バンコマイシンの初期投与量、解析ソフトでしっかり投与計画を立ててもなぜか上手くいかないって人……多いですよね?
え、別にそんなことないですって?
何をかくそう私はそうです。思うようにいかないこと山のごとし。いい感じの投与量早見表のようなものがあればなあと思ったのでPubMedで探してみました。
バンコマイシンのTDMが苦手な方や早見表があればいいのにと思っている方はぜひご覧ください。得意な人はコメント欄に勉強方法をご教授いただけると幸甚に存じます。
もくじ
バンコマイシンの初期投与量ノモグラムまとめ
3210号室の狼吠男さんにバンコマイシンを始めようと思うんだけど、投与量どうしたらいいかな?
(バンコマイシン……来た……!)
ちょっと検討しますね!
どうしよう、バンコマイシンのTDM、正直苦手なんだよなあ……
解析ソフトで初期投与量を出してもいい感じのトラフになったためしがない……
先輩、どうしましょう!
僕もそこまで得意ではないから今回あまり助けにはなれないかなあ
TDMガイドラインのノモグラムは使ってるのかな?
使うんですけど結局解析ソフトで確かめたらやっぱりもっと増やしたほうがいいかも、とかもっと減らしたほうがいいかもってなって変えちゃうんですよね
結果うまくいかないということに……
忽那先生のブログ(?)(http://idconference.cocolog-nifty.com/idconference/2011/08/post-91e2.html)で取り上げられていた文献のノモグラムはわかりやすかったよ
このMandellのノモグラムを用いたことで55%がトラフ10–15 mg/Lに収まって、71%が10–20 mg/Lに収まったとのこと
それはすごいですね!
投与量もこういうときはこう! と単純明快で良さそうな印象ですし、こういうのを求めていました!
「トラフが10以上・・・?生ぬるい・・・オレは15を超えないと有効なトラフ値とは認めねえ!」と思われる硬派な方もいらっしゃるでしょうが、とりあえずの初期投与量の設定には使えそうです。
ID CONFERENCE
こういう人、いますよね
ところで忽那先生の書く文章ってユーモアにあふれにあふれていてすごく好きです
J-IDEOでも真っ先に忽那先生の連載「日本全国感染症ケースカンファレンス道場破り」を読んでいます!!
我らもユーモアあふれる会話を繰り広げたいものであるなあ
これからに乞うご期待でございますね
Mandellのノモグラムは使えそうですが、2009年の文献なんですね
10年以上たっているのでもしかしたら似たような感じでさらにいいやつが世に出てきているかもしれない!
という希望を胸にちょっと文献を探してみました
バンコマイシンの新しい初期投与量ノモグラム
Basic Clin Pharmacol Toxicol, 122 (2), 233-238 Feb 2018
Assessment of Appropriateness of an Initial Dosing Regimen of Vancomycin and Development of a New Dosing Nomogram
Seonghae Yoon , Kyoung Ryun Park , SeungHwan Lee , Sang-Hoon Song , Wan Beom Park , In-Jin Jang , Kyung-Sang Yu
- PMID: 28834212
- DOI: 10.1111/bcpt.12873
バンコマイシンはMRSAを含むグラム陽性菌感染症に用いられるグリコペプチド系抗菌薬である。
本研究の目的は現行のバンコマイシンの投与レジメンの妥当性を評価してレジメンの選択において考慮されるべき要素を判別した上で新しい投与量ノモグラムを作成することとした。
ソウル大学病院で2011年〜2013年におけるバンコマイシンのTDMデータを本研究に使用した。バンコマイシンの定常状態でのトラフ値はAbbott’s PKS software programを用いて推定し、それぞれ「治療量以下」「治療量」「毒性あり」の3つに分類した。
新しく作成したノモグラムは、2570人の初回TDM結果を用いて目的のトラフ値を得た患者の割合を基に評価した。
現行のレジメンでは「治療量」は約1/5の患者でしか達成されておらず、56%が「治療量以下」、23.8%が「毒性あり」とそれぞれ考えられた。体重とクレアチニンクリアランスが増加するにつれて、「治療量以下」の患者の割合が増加した。
新しく作成したノモグラムを使用することで「治療量」を満たした患者は23.1%→45.0%(トラフ10–15 mg/L)、また13.8%→36.2%(トラフ15–20 mg/L)に増加した。
これらの結果はバンコマイシンのトラフ値が治療量に届かなかったり安全上限域を超えてしまったりするのは年齢、体重とクレアチニンクリアランスに依るところが大きいことを示唆していた。
これらの要素を考慮した結果、新しいノモグラムは現行のレジメンと比べて迅速に狙ったバンコマイシンのトラフ値を達成する戦略を提案するものである。
(a) がトラフ10–15 mg/Lを目指すときの投与量、 (b)がトラフ15–20 mg/Lを目指すときの投与量みたいですね!
Mandellのノモグラムと比べると目標毎に投与量が定められているのと体重毎に細かく投与量が場合分けされているのが特徴ですね
このノモグラムを使うことで固定のレジメン(1000mg12時間毎)に比べてトラフ10–15 mg/Lは23.1%→45.0%に増加、トラフ15–20 mg/Lは13.8%→36.2%に増加したようだね
おぉ〜なかなか良さそうな印象です
でも腎機能が良いと8時間毎とか6時間毎になるんですね
1日4回はなんとなくなかなか提案しづらいかも……
トラフを上げてピークを下げるには1日の投与量を3回とか4回に分けるほうが望ましいとのことだよ
Higher troughs and lower peaks would be achieved by splitting the total daily dose into three or four equal portions, for example, 1000 mg 8 hourly instead of 1500 mg 12 hourly or 500 mg 6 hourly instead of 1000 mg 12 hourly.
より高いトラフと低いピークは、例えば1500mgを12時間毎より1000mgを8時間毎、1000mgを12時間毎より500mgを6時間毎のように総投与量を3回や4回に分割投与することで、達成されるだろう
Journal of Antimicrobial Chemotherapy, Volume 63, Issue 5, May 2009, Pages 1050–1057
なるほどですね
ちなみにひとつ前の台湾の研究でのノモグラムとも比較していて、それは本研究と比べて治療量を達成したのが29.6%と少なく、治療量以下だったのが47.9%と多かったとのこと
こっちのノモグラムのほうが凄いんだぜ! いえ〜い!
ってことですね
この図はそれぞれの投与法で治療量以下と治療量、毒性ありがそれぞれ何%だったかを比較したものです
たしかに新しいノモグラムでは固定量の投与と比べて治療量以下の割合は減少して治療量の割合が増加していますが、毒性あり群の割合はあまり変わらないんですね
蓋をあけたらトラフが30とかだったときの恐怖たるや……
バンコマイシンこわし
うーむノモグラム、使えそうではありますが、結局TDMソフトで確かめてみようってなりそうなふんいき……
まあまあ結局は小手先の技術だけじゃなくて、腎機能評価とかその他もろもろをしっかりできるようにならないとTDMマスターへの道はまだまだ遠いのではないだろうか
そうですね!
ノモグラムはとりあえず参考程度に使ってみて様子をみてみたいと思います!
今後の展望
バンコマイシンのTDMマスターを目指すための連載お勉強記事が開始するかもしれなかったりしなかったりするかもしれません!
ぜひぜひ乞うご期待されたし!