SSRIはエスシタロプラム、パロキセチン、セルトラリン、フルボキサミンと4種類ありますよね。それら4種類にはどのような違いがあるか、あなたは説明できますか?
私は正直あまり説明できません(断言)。というのも抗精神病薬になんとなく苦手意識があるからなのですが……。
なんとなく苦手
今回はそんな私のように抗精神病薬がなんとなく苦手だなあという薬剤師のために「抗精神病薬を1から学ぶシリーズ」第一弾としてSSRIを取り上げてみました。文献を基にSSRI4種類の違いについてまとめています。
一緒に勉強していきましょう。得意な人はぜひ色々教えてください。
注)この記事は医療従事者・薬学生を対象としています。もし医療従事者以外の方がこの記事を読んでも記載内容を見て自己判断で服薬を減量・中止したりせず、必ず担当医・担当薬剤師に相談するようにしてください。
もくじ
【SSRI】エスシタロプラムとパロキセチンとセルトラリンはどう違う?
最近持参薬でレクサプロを飲んでいる患者さんがよくいる気がする。
国試のときはまだ青本に載ってなかったんだよなあ……
レクサプロは他のSSRIと比べてどうなんだろう?
そして、SSRIって製剤間で何が違うんだったっけ?
Let’s お勉強☆
SSRIの種類
- フルボキサミン(ルボックス)
- パロキセチン(パキシル)
- セルトラリン(ジェイゾロフト)
- エスシタロプラム(レクサプロ)
エスシタロプラムとパロキセチンとセルトラリンの比較レビュー
Int Clin Psychopharmacol. 2014 Jul;29(4):185-96
A Comparative Review of Escitalopram, Paroxetine, and Sertraline: Are They All Alike?
Connie Sanchez , Elin H Reines, Stuart A Montgomery
- PMID: 24424469
- PMCID: PMC4047306
- DOI: 10.1097/YIC.0000000000000023
- Baldwin et al., 2006(PMID:16528138)
- エスシタロプラム vs パロキセチン
- 325人
- 初期治療として8週間、維持治療として19週間、1-2週間かけて減量・中止する期間を設けた
- 再発例はエスシタロプラムのほうがパロキセチンよりも有意に少なかった
- Baldwin et al., 2007b(PMID:17848424)
- 精神的緊張、混乱、吐き気など中止せざるを得ない症状はパロキセチンで高率に発現した
- Boulenger et al,. 2006(PMID:20067433)
- 重度うつ患者における24週間のstudy
- MADRSによる評価では8週間と24週間の時点でエスシタロプラムはパロキセチンより臨床的に有意に有効であった
- Boulenger et al., 2010(PMID:20067433)
- HAM-Aスコア20以上の高レベルの不安障害患者
- エスシタロプラムは不安症状(HAM-Aスコア)とうつ症状(MADRSスコア)のどちらにおいてもパロキセチンより有意に改善を示した
- 服薬中止になった割合はパロキセチン群のほうがエスシタロプラム群よりも有意に多かった
- Kasper et al., 2009a(PMID:19185467)
- プール解析(複数の研究の元データを集めて再解析する方法)
- 6ヶ月間のエスシタロプラムの使用はパロキセチンより有意に効果的であり有意に服薬中止率が低かった
- Montgomery and Moller, 2009(PMID:19357527)
- エスシタロプラムは厳格な基準により判定された臨床的に有意なレベルでシタロプラム、パロキセチン、デュロキセチンよりも効果的であった
- 奏効率はエスシタロプラムで有意に高かった(エスシタロプラム74%、対照群63%)
エスシタロプラムのほうが有用という結果が多いですね
- Ventura et al., 2007(PMID:17288677)
- エスシタロプラムとセルトラリンは類似した効果を示した
- 奏効率(75% vs 70%)
- 副作用による服薬中止率(2% vs 4%)
- ただし、この研究結果はバイアスによりエスシタロプラムが過小評価されている可能性がある
- セルトラリンの投与量は変更可能だったのに対しエスシタロプラムの投与量は10mg/dayで固定されていたため
