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ニューキノロンによる腱障害【プレアボイドから学ぶ副作用】

日本病院薬剤師会のウェブサイトに「プレアボイド広場」というページがあるのをご存知ですか?

その名の通りプレアボイドが集まっているページなのですが、ではプレアボイドとは何でしょうか?

Be PREpared to AVOID the adverse drug reactions の略でプレアボイド。

日本全国の薬剤師が薬学的患者ケアを実施して患者の不利益(副作用、相互作用、 治療効果不十分など)を未然に回避(または軽減)した事例がいわゆるプレアボイドと呼ばれており、年間数千件の報告がなされているそうです。

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ

オットー・フォン・ビスマルク

薬剤師の歴史とも言えるプレアボイド報告には先人から学ぶべき叡智がたくさん詰まっています。

そのプレアボイド報告症例から学ぶべきポイントを取り上げ記事にする「プレアボイドから学ぶシリーズ」、第1回(続くかどうかの予定は未定です)。

テーマは「ニューキノロンによる腱障害」。

よく医療機関で処方されるレボフロキサシン、シプロフロキサシンなどのニューキノロン系(フルオロキノロン系)抗菌薬ですが、副作用も少なからず報告されています。

今回はそんなニューキノロン系抗菌薬の副作用のうち、腱障害(腱断裂)についてプレアボイド報告にあった症例を基にまとめてみました。

ニューキノロンによる腱障害?

添付文書の記載

12. アキレス腱炎、腱断裂等の腱障害 頻度不明 

アキレス腱炎、腱断裂等の腱障害があらわれることがあるので、腱周辺の痛み、浮腫、発赤等の症状が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。臓器移植の既往のある患者であらわれやすい。

クラビット錠 クラビット点滴静注 添付文書

頻度不明というのは「同一成分含有の製剤又は海外において認められている副作用のため頻度不明」とのこと。

この添付文書の記載だけでは、頻度も不明なこともあり普段から特に気をつけるべき副作用ではあまりなさそうな印象を受けてしまいますが……。

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薬剤師うさぎ

この副作用についてプレアボイド報告がされていたので早速見ていきましょう!

プレアボイド事例

症例

患者情報:60歳代,女性
原疾患:関節リウマチ
処方情報:
プレドニゾロン錠 5mg/日 継続服用中
臨床経過:
3/29 発熱にてレボフロキサシン点滴静注500mgが開始。
4/2 患者がレボフロキサシン点滴のため体調が悪化していると訴え,薬剤師との面談を希望しているとの看護師からの連絡あり。
【薬剤師】
状況把握のため看護記録を確認。3/31より両アキレス腱部痛の訴えがあり,夜間睡眠が確保できないほどの痛みであるとのこと。患者との面談にてレボフロシサシン開始後より症状が出現していることを確認。主治医に対してレボフロキサシンには腱断裂やアキレス腱炎などの副作用報告があり,60歳以上の患者,コルチコステロイド薬を併用している患者で出現しやすいことを情報提供。医師はレボフロキサシンによる治療継続の是非について検討し投与中止。
4/5 アキレス腱部痛改善

日病薬誌 第51巻9号(1091‒1094)2015年より引用

レボフロキサシン投与3日目から疼痛が出現していたものの2日間投与継続され、薬剤師が因果関係を疑い医師に情報提供し中止になった後症状が改善した事例です。

中止後3日程度で症状が改善していますね。

この文献によると発現時期はフルオロキノロン系薬の治療中または治療終了後、また治療終了後から数ヵ月経過後の事例もあるようです。

この報告はレボフロキサシンの点滴でしたが、同じくレボフロキサシンの内服での症例報告(4)もありました。

発生部位はアキレス腱部が最も多く、ほかにも肩回旋筋腱板、手、二頭筋、親指の部位でも報告されており、腱断裂に至れば外科的修復を要する場合もあるため早期の発見、対応が重要となりそうです。

対応としては、腱部の疼痛や腫脹,炎症の初期症状が出現した時点でフルオロキノロン系薬の服用を中止し,腱断裂を起こさないように患部を動かすことや患部に体重を掛けることを避けるなどが必要と本文献ではまとめられています。症例のように主治医と要相談ですね。

頻度・機序・リスク因子

発生頻度

tendon ruptures that are listed as occurring very rarely with a frequency of less than 1 per 10,000 patients

Clin Drug Investig. 2019 Feb;39(2):205-213

発生頻度はかなり稀で1万人に1人以下とされるとのこと。

ただ、別の報告(3)ではニューキノロン単独でのアキレス腱障害頻度は10万人中17人であるのに対し、ステロイド併用例では10万人中102人に上昇したとのことでした。

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薬剤師うさぎ

あまり関係ないですけど腱って英語でTendonなんですね!

