プレガバリン(リリカ®)は副作用として眠気を訴える患者が多いですよね。
どうしてプレガバリンはこんなに眠気が起きやすいんだろう。
そう思って文献を探していたところ
「プレガバリンは徐波睡眠を増やすことが知られている」
との記載を発見し、気になったので少し調べてみました。
もくじ
プレガバリンはどうして眠くなりやすいの?
こんにちは、市立病院お薬相談室の薬剤師うさぎです
室長のプレーリードッグせんぱいです
先日、せんぱいと二人でお薬の相談を受け付ける「お薬相談室」への配属が決まりました。
今日も今日とて患者さんからの相談に答えていきたいと思います。
緊張するけどがんばるぞい
こんこん!
入院患者のきつねです
ちょっと聞きたいのですが
やややっ!ななななんでしょう?
痛み止めでプレガバリン錠が開始になったんですが、やたらと眠気がすごいんです。
なんで痛み止めなのにこんなに眠気が出るのでしょうか?
やややっ!
プレガバリンで眠くなるって人、多いですよね
なんでなんでしょう?
ごほんっ
ふむ
プレガバリンは徐波睡眠を増加させる?
文献にこのような記載があったよ
ベンゾジアゼピン系薬剤は一般的に徐派睡眠を減少させるが、プレガバリンは徐派睡眠を増やすことが知られている。
Sleep. 2005 Feb;28(2):187-93.
じょ、徐波睡眠とは?
睡眠は大きくレム睡眠とノンレム睡眠に分類されるが,ノンレム睡眠のうち,出現する脳波の特徴として周波数の低い成分(徐波成分)が中心となる睡眠のことを徐波睡眠と呼ぶ。
ヒトにおいてはStage3とStage4がそれに該当し,睡眠の分類の中では深い睡眠にあたることから,健常者では熟眠感と関連があるとされているよ。2)
つまりプレガバリンはノンレム睡眠を増やすってことですね。
ベンゾジアゼピンは減らすのにプレガバリンは増やすとは。
ラットでは、プレガバリンはノンレム睡眠とレム睡眠を増加させ、ノンレム睡眠エピソードの持続時間を著しく増加させることが分かっているよう。3)
はえー
abstractしか読めなかったけれど、その他引用元の文献で関連がありそうな記載をまとめてみたよ
- プレガバリンはプラセボと比較して、全睡眠時間と睡眠段階4(最も深いノンレム睡眠の段階)に占める徐波睡眠の割合を有意に増加させた。
- プレガバリンとアルプラゾラムは、プラセボと比較して、わずかではあるが、入眠潜時を有意に減少させた。
- プレガバリンのREM潜時(最初のREM睡眠が出現するまでの時間)は、プラセボと変わらなかったが、アルプラゾラムのそれよりも有意に短かった。
- 治療薬間の差はなかったが、プレガバリンとアルプラゾラムは、全睡眠時間に占めるREM睡眠の割合をプラセボと比較して減少させた。
- また、プレガバリンは、持続時間1分以上の覚醒回数を有意に減少させた。
- Leeds Sleep Evaluation Questionnaireによる入眠のしやすさと睡眠の質の評価は、両薬剤の投与により有意に改善し、覚醒後の行動の評価は両薬剤の投与により有意に低下した。
むむ、眠くなる人が多いのも頷ける感じの結果ばかり……
プレガバリンの作用機序
不思議ですね、それって作用機序から読み取れたりするものなのでしょうか?
プレガバリンの作用機序を復習しようか
プレガバリンは中枢神経系において電位依存性カルシウムチャネルの機能に対し補助的な役割をなすα2δサブユニットとの結合を介して、カルシウムチャネルの細胞表面での発現量及びカルシウム流入を抑制し、グルタミン酸等の神経伝達物質遊離を抑制することが示唆されている。
リリカ錠®添付文書
むむ、そうでしたね。
中枢神経系において興奮系の神経伝達物質であるグルタミン酸を抑制する、中枢神経を抑制するというのは、確かになんとなく眠くなりそうな感じはありそうです。
疼痛を伴う不眠に使える?
徐波睡眠を増やす、ノンレム睡眠を増やす……
それってもはや眠剤みたいですね
そうであるなあ……
疼痛を伴う不眠には積極的に使えるかと思われるよ
せん妄リスクの疼痛を伴う患者(中略)では、その不眠に対して第一選択になりうる。
八田耕太郎(2020)「せん妄リスク患者の不眠にはどう対応するか」月刊薬事Vol.62, No.8, Page1541-1545
確かに痛み止めを出して、眠れないから眠剤も出して……
となるよりは一剤でまかなえるので一石二鳥感はありますね
日中に寝てしまわないの?
