有効)
- 嫌気性菌への抗菌活性あり
- 緑膿菌への抗菌活性は低い
- モキシフロキサシンは尿路への移行性が悪いため(半分が肝代謝)、尿路感染に使用してはいけない
- 温存すべき薬剤
キノロンの処方例・ポイント
- 市中の尿路感染
- 淋菌、クラミジアを考えて尿道炎や子宮頚管炎に
- 急性細菌性下痢症にはシプロフロキサシン3日間
- 旅行者下痢症
- 濃度依存性
- Fe、Al、Mgを含む制酸剤との併用は避ける(吸収阻害)
- 副作用:消化器症状、頭痛、めまい、不眠、イライラなど
- クラスⅠ、Ⅲの抗不整脈薬内服患者でのQT延長あり、併用すべきでない
- NSAIDs併用での痙攣あり
- テオフィリンやWFの血中濃度を上げる可能性あり
- 18歳以下の小児、妊婦、授乳婦には小児の軟骨形成障害の可能性あり、原則使用しない
- 単剤でMSSAの治療に使用することは推奨されない
- 尿路感染の原因菌として最多である大腸菌の40%がキノロン耐性
- キノロンはファーストラインに使うべきではない
- 緑膿菌やグラム陰性桿菌の選択肢、抗結核菌薬をキープするという意味でもキノロンはできるだけ使わないという原則で臨むべき
- 膀胱炎にはバクタなど
マクロライド系
クラリスロマイシン(クラリス)
- インフルエンザ菌への抗菌活性が高い
- 非定型肺炎、非結核性抗酸菌、ピロリへの抗菌活性あり
- 肺炎球菌の耐性が高い
- アジスロマイシンに比べ消化管副作用、薬物相互作用が多い
- 妊婦への投与はカテゴリーCであり避ける
- アジスロマイシンはカテゴリーBであり投与可能
- 非結核性抗酸菌への効果はアジスロマイシンより優れる
- バイオアベイラビリティ:50%(良くない)
アジスロマイシン(ジスロマック)
- 非定型肺炎、非結核性抗酸菌へ
- 性行為感染症クラミジアに1回投与
- 3日投与で1週間効く
- バイオアベイラビリティ:37%(良くない)
テトラサイクリン系
ドキシサイクリン(ビブラマイシン)
- バイオアベイラビリティ:93%
- 肺炎球菌(PRSPは除く)、インフルエンザ菌(BLNARは除く)に効果がある。
- 梅毒治療やマラリアの予防にも使用できる。
ミノサイクリン(ミノマイシン)
- バイオアベイラビリティ:95%
- MRSAに感受性があるが、感受性があっても重篤な感染症には使用してはいけない。
テトラサイクリンのポイント
- 非定型やクラミジアにスペクトルあり
- 嫌気性菌にも効く(バクテロイデスは±)
- 大腸菌にもOK
- 黄色ブドウ球菌含めたグラム陽性菌もOK
- リケッチア感染症、キニーネと合わせてマラリア予防に
- 長期使用で皮膚色素沈着(8歳以下は歯肉着色があるため使用しない)
- 妊婦、授乳婦にも禁忌
- 食道炎を起こすのでたくさんの水で飲む
- MRSAは感受性があれば使える(重篤な感染症には使用してはいけない):ミノサイクリン>ドキシサイクリン
リンコマイシン系
クリンダマイシン(ダラシン)
- 点滴のクリンダマイシンと同じ:嫌気性菌カバーが原則
- βラクタムにアレルギーがある場合のグラム陽性球菌カバーに最適
- 黄色ブドウ球菌にもベストではないが使える
- 皮疹が出やすい
- バイオアベイラビリティ:90%
- 横隔膜より上の嫌気性菌感染症であれば単剤でもOK
- 横隔膜より下の嫌気性菌含む感染症では併用で
- ダラシン+ケフレックス(憩室炎など)
- ダラシン+シプロキサン(βラクタムアレルギー時など)
ニトロイミダゾール系
メトロニダゾール(フラジール)
- 嫌気性菌の治療にきわめて重要
- CDIの第一選択のひとつ(軽症〜中等症)
- 偽膜性腸炎、トリコモナス膣炎、アメーバ肝膿瘍などにも
- 神経系への副作用あり(末梢神経障害、脳症など)
- バイオアベイラビリティ:90~100%
- 断酒作用あり。アルコール禁。
グリコペプチド系
バンコマイシン(散)
- C. difficileによる偽膜性腸炎に対して有効
- 分子量大きい→腸管から吸収しにくい
- 高価であるためVREの出現の懸念も考慮し、中等症まではメトロニダゾールを使用する(効果も大差ない)
オキサゾリジノン系
リネゾリド(ザイボックス)
- スペクトル:
- グラム陽性菌全般
- MRSA、VRE、PRSPなど耐性グラム陽性菌
- 抗酸菌
- 高度な耐性菌用薬剤
- 消化管からの吸収が大変良い
- バイオアベイラビリティ:100%
- 中枢神経、皮膚軟部組織への移行性も良い
- 投与開始後2週間以上で高率に可逆性の血小板減少
- 注射薬から経口薬への変更ができる利点があるが、長期投与には向かず利点が生かしにくい
スルホンアミド系
ST合剤(バクタ、ダイフェン)
- ニューモシスチス、ノカルジアの第一選択
- 尿路感染(膀胱炎など)によく使われる
- 主要な尿路感染症の原因菌(大腸菌、腸内細菌群etc)すべてに高い効果を持っている
- 市中肺炎にも使える
- 肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラキセラなどカバーあり
- 前立腺への移行良い
- ノカルジアにも活性良い
- 副作用
- Cr上昇(トリメトプリムが腎尿細管からクレアチニンが分泌されるのを阻害するため:腎機能の低下を意味していないのでそのまま経過観察で良い)
- K上昇(トリメトプリムが遠位尿細管からのK排泄を妨げるため)
- 消化管症状
- 皮疹(3~4%)
- 妊婦へは禁忌
- ACE阻害薬やARBとの併用は死亡率上昇の報告があるため避ける
- MRSAにも効果があるが抗菌活性が低いため重症例では使用しない
- バイオアベイラビリティ:98%
参考文献
・岡秀昭(2019)「感染症プラチナマニュアル 2019・矢野晴美(2010)「絶対わかる抗菌薬はじめの一歩―一目でわかる重要ポイントと演習問題で使い方の基本をマスター
・岩田健太郎(2018)「抗菌薬の考え方,使い方 ver.4 魔弾よ、ふたたび…
・岩田健太郎(2016)「極論で語る感染症内科 (極論で語る・シリーズ)
・大野博司(2006)「感染症入門レクチャーノーツ
・岸田直樹(2014)「抗菌薬の使い方・考え方ー外来抗菌薬の使い方(内服)」勉強会資料 ・日本語版サンフォード感染症治療ガイド