「今日も混注が時間内に終わらなくて怒られてしまった」
「他の人に比べて混ぜるスピードが遅くてもっと速くなりたい」
そんな薬剤師さん、特に新人薬剤師さんはいませんか。
混注は少しコツを掴めばいともたやすくそのスピードを上げることができます。
速く混ぜられるようになることで、外来ケモであれば患者さんの待ち時間が減りますし、浮いた時間に他の業務をしたり、はたまた浮いた時間でこっそり休憩したりと数多くのメリットがあるでしょう。
私は約2年間注射薬調剤室の専属としてほぼ毎日のように混注をし、貪欲に速さを求めた結果、施設内では1、2を争うほどのスピードの持ち主(自称)として名を馳せるようになりました。
ー速さを極めるための極意を後世に遺しておこう。
そう思い今回筆を取り「最速を目指す人のための注射薬調製マニュアル」を作成するに至りました。
すでに速い人にとっては当然のことばかりかもしれませんが、敢えて当然のことも恥ずかしげもなく書いています。
さあ、あなたも最速を目指してみませんか?
もくじ
最速を目指す人のための注射薬調製マニュアル〜導入編〜
はじめに
これからいかにして混注の速度を早めるかについて概説していきますが、それには一定のクオリティを保っていることが大前提となります。
言わずもがなではありますが、決して速度を早めるために品質をおざなりにしてはいけません。
アンプルカットはきちんとできますか?
シリンジのメモリ合わせは正確にできますか?
シリンジから小さな泡一つなく空気を完璧に抜くことができますか?
手技が完熟していないと速度を上げることで必ずやどこかにほころびができてしまいます。
患者に投与するものなので速度を上げたいからといって品質を軽視してはいけません。
これらのことに少しでも不安のある人は、まず時間がかかってもいいので手技を完璧にできるようにひたすら練習しましょう。
スピードを求めるのは基本を備えたその後です。
何事も基礎練習が大事なのです。
最速を目指す人が心がけるべき4つのポイント【共通編】
最速を目指すときに最初に心がけるべき一番大事な点は「立ち止まらないこと」です。
言い換えると「手を止めないこと」とも言えますが、速さを求めるにおいては立ち止まらないことが一番重要であると声を大にして言うことができます。
例えばヘパリンナトリウム 12000単位をいう処方箋を見たときやハーセプチン240mgという処方箋を見たときに、瞬時に何をするべきかわかりますか?
ここで手を止めて「えっと……ヘパリンは10000単位で5mLだから……12000単位だったら……」などと考えたり、「えーとハーセプチンはどうやって計算するんだっけ?」とか「注水で溶解するんだっけ、いや生食だっけ?」などと考えているとしたらそれは大幅なタイムロスです。
いわゆる混注が速い人を今まで何人か見てきましたが、彼らに共通しているのは「絶対に作業の手が止まらない」という点です。
ヘパリンなどの単純な計算なら、シリンジを用意しながら計算したりアンプルカットをしながら計算したり。
ハーセプチンなどの多少複雑な計算でも、見た瞬間に計算し始めて計算し終わった瞬間混注に取り掛かったり。
とにかく立ち止まらない。
これを意識するだけでも混注スピードは激変するでしょう。
よく新人の頃、抗癌剤の調製で先輩に言われたことの一つに「必ず事前に予習するべき」というものがあります。
この抗癌剤はどういう溶媒を使って、この場合は何mL量り取って、ルートのフィルターはあるものを使うのか、無いものを使うのか……などなど。
これらが瞬時にわかるようであれば予習は不要ですが、途中で立ち止まるようであれば予習はするべきでしょう。
一般輸液の混注でも、とにかく常に何か手を動かすようにしてください。
間違っても連結管で繋いで落としている間にただじっと落ちるのを見つめたりしてはいけません。
立ち止まらないように色々と頭を使いましょう。
それが、最速への最短距離と言えます。
最速を目指すときに抑えておきたいポイントの2つ目は実に「環境整備」に尽きます。
シリンジは手元に用意されているか?
容器の空や使い終わったシリンジを捨てるゴミ箱はすぐ近くにあるか?