- エスシタロプラムとセルトラリンは類似した効果を示した
- Alexopoulos et al., 2004
- 大うつ病性障害(MDD)に対するエスシタロプラムとセルトラリン(投与量はどちらも変更可能)
- 治療反応率(60% vs 62%)
- 寛解率(40% vs 46%)
- プラセボは治療反応率42%、寛解率27%
- 大うつ病性障害(MDD)に対するエスシタロプラムとセルトラリン(投与量はどちらも変更可能)
だいたい同じかバイアスを考慮したらエスシタロプラムのほうが有効性が高い可能性もあるって感じですかね
ところでプラセボでも意外と治療反応率とか寛解率あるんですね……
- Aberg-Wistedt et al., 2000(PMID:11106136)
- セルトラリンとパロキセチンは非常に低い再発率を示した(MADRS、CGI、Battelle Quality of Life Questionnaireによる評価)
- Fava et al., 2000b(PMID:10837880)
- 少なくとも中等度のうつ+高度の不安障害患者(n=108)
- パロキセチン、セルトラリン、フルオキセチン(国内未承認)
- 10-16週の投与
- 下記項目でどれも類似した結果を示した
- HAM-Dによる評価
- 治療反応率
- 寛解率
- Fava et al., 2002(PMID:11910258)
- パロキセチンとセルトラリンの直接比較試験
- 10-16週
- うつ症状の改善と不眠症の改善は同等だった(HAM-Dによる評価)
だいたい同じ感じですね!
- Undurraga and Baldessarini, 2012(PMID:22169941)
- 35の試験、1980-2011年、142のdrug-placebo比較試験
- エスシタロプラム、セルトラリン、パロキセチンはどれもプラセボと比較して有効であった(奏効率比はプラセボと比較してそれぞれ1.33, 1.33, 1.44だった)
- Kennedy et al., 2006 (PMID:16575428)
- 10の試験、2687人のうつ患者、2004年までの期間のメタアナリシス
- エスシタロプラムはパロキセチンとセルトラリンを含む他の抗うつ薬と比べて有意に高い有効性、治療反応率(オッズ比1.29)、奏効率(オッズ比1.21)を示した。
- Kennedy et al., 2009 (PMID:19210149)
- 4549人のうつ患者、16のランダム化比較試験を含むメタアナリシス
- エスシタロプラムは再び他の抗うつ薬と比較して治療反応率や奏効率において有意に有効であることが示された
- Ramsberg et al., 2012 (PMID:22876296)
- パロキセチンとセルトラリンを含む10の抗うつ薬の寛解率を見たメタアナリシス
- 8週間〜12週間の治療後
- エスシタロプラムが最も好意的な治療効果を得た(寛解率0.47)
- Cipriani et al., 2009 (PMID: 19185342)
- 12の新しい抗うつ薬と117のランダム化比較試験を含んだメタアナリシス
- オッズ比
- 有効性
- エスシタロプラム vs パロキセチン, 1.3
- セルトラリン vs パロキセチン, 1.2
- 忍容性
- エスシタロプラム vs パロキセチン, 1:3
- セルトラリン vs パロキセチン, 1.25
- 有効性
- エスシタロプラムとセルトラリンはパロキセチンと比較して有意に有用と結論付けられている
- Thase et al., 2005 (PMID: 16086611)、Cipriani et al., 2010(PMID:20091586)
- セルトラリンとパロキセチンのメタアナリシス
- 有効性に関して
- お互いどちらかの優位性を見出だせなかった
う〜ん、有効性に関しては
エスシタロプラム≧セルトラリン≧パロキセチン
って感じの印象がありますね
- Cipriani et al., 2010
- 抗うつ薬を服用している60%の患者が少なくとも1つの副作用を経験していることがランダム化比較試験の文献調査で明らかとなった
- 新しい世代の抗うつ薬は下記のような類似した副作用を示す
- 下痢
- めまい
- 口渇
- 疲労
- 頭痛
- 嘔気
- 性機能障害
- 発汗
- 振戦
- 体重増加 など
- Cipriani et al., 2009 (PMID: 19185342)
