「PPIとかH2ブロッカーとか胃薬っていろいろあるけれど結局どう違うの?」
って思ったことがある方、いると思います。
この記事ではそんな医療従事者向けに胃薬の特徴、使い分けについて日常業務で役に立つようなtipsを書いていきたいと思います。
もくじ
胃薬の種類
いわゆる「胃薬」とよばれるくすり
攻撃因子抑制薬
プロトンポンプ阻害薬(PPI)
カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)
ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)
防御因子増強薬
プロスタグランジン製剤
粘液産生・分泌促進薬
粘膜抵抗強化薬
PPI(Proton pump inhibitor)
オメプラゾール(オメプラール)
ランソプラゾール(タケプロン)
ラベプラゾール(パリエット)
エソメプラゾール(ネキシウム)
- T1/2は1.5時間程度
- 夜間の酸分泌は十分に抑制できない
- 絶食下投与に比べ食後投与においてCmaxもしくはAUCが低値を示すものがあることが知られている
- パリエット以外は代謝経路に主にCYP2C19が関与しており、CYP2C19には遺伝子多型が存在することが知られており、日本人では欧米人と比較して薬効に個人差が認められる一因となっている。
- パリエットは非酵素的に代謝されCYP遺伝子多型の影響を受けにくいとされ、パリエット以外のPPIで効果不十分の際にパリエットに変更すると効果が認められることもある。
- ネキシウムもCYP2C19の影響は少ないとされる。
- 投与1日目におけるpH4以上の時間の割合は7日目の3~4割程度
- 酸による活性化が必要なため。最大効果が得られるまで3~5日かかる。
- すべて肝代謝
- 長期連続使用しても胃酸分泌効果が減弱することはない
- H2RAと比べ長期投与に向いている
- 長期投与し続けるデメリット
- 胃酸の持つ生理機能である食物の消化・吸収能の低下
- 胃酸の殺菌力の低下による消化管の感染症発症リスクの上昇
- 腸内細菌叢の変化
- 胃内のpHの上昇に伴って高ガストリン血症を引き起こし、胃カルチノイド腫瘍をはじめとする腫瘍の発症リスクの上昇
- 副作用
- 下痢、Clostridioides difficile腸炎のリスク→発症率:投与しない場合の1.3倍(2~3倍とも)
- 誤嚥性肺炎(胃内pH上昇→細菌増殖による)
- 骨折
- ビタミンB12欠乏、低Mg血症、慢性腎臓病、認知症などのリスク報告あり
- 薬価
- ネキシウム10mg66.9円、20mg116.2円(後発品なし)
- パリエット10mg90円(後発品48.3円)
- タケプロン15mg67.5円(後発品25.1円)
- オメプラール10mg64円(後発品23.8円)
P-CAB(Potassium-competitive acid blocker)
ボノプラザン(タケキャブ)
- 投与2時間以内にCmaxに達し、T1/2は5~7時間
- 食事による薬物動態に大きな影響はない
- ボノプラザンの血中濃度とCYP2C19遺伝子多型の間には顕著な相関関係は認められなかった。
- 投与1日目から7日目の8~9割のpH値で推移
- 迅速かつ持続的なpH上昇作用
- ESD後潰瘍の治癒率に関してはPPI群とVPZ群で有意差は見られず、後出血の頻度に関しても差は見られなかった。
- 下記PPIの問題点を解消できている
- 酸に不安定であるため腸溶性製剤にする必要がある
- 夜間の胃酸分泌を十分に抑制できない→酸性環境下でも安定であり、胃底腺細胞内に長時間残存でき、夜間の胃酸分泌も抑制できる。
- 最大効果を得るまでに3~5日要する→投与初日より十分な胃酸分泌抑制作用を発揮する
- CYP2C19で代謝されるため効果にばらつきがある→PPIと比較してCYP2C19の関与が非常に少ないため遺伝子多型による薬効の個人差がない
