ドンペリドンは副作用として心血管イベントのリスクを増やすとか突然死のリスクがあるとか言われていますが、実際はどうなのでしょうか。
投与量によってどのくらい違う?
メトクロプラミドと比較したら?
そんな疑問を解消するために文献を読んでビジアブ(ビジュアル・アブストラクト)を作ってまとめています。
もくじ
ドンペリドンはメトクロプラミドと比べて心血管イベントのリスクを増やす?
この整形外科から術後リハビリ目的で転院してくる人、みんなトラムセットとドンペリドンを4錠4×で飲んでるなあ。
そういえば前にブログでドンペリドンの心室性不整脈とかのリスクについてまとめたっけ!
むむむ、やはり吐き気が無ければ切りたいところ……
関係ないけどこのタイトル、今見ると医療従事者以外の人が見たときに不安を煽るタイトルであまり良くない気がする
某週刊誌みたいだなあ
わっ先輩いたんですね……! 反省しております……
それはさておき、なんだか面白そうな論文を見つけたので読んでみることにしました。
メタアナリシスらしいですね。メタアナリシスってなんでしたっけ? 大学のときに習ったのは覚えているのですが……
複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析すること、またはそのための手法や統計解析のこと(Wikipediaより引用)であるよ。
あっ思い出しました! エビデンスレベルが高いやつですね!
早速読んでみます!
メトクロプラミドと比較したドンペリドンの心臓への安全性を検証するメタアナリシス
United European Gastroenterol J, 6 (9), 1331-1346 Nov 2018
A Meta-Analysis on the Cardiac Safety Profile of Domperidone Compared to Metoclopramide
Serhat Bor 1, Mesut Demir 2, Oktay Ozdemir 3, Kivanc Yuksel 4
- 1Ege University School of Medicine, Division of Gastroenterology, Ege Reflux Study Group, Bornova, Izmir, Turkey.
- 2Cukurova University School of Medicine, Division of Cardiology, Adana, Turkey.
- 3Yorum Consulting Ltd., Department of Statistics, Istanbul, Turkey.
- 4Ege University Centre for Drug Research & Development Pharmacokinetic Research and Applications (ARGEFAR), Bornova, Izmir, Turkey.
- PMID: 30386606
- PMCID: PMC6206542
- DOI: 10.1177/2050640618799153
最初に選んだ論文は115もあったのに、98も除外されて最終的に17まで減ったんですね
115の論文はどうやって選んだんですか?
PubMedで検索しているようだね。
- domperidone(ドンペリドン) に加えて cardiovascular(心血管), QT, death(死), arrhythmia(不整脈)のうちの少なくともひとつ
- domperidone + metoclopramide(メトクロプラミド) + cardiovascular
がタイトルまたはアブストに入っている論文を選んでいるよ。
PubMedで検索していたらバッチリですね!
うむ、ただレビューに必要な文献はPubMedだけでは55%しか集められないから他のデータベースも併せて使用するべきという意見もあるよ。
入手できた論文がもし偏っていて網羅できていなかったら誤った結果になるリスクがあるから、できるだけいろんなところから集める必要があるのであるな。
なるほど……PubMedだけで十分だと思っていましたがそうでもないんですね。。。
今回は使用しているのはPubMedだけですね!
そこで検索結果に現れた115からずんずん除外していったんですね。どうやって選出したんでしょうか?
組み入れ基準は
- 臨床試験の原著論文
- ドンペリドンは経口投与のみ
- 評価項目がCVイベントとQT延長
- オッズ比で評価可能
の4つとのこと。
除外98例の内訳としては39が前臨床試験だったから、25がドンペリドンとCVリスク、QT延長の関係性を示したデータが欠けていたから、19が統計学的分析が正確では無かったから、7つがドンペリドンが経口ではなく非経口投与だったから、4つが症例報告だったから、3つがCVリスクやQT延長のデータが無かったから、そしてメタアナリシスだったからが1つらしいね。
な、なるほど……
また、著者らはこのメタアナリシスはもっぱらレトロスペクティブ研究のみで構成されているから、データを確立するには前向き研究も必要だったと言っているよ。
な、なるほど……メタアナリシスってなんだかややこしいですね
「薬剤師のための医学論文の読み方・使い方」にはメタ分析の4つのバイアスとして
- 評価者バイアス
- 組み入れられた論文は、論文著者の独断と偏見により集められていないだろうか
- 出版バイアス
- あまりよい結果が出なかった臨床研究は世に出てこないことが多い
- 元論文バイアス
- 組み入れた研究そのものがいい加減なものであればそれを統合するとさらにいい加減なものになってしまうだろう
- 異質性バイアス
- 甘いジュースに醤油を入れたら、それはどんな味になるだろうか!?
があってそれぞれ吟味すべしと書かれてあるね。なのでとりあえずこの4つを検討してみればいいのではないかな。
なるほど!
ではまず評価者バイアスですが、本文中に
The authors evaluated the title and abstract of each article separately
と書かれています。評価者は複数いてそれぞれ評価することでバイアスに配慮しているみたいですね。
出版バイアスはPublication biasという項に
Potential publication bias was explored using visual inspection of Begg’s funnel plot asymmetry, classic fail-safe N analysis, Begg’s rank correlation and Egger’s weighted regression tests
と書かれていてファンネルプロットによる出版バイアスの検討がなされているみたいです。
ただ、PubMedしか使用していない点と、
limited to articles published in English
と英語の文献しか対象としていないため、その他の言語で報告された文献を見逃している可能性はあると思いますね。
元論文バイアスは筆者らも言及しているようにRCTではなくほとんど後ろ向き研究のみで構成されているので妥当性はどうなんでしょうかね?
異質性(heterogeneity)バイアスについては、異質性評価について本文中に
The I2 statistics of Higgins and Thompson was used to assess heterogeneity among studies. I2 values of 25%, 50% and 75% represent low, moderate and high heterogeneity, respectively. The presence of heterogeneity across studies was defined using Cochran’s Q test with a 0.10 significance level.
と記載があり、I2統計量が25%で低度、50%で中等度、75%で高度の異質性ありとしています。
まとめると元論文バイアスと、出版バイアスも少しありそうですが、それ以外はバイアスへの配慮はされていそうと考えていいんですかね
30mg/日だと心血管イベント発現には影響しないしQT延長にも関与しないとの結果でした! ちょっと意外でしたね。
そうであるなあ
European Medicines Agencyの勧告ではドンペリドンは成人では30mg/日を上限、子供では0.75mg/kg/日を上限に、1週間未満の期間で、60歳以上の高齢者などハイリスク群では注意して使用しましょうとされていて、今回の結果はおおむねそれに則った結果と言えそうですね。
そのため、ドンペリドンを30mgを超えて投与する際は、心血管イベントや心電図変化のモニタリングが必要ではとまとめられています。
ほかにも少ないとはされているが錐体外路症状などのリスクもあるゆえ必要なければ漫然と継続することは避けたいものであるなあ。
そうですね! ドンペリドンと錐体外路症状のリスクのメタアナリシスもあったら読みたいですね!
とりあえず改めてドンペリドン4錠4×は良くなさそうということがわかったので、転院してきたときに痛みが問題ないようなら一旦3錠3×に減らしてもらって、その後吐き気がなければドンペリドンは切るようにしたいと思いました!
文献はこちら!