- 117のランダム化比較試験と25928人の患者と12の新しい世代の抗うつ薬を評価したメタアナリシス
- エスシタロプラムとセルトラリンは優れた忍容性プロファイルを示した
- パロキセチンを含んだ他の抗うつ薬よりも有意に服薬中止数が少なかった
- Serretti and Chiese, 2009 (PMID: 19440080)
- メタアナリシス
- 性機能障害の発現はセルトラリンで有意に高かった
- セルトラリン(〜80%)vs エスシタロプラム(〜40%)
- Marks et al., 2008 (PMID:18983224)
- 他のSSRIと比較してパロキセチンでは高率で副作用が発現した
- 鎮静
- 便秘
- 性機能障害
- 抗うつ薬中断症候群
- 体重増加
- 先天性奇形 など
- 他のSSRIと比較してパロキセチンでは高率で副作用が発現した
- Baldwin et al., 2007 (PMID: 17848424)
- 4000人、短期間+長期間のメタアナリシスを基にしたレビュー
- パロキセチンはエスシタロプラムと比べて副作用の発現率が高かった
- 性機能障害
- 抗うつ薬中断症候群 など
- Gibiino and Serretti, 2012 ( PMID: 22263916)
- 上記知見はパロキセチンのプロファイルとして最近のレビューでは一貫している
パロキセチンは副作用が多いという結果が多いですね
- エスシタロプラム
- 投与量:10mg、20mg(開始量として5mgも考慮)
- 経口投与でTmax:5時間、蛋白結合率56%
- 定常状態まで1-2週間
- パロキセチン
- 投与量:12.5mg、25mg、37.5mg、50mg
- 経口投与でTmax:6-10時間、蛋白結合率95%
- 定常状態まで2週間
- セルトラリン
- 投与量:50mgから200mgまで
- 経口投与でTmax:5-9時間、蛋白結合率99%
- 定常状態まで1週間
セルトラリンとパロキセチンはそれぞれの患者に応じて有効量までのタイトレーション(用量調節)が必要になることが多い
大部分の薬剤が主にCYP1A2、CYP2D6、CYP3A4の3つの酵素により代謝されるため、これらの阻害作用により薬物相互作用が引き起こされる
- エスシタロプラム
- 主にCYP3A4とCYP2C19で代謝される(わずかにCYP2D6でも)
- CYPやP糖タンパク質に対する阻害活性は少ない
- そのため、薬物相互作用の潜在リスクは少ない
- パロキセチン
- CYP2D6に対する阻害活性を持つ
- SSRIの中で最も薬物相互作用を起こしやすい(Richelson, 2001 PMID: 11357798)
- セルトラリン
- CYP2C9/19とCYP2D6の阻害作用があるが、パロキセチンよりは少ない
- 薬物相互作用を起こす可能性は低い
薬物相互作用という点においてもエスシタロプラムはパロキセチンとセルトラリンに比べて優位性が見込める
パロキセチンが一番薬物相互作用を起こす可能性が高そうで、セルトラリンもパロキセチンよりは少ないけれど起こりうるって感じですかね
論文に載ってた作用機序の図を日本語化ついでに描いてみました!
そこはかとなく小学生の落書き感ある
え……
赤いのがSERTことセロトニントランスポーターですね!
そこはかとなく辛子明太子感ある
えぇ……
SSRIはプライマリサイトに結合してセロトニンの再取り込みを阻害するんですが、エスシタロプラムはプライマリサイトの他にアロステリックサイトにも結合するんです!
そこはかとなく結合……
アロステリックサイトに結合するとどうなるのかしら?
アロステリックサイトへの結合はプライマリサイトへの結合を増やすように働いて、その結果としてセロトニンの再取り込み阻害作用がめっちゃ出るみたいです!
そのためエスシタロプラムはCanadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT)のガイドラインではASRI(Allosteric Serotonine Reuptake Inhibitor)と提唱されているようです
そこはかとなくすごい
これらの有効性、忍容性、薬物動態、作用機序など諸々を考慮した結果、文献ではSSRIのトータルとしての有効性として
エスシタロプラム>セルトラリン・パロキセチン>プラセボ
と結論付けられていました!
その他SSRIに関して文献まとめ
ついでなので手持ちの本からいろいろまとめてみました!