- 強力に酸分泌を抑制するためPPIと比較して血清ガストリン値がより上昇する傾向にある
- 副作用
- PPIと同等と想定される
- 薬価
- タケキャブ10mg 131.4円、20mg 197.4円
H2RA(Histamine H2-receptor antagonist)
シメチジン(タガメット)
ラニチジン(ザンタック)
ファモチジン(ガスター)
ニザチジン(アシノン)
ラフチジン(プロテカジン)
- 標準用量で胃酸分泌を1/3程度にまで低下させることができる。
- 投与後効果の発現までの時間が2~3時間と短く即効性
- ほとんど腎機能による調節必要(ラフチジン以外)
- 一般的にGFRが60mL/分以下となると投与量の減量が必要となる。
- 高齢者の投与で常用量でも意識障害やせん妄を起こしうる
- 「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」では高齢者へのH2RAの使用は可能な限り控えることが推奨されている
- 消化性潰瘍の治療はPPIが第一選択となるため、H2RAの出番はPPIが使えない症例に限られる
- ヒスタミンが関与する胃酸分泌刺激を抑制する薬剤であるため、夜間の胃酸分泌抑制力は強いが、アセチルコリンやガストリンの関与が大きくなる日中の食後の胃酸分泌に対しては抑制効果が弱くなる。
- 長期投与には向かない
- 長期投与による最大の問題点は胃酸分泌効果が長期投与に伴って減弱していくこと
- 静注:3日程度、内服:2週間程度で減弱が明確となる
- 連日投与ではなく隔日投与だと減弱しにくいことが報告されている。
- ラフチジン:胃粘膜防御因子増強作用あり
- ニザチジン:消化管運動促進作用あり
- 副作用:5%以下
- 下痢、血球減少、肝障害
プロスタグランジン製剤
ミソプロストール(サイトテック)
- NSAIDs潰瘍に対して適応あり
- 消化性潰瘍があるとNSAIDsの投与は禁忌であるが、サイトテックを併用すれば継続できるということになっている
- 消化器症状(下痢など)が出やすい
- サイトテックとタケプロンではNSAIDs潰瘍予防に統計学的有意差はないとされる
- サイトテックは常用量のH2RAよりも胃潰瘍の予防効果に優れる
- 妊婦に禁忌
粘液産生・分泌促進薬
レバミピド(ムコスタ)
テプレノン(セルベックス)
- 消化性潰瘍の治療に対してはPPIやH2RAほどのエビデンスは示されておらず第一選択とはなり得ない
- 予防効果が見込める可能性はある
- ムコスタとサイトテックとの比較でNSAIDs潰瘍予防について有意差がなく、サイトテックよりも副作用が少ないとの報告あり
- 最近ではムコスタにはNSAIDsによる小腸粘膜障害の予防効果がある可能性や小腸粘膜病変の改善効果も示唆されている。
- ムコスタはエビデンスの蓄積が少なくリスクの高い患者には使用しにくい
粘膜抵抗強化薬
エカベトナトリウム(ガストローム)
- H2RAとの併用でH2RA単独よりも優れた効果を持つことが示されている。
- 難治性口内炎にも効果を発揮する。
ポラプレジンク(プロマック)
- 創傷治癒促進作用のある亜鉛と組織修復促進作用などを持つL-カルシノンを錯体とした薬剤
アズレンスルホン酸・L-グルタミン(マーズレンS)
- 潰瘍組織保護、再生作用をもつL-グルタミンとアズレンを配合した薬剤
スクラルファート(アルサルミン)
- H2RAと同等の効果が認められている。
- 酸性条件下で接着性蛋白と複合体を形成して胃粘膜にバリアを形成する。
- 空腹時投与が望ましい(治癒率が高い)。
- 便秘傾向になるため注意
- 併用でキノロン、テトラサイクリン、フロセミド、アゾール系抗真菌薬などの作用が減弱する
- Alを含むため透析患者に禁忌。
参考文献
岩田健太郎(2015)「薬のデギュスタシオン」金芳堂
木下芳一(2016)「上部消化管疾患治療薬の長期投与の問題点と一工夫」月刊薬事
沖本忠義(2017)「P-CAB除菌治療の現状」日本ヘリコバクター学会誌