ベンゾジアゼピン系睡眠薬は筋弛緩作用があり転倒するリスクが高まるとされています。
実際にはどのくらいリスクが高まるのでしょうか?
また、非ベンゾジアゼピン系と言われるZ系(ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロン)ではどうなのでしょうか?
今回はそんな疑問を解消すべく論文を基にビジアブ(ビジュアル・アブストラクト)を作ってまとめています。
もくじ
ベンゾジアゼピンと非ベンゾジアゼピン系(Z系)で高齢者の転倒リスクはどのくらい増える?
今月から整形外科病棟担当になったけど、転倒して骨折して入院する人って想像以上に多いんだなあ。
看護師さんはなんで患者が転倒しただけでIAレポート書かなくちゃいけないんだろうって思ってたけど、そういうわけだったのか……転倒こわし。
そしてそういう人って気のせいかベンゾジアゼピン系睡眠薬飲んでる人が多い気がする。
筋弛緩作用があるからなあ、少なからず転びやすくなるのであろう。
大学で習いましたね。ベンゾジアゼピン系、飲まなきゃいいのに……
ゾルピデムとかの非ベンゾジアゼピン系は筋弛緩作用少ないのがメリットっていうのも覚えているんですが、どうなんでしょう?
ふむ、Z-drugであるな。マイスリー(ゾルピデム)、アモバン(ゾピクロン)、ルネスタ(エスゾピクロン)の3つが非ベンゾジアゼピン系で通称Z-drug(Z薬)と言われているぞよ。
Zから始まる名前ばかりだからそう呼ばれているようだね。
ベンゾジアゼピンはω1(催眠効果)とω2(筋弛緩作用)受容体両方に作用するのに対し、Z薬はω1受容体にしか作用しないとされているため筋弛緩作用は少ないのであったなあ。
そう言われてはいるが、たしかに貴君の言うように実際はどうなんだろうか。
(この流れは……いつものやつ)
論文、探してみます……!
高齢者におけるベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系(Z薬)の使用と転倒関連受傷による入院のリスクとの関係:台湾国内コホート内症例対照研究
BMC Geriatr, 17 (1), 140 2017 Jul 11
Association of Benzodiazepine and Z-drug Use With the Risk of Hospitalisation for Fall-Related Injuries Among Older People: A Nationwide Nested Case-Control Study in Taiwan
Nan-Wen Yu 1 2, Pei-Jung Chen 1, Hui-Ju Tsai 3 4, Chih-Wan Huang 1 2, Yu-Wen Chiu 1 2, Wen-Ing Tsay 5, Jui Hsu 5, Chia-Ming Chang 6 7
- 1Department of Psychiatry, Chang Gung Memorial Hospital at Linkou and Chang Gung University, Taoyuan, Taiwan.
- 2Division of Rehabilitation & Community Psychiatry, Department of Psychiatry, Chang Gung Memorial Hospital at Taoyuan, Taoyuan, Taiwan.
- 3Department of Pediatrics, Feinberg School of Medicine, Northwestern University, Chicago, IL, USA.
- 4Division of Biostatistics and Bioinformatics, Institute of Population Health Sciences, National Health Research Institutes, Miaoli, Taiwan.
- 5Division of Controlled Drugs, Taiwan Food and Drug Administration (TFDA), Ministry of Health and Welfare, Executive Yuan, Taipei, Taiwan.
- 6Department of Psychiatry, Chang Gung Memorial Hospital at Linkou and Chang Gung University, Taoyuan, Taiwan. cmchang581@gmail.com.
- 7Division of Rehabilitation & Community Psychiatry, Department of Psychiatry, Chang Gung Memorial Hospital at Taoyuan, Taoyuan, Taiwan. cmchang581@gmail.com.
- PMID: 28693443
- PMCID: PMC5504671
- DOI: 10.1186/s12877-017-0530-4
コホート内症例対照研究って初めて聞きました。
どういう研究なんですか?
コホートの中で症例対照研究をすることだね
そのまんまじゃないですか……
わかりやすくいうと、ある時点から追跡して観察していく方法(コホート)で集められたデータを症例として、対照群も同じコホートの中から選択して、症例対照研究をすることだね
あんまり変わってない気はしますが……なんとなくわかったようなわからないような。
NHIRDってなんなんですか?
僕も詳しくはわからないが、National Health Insurance Research Databaseの略で台湾の厚生労働省による医療保険請求に基づく研究用データベースのことらしいね。
健康保険ゆえ外来受診歴とか薬局での薬剤歴とかが記録されていて、個人を特定できないように匿名でそれらのデータが解析できるようになっているらしいよ。
よ、よくわからないですけどなんだかすごいですね。
高用量とか低用量はどう定義されているんですか?