発生機序

The mechanism for fluoroquinolone-induced tendon rupture remains uncertain, but has been linked to changes in collagen fibrils following alterations in the regulation of matric metalloproteinases associated with non-traumatic rupture

Clin Drug Investig. 2019 Feb;39(2):205-213

フルオロキノロン誘発性の腱断裂の機序は現時点でも不明な点が多いが、非外傷性の断裂に関連するマトリックスメタロプロテアーゼの規則性の変化に起因するコラーゲン線維の変質(分解)と関係があるのではないか……とのこと。

  • マトリックスメタロプロテアーゼ
    • 炎症性のサイトカインの刺激を受けて関節滑膜細胞や軟骨細胞から産生される関節軟骨破壊に関与する蛋白分解酵素
  • コラーゲン
    • 真皮、靱帯、腱、骨、軟骨などを構成するタンパク質のひとつ
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薬剤師うさぎ

詳細は不明とされていますがフルオロキノロンによる直接的な腱毒性があることが示唆されているようです

リスク因子

腱断裂のリスク因子 〜(1)、(2)より抜粋〜
  • 60歳以上
  • 副腎皮質ステロイドの併用
  • 肥満
  • 変形性関節症、炎症性関節疾患などの既往
  • 痛風
  • 糖尿病
  • 慢性腎不全
  • 透析患者
  • 心臓、腎臓、肺の移植患者
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薬剤師うさぎ

わかりやすい指標として60歳以上でステロイドを服用している患者にニューキノロンが出たら十分に注意が必要といったところでしょうか

まとめ

ニューキノロンによる腱障害
  • 発現時期
    • フルオロキノロン系薬の治療中または治療終了後
    • 治療終了後から数ヵ月経過後の事例も
  • 発生部位
    • アキレス腱部が最も多い
    • ほかにも肩回旋筋腱板、手、二頭筋、親指の部位でも報告されている
  • 発生頻度
    • 約1万人に1人
    • ステロイド併用例では頻度が増加する
  • リスク因子
    • 60歳以上やステロイドの併用など
  • 症状
    • 腱部の疼痛や腫脹など
  • 対応
    • 炎症の初期症状が出現した時点でフルオロキノロン系薬の服用を中止し,腱断裂を起こさないように患部を動かすことや患部に体重を掛けることを避けることが望ましい(主治医と要相談)
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薬剤師うさぎ

薬を渡すときだけではなく、渡した後のフォローが重要だということを再認識できた症例でした

参考文献

  1. Daniel R Morales et al, Increased Risk of Achilles Tendon Rupture With Quinolone Antibacterial Use, Especially in Elderly Patients Taking Oral Corticosteroid, Arch Intern Med. 2003 Aug 11-25;163(15):1801-7
  2. PD van der Linden et al, Relative and Absolute Risk of Tendon Rupture With Fluoroquinolone and Concomitant Fluoroquinolone/Corticosteroid Therapy: Population-Based Nested Case-Control Study, Clin Drug Investig. 2019 Feb;39(2):205-213
  3. Corrao, G, et al : Evidence of tendinitis provoked by fluoroquinolone treatment. Drug saf, 26(10):932-935, 2006.
  4. 久保壱仁ほか, レボフロキサシンの副作用による両側アキレス腱断裂の一例, 整形外科と災害外科 66(2): 244-246, 2017.
  5. 医薬情報委員会プレアボイド報告評価小委員会, 筋・骨格系の有害事象に薬剤師が早期対応した事例, 日病薬誌 第51巻9号(1091‒1094)2015年

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