でもでも、そんなに睡眠に影響するなら日中もずっと眠っちゃわないか心配ですね……
実際にそういう人も見たことありますし……
確かに日中にもプレガバリンの薬効で傾眠傾向というのはありえるかもしれない
ですよね、なんてったって徐波睡眠増やしますからね
でも、ずっと続くというものでもなさそうだよ
国内第Ⅲ相試験の結果(下表)では、投与初期に多く認められ、長期投与により発現率が上昇する傾向は認められず、重症度についても変化することがなかったよう。
投与初期に傾眠が認められた症例においても、74.3%(52/70例)が投与中に症状が消失したみたい。
そうなんですね、それは服薬指導のときにぜひ伝えるべきですね!
また、わたしが日夜愛読している書籍こと実践薬学に次のような記載があったよ。
「脳にある強力な覚醒機構の発動」ーこれが答えだ。脳に強力な覚醒機構が備わっているおかげで、睡眠薬が定常状態に達しても、朝になるとちゃんと目覚めることができるし、眠気が1日中続くこともないわけだ(もちろん、過量ならば話は別で、持ち越しという副作用となって現れる)
山本雄一郎(2017)「薬局で使える実践薬学」日経BP
覚醒機構があれば日中の眠気も抑えられるんですね
投与量も初期用量や維持量が細かく決まっているので、とりあえずはそれが守られているかの確認は絶対ですね
腎機能低下患者における投与方法
うむ、そして引用元にもあるように、過量ならば話は別だよ
腎機能に応じても調節が必要であるしなあ
たしかに、眠気やめまいがひどいという人は腎機能に応じて投与量が調節されていなかったなど過量だったというケースが多いかもしれません
そのあたりについては、昔のブログでまとめているので、興味のある人は参考にしてください!
リリカの至適な投与法とは?~副作用を回避するために~ ー 薬剤師メモ http://pharmacists-memo.blog.jp/archives/26900309.html
記事中より
「投与初期は効果を期待するよりも副作用を抑制するために徐々に血中濃度を上昇させる期間と考えたほうがよい」
おそらくどこかからの引用ですが、自分で書いておいて忘れていました。これはぜひ覚えておきたいですね。
おまたせしました
はい
痛み止めなのに眠気がたくさん出て不安なんですよね。心中お察しします。
この薬は痛みを抑えるために中枢神経のはたらきを抑制するので、睡眠にも影響が出ているのだと思います。
しかし、だんだん慣れてきて内服を続けていくうちに徐々に眠気を感じることが少なくなってくることがわかっているので、安心して服用してください。
そうなんですね、わかりました
(ドヤ顔)
またのご利用をお待ちしております(ドヤ顔)
- プレガバリンは徐波睡眠を増やすことが知られている。
- 入眠潜時やREM潜時、覚醒回数を減らしたりもする。
- プレガバリンはα2δサブユニットとの結合を介して、カルシウムチャネルの細胞表面での発現量及びカルシウム流入を抑制し、グルタミン酸等の神経伝達物質遊離を抑制する。
- 副作用としての傾眠は投与初期に多く認められ、長期投与により発現率が上昇する傾向は認められず、重症度についても変化しない。
- 投与初期に傾眠が認められた症例においても、大多数が投与継続中に症状消失する。
- 疼痛を伴う不眠患者には積極的な選択肢となりうるかも。
- 腎排泄のため腎機能低下患者に対する用量は要注意。
- 投与初期は効果を期待するよりも副作用を抑制するために徐々に血中濃度を上昇させる期間と考えたほうがよい
- Tobias Atkin , Stefano Comai, Gabriella Gobbi(2018) Drugs for Insomnia beyond Benzodiazepines: Pharmacology, Clinical Applications, and Discovery, Pharmacol Rev;70(2):197-245.
- 薬学用語解説 – 日本薬学会
- Kubota T, Fang J, Meltzer LT, and Krueger JM(2001) Pregabalin enhances nonrapid eye movement sleep. J Pharmacol Exp Ther 299:1095–1105.
- リリカ®OD錠25mg添付文書
- 八田耕太郎(2020)「せん妄リスク患者の不眠にはどう対応するか」月刊薬事Vol.62, No.8, Page1541-1545
- Ian Hindmarch, Jean Dawson, Neil Stanley(2005)A double-blind study in healthy volunteers to assess the effects on sleep of pregabalin compared with alprazolam and placebo, Sleep. Feb;28(2):187-93.
- 山本雄一郎(2017)「薬局で使える実践薬学」日経BP
- リリカ®カプセル 審査報告書