ジアゼパムのDDD(1DDD=10mg)をもとにそれぞれのベンゾジアゼピン、Z薬について換算しているね。俗に言うジアゼパム換算であるな。
DDDとはDefined Dairy Doseの略で「医薬品の主な適応症に対する成人の仮想平均維持日量」を指す。まあ簡単に言うと平均用量ということであろう。
これで<0.3のときを低用量、0.3-0.6のときを中用量、>0.6のときを高用量と定義しているようだよ。
???
ゾルピデムを例に挙げると、ジアゼパム5mgとゾルピデム10mgが等価とされているから、1DDD=ジアゼパム10mg=ゾルピデム20mgとなる。
そのため、ゾルピデム5mgだと0.25DDDとなり低用量、ゾルピデム10mgだと0.5DDDとなり中用量となるわけだね。
読み間違っていたらすまぬ……がおそらくこういう意味だと思われるよ。まあ、深く考えずとも単純に投与量が多いか少ないかって考えたら良いのではないだろうか。
まあ、僕の感覚的にもゾルピデム5mgは最小用量なので低用量ですし、10mgはちょっと多いから中用量かなと思うのでだいたい直感と合ってますね!
そう思うことにします!
作用時間については半減期が24時間以上のものを長時間作用型、24時間未満のものを短時間作用型としていますね!
論文のPECOは
- P(Patient)
- 65歳以上の高齢者に
- E(Exposure)
- ベンゾジアゼピンやZ薬を投与した場合
- C(Comparison)
- 投与しない場合に比べて
- O(Outcome)
- 転倒に関連した受傷による入院が増加するか
ですかね!
筆者らも指摘していますが、視力やBMI、肉体活動や喫煙、飲酒歴などはデータベースからは判別できなかったとのことで、全ての交絡因子への配慮がなされているわけではなさそうです。
データベースからの解析なので処方歴はわかりますが、コンプライアンスなど本人がきちんと飲んでいたかまではわからないのでそういった点も影響があるといえそうです。
ベンゾジアゼピンで転倒リスクが増えるというのは予想通りでしたね。
ただ、長時間作用型のほうが短時間作用型よりリスクが高そうなイメージでしたがそういったわけでもないんですね。
そうだなあ。超短時間作用型で持ち越ししないから安心というわけでもないのであるな。
用量も多かろうが少なかろうがあまり変わらないということでした。少ないから安心というわけでもないんですね!
うむ
Z薬は全体としては転倒リスクを上昇させますが、用量別に見ると高用量のときのみリスクを上昇させるという結果でした!
過去にはゾルピデムで転倒リスクが増えるという報告もあったようで結局Z薬でもリスク増えるんかーいって思ってましたが、用量に依存し少量なら大丈夫ということで安心しました。
良かった良かった
本文の最初の方にいろいろ興味深いことが書かれていました。
- 転倒は高齢者によく起こり、世界における事故や意図しない死因の第2位とのこと。
- 毎年だいたい65歳以上の28-35%が転倒している。
- 転倒関連外傷はこの年齢層(65歳以上)の入院全てのうち5.3%を占める。
転倒する人ってこんなに多いんですね……知りませんでした。僕の担当病棟でも転倒して入院してくる人が多いわけですね。
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015には
「ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬は、認知機能低下、転倒・骨折、日中の倦怠感などのリスクがあるので可能な限り使用は控え、特に長時間作用型は使用するべきではない(エビデンスの質:高、推奨度:強)」
とされています。今回の結果に基づくと長時間作用型に限らず短時間作用型も使用するべきではないと言えそうですね。
海外の高齢者薬物療法に関するガイドラインの1つであるSTOPPでも「4週間以内の使用にとどめること」とされているみたいです。
4週間でとどまっている人なんて見たことないですね……
そうだなあ。由々しき問題であるなあ。
耐性とか依存とかもあるし……眠れないって人、入院患者さんでもたくさんいますもんね……
いいことを思いつきました!
ここはひとつ発想を逆転させて転んでも大丈夫っていうふうにすればいいんじゃないですかね!!
つまり?
え、それは……(思いつきで言ったから考えてなかった)
い、家の床を全部クッションにするとか。。。
……
…………
………………
とりあえず転倒して入院してくる人が多いのに病棟の不眠時指示の眠剤がベンゾジアゼピンしかないのをどうにかしようと思います! それでは!!(ダッ!)
すごい勢いで走っていったなあ
文献はこちら!
いつも楽しく拝見させていただいてます!
掛け合いもたのしいですね〜
勉強にもなります。
よく、こんなにまとめることができますね〜♪すばらしいです。
これからも楽しみにしてます!
るうさん
ありがとうございます! そう言っていただけるとすごくうれしいです。
まだまだ手探り状態ですが、いろいろやっていきたいと思っています。
これからもよろしくお願いします!