もしシリンジが少し手を伸ばせば届く場所にある場合、クリーンベンチの中など手を伸ばさずに掴める距離まで移動させるべきです。
なぜなら、少し手を伸ばすその時間がもったいないからです。塵も積もればなんとやら。
ゴミ箱は燃えるごみと燃えないごみで左右に分かれていたり一旦立ち上がらなければ届かない場合、すぐに捨てられるように自分の近く、しかも片方にまとめて置くべきです。
ゴミ箱が左右に分かれていると、燃えるごみが右側で燃えないごみが左側で……と一瞬迷う時間がもったいないことに加え手の動きがワンパターン増えることになりますし、立ち上がるのも時間の無駄です。
他にも一件混ぜ終わったらすぐ次の混注に取り掛かることができるように未混注のトレーの配置を変えたりするなど、とにかく少しでも効率良く調製できるように混注前の環境整備には気を遣って時間を掛けるようにしましょう。
ここに時間を掛けることで、結局は時間短縮に繋がっていきます。
環境整備をすることと立ち止まらないこと。
とりあえずこの2つを意識するだけで混注速度が大幅に上昇することは間違いないです。
時間感覚を大切にするとは、すなわちペース配分を考えるということです。
混注するものが全部で50件あるとすれば、ここまでを〇〇時までに終わらせて、ここまでは△△時までに終わらせよう。新規で追加になる件数を見越して××時までにはここにあるものは全て終わらせるようにしよう。
簡単なヘパリンを先に混ぜて、TPNは後に混ぜよう。TPNの中でも簡単なものを先に混ぜて手間がかかるものは後に混ぜよう。
逆に手間がかかるものを先に繋いでおいて、落としている間に簡単なものを片付けよう。
などと、調製を始める前にある程度の目安を立てましょう。
これもポイントとしては先に挙げた「立ち止まらない」と同様ですね。
また、目安を立てた後はそれが達成できるように時間を細分化してちらちら時計を確認すると、いざ混ぜ終わって時計を見たら予定より遅れているという自体もある程度避けることができます。
言わずもがなですが、「最速」は時間との戦いです。
いついかなるときでも正しい時間感覚を身につけるようにしましょう。
「はじめに」で手技を完璧にすると書きましたが、それは「ミスをしないようにするため」という意味合いも大きいです。
どんなに速く混ぜても1回ミスをすることでそのリカバリーには多大な時間を要することが多いです。
アンプルカットを失敗したらフィルターを付けなければならなかったり。
コアリングしたらゴム片をシリンジの中から、輸液の中から取り除かなければならなかったり。
抗がん剤の計算を間違えて多く入れてしまったら計算し直して修正しなくてはならなかったり、1から新しく調製し直さなくてはならなかったり。
とにかくミスのリカバリーには時間がかかります。
そのため、とにかくミスをしないことが最速を求めるためには最重要となってきます。
ただ、そうは言っても人間なのでミスをすることもあるでしょう。
ミスをしたときにも手を止めずに素早く復旧できるようになれば、被害を最小限に抑えることができます。
ミスをしたときのリカバリー方法も事前にシミュレーションしておくべきでしょう。
特に抗がん剤の量のリカバリーなどは意外と焦ってしまうと誰しも混乱しがちになると思うので、事前のシミュレーションが大事です。
上手いアンプルカットの方法だったり、コアリングしにくい針の刺し方だったりは自分で研究すると良いと思います。
やはり何事も地道な努力が重要ということですね。
最速を目指す人のための注射薬調製マニュアル〜導入編のまとめ〜
最速を目指す人のための注射薬調製マニュアル〜導入編〜と称して、まずは最速を目指すための心構え、注意するべき点について解説しました。
- 立ち止まらない
- 環境整備に時間をかける
- 時間感覚を大切にする
- ミスをしない
今回紹介した点を意識するだけでも混注速度が大幅に上昇することは間違いないでしょう。
今後(需要があれば)各論についても書いていきたいと思います。
ぜひ、あなたも最速を目指してみてください。
ここまで読んでくださりありがとうございました。また機会があれば各論にてお会いしましょう。