(参考文献は記事末尾に載せています)
- うつ病と社交不安症への適応がある
- シタロプラムのS体
- 初期料から十分な治療効果が期待できる点で使いやすい
- QT延長傾向が他の新規抗うつ薬に比べて強く、心電図の確認がより求められるが、その他の副作用は比較的少ないものと期待される
- CYP2D6の阻害作用がわずかに存在するが、臨床的な影響は無視できる程度に小さい
- CYP2C19で代謝され、CYP2D6及びCYP3A4も代謝に関与している
- 肝機能障害患者、高齢者、CYP2C19のpoor metabolizer : PMでは本剤の血中濃度が上昇し、QT延長等の副作用が発現しやすいおそれがあるため、10mgを上限とすることが望ましい(CYP2C19のPMにおけるAUCおよびT1/2は常人の約2倍)
- QT延長のある患者には投与禁忌
- セロトニン阻害作用は既存のSSRIに比べて選択性が高く、セロトニン以外の神経伝達系への影響はほとんどないと考えられている
- うつ病、パニック症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)への適応がある
- CYP2D6の阻害作用がわずかに存在するが、臨床的な影響は無視できる程度に小さい
- 代謝にはCYP2C19、CYP2C9、CYP2B6およびCYP3A4など少なくとも4種の肝代謝酵素が関与しており、多代謝経路を示す
- 肝機能障害患者には慎重投与
- うつ病、パニック症、強迫症、社交不安症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)への適応がある
- 体重増加傾向に注意を要する
- 他の薬物に優先して使用する理由は乏しい
- CYP2D6で代謝される薬物であると同時にCYP2D6を強力に阻害するため、用量が増すとその増加量以上に血中濃度が高まる
- CYP2D6で代謝される他の薬の血中濃度を高めることに注意を要すると同時に、タモキシフェンやトラマドールの効果を失わせることにも注意を要する
- 他のSSRIと比べると抗コリン作用が強い
- 肝障害および重度の腎障害のある患者では、血中濃度が上昇することがあるので注意が必要
- CR製剤は胃を通過後ゆるやかに溶出し、消化管粘膜細胞近傍におけるセロトニンの増大を抑える。これにより5HT3受容体を介した悪心・嘔吐の軽減が期待される
- 日本で初めて承認されたSSRI
- うつ病、強迫症、社交不安症への適応がある
- 他の薬物に優先して使用する理由は乏しい
- CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4を阻害するため、肝臓で代謝される他の多くの薬物の血中濃度を上げてしまうことに注意を要する
- チザニジン、ラメルテオンとは併用禁忌
- 肝機能障害患者にてTmaxの遅延、T1/2の延長およびAUCの増加が認められている
- 苦味があり、舌のしびれ感があらわれることがあるので粉砕は行わないこと。また、粉砕時に飛散した場合には眼粘膜等への刺激性も懸念される
- SSRIの主な副作用
- 吐き気、食欲不振、口渇、便秘、下痢、眠気、めまい、頭痛など
- 三環系、四環系抗うつ薬に比べると軽減されてはいるが、消化器症状が目立って感じられる
- 腸管の運動を抑制する神経もセロトニン神経系であるため
- 体内全体のセロトニン量の90%以上は腸管に存在するため、SSRIが消化器に最初に作用するのは当然といえる
- SSRIを使用し始めてまもなく起きる消化器症状は10日〜2週間程度で収まることが多い
- 症状がひどい場合も制吐薬を用いることで対処できることがほとんど
- 仮説
- 一時的にセロトニン過剰状態が起きる
- 消化管内で腸管が増加したセロトニンの量に見合った動き(消化管運動)を始める
- 定常状態に達するのにおよそ2週間かかる
- 副作用として出現した消化器症状が消失するのにだいたい2週間かかる
- 仮説
- 副作用で悩んでいる患者には「抗うつ薬は副作用が先に出て、作用はあとから出てきます。副作用が出ているなら主作用も出てくる証拠。ゆっくり待ちましょう」という言い方ができる
- 中止後発現症状を避けるために「抗うつ薬は急に減らしたり中止すると副作用が出ることがあります。どんなに元気が戻っても自分の判断で勝手に薬をやめたりせず、担当医と相談してゆっくり中止するようにしてくださいね」などと伝えることが有効