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乗り物酔いには生姜が有効?

乗り物酔いに使う薬の勉強をしようと文献を読んでいたところ、乗り物酔いに生姜が効くかもしれないという記述を見て気になったので薬の勉強そっちのけで調べてみました。

生姜が乗り物酔いに効くかどうか興味がある方、乗り物酔いしやすい方はぜひ読んでみてください。

乗り物酔いには生姜が有効?

乗り物酔いに対する生姜の有効性はある?

・ドイツのコミッションE (薬用植物評価委員会) は消化不良と乗り物酔いに対しての使用を承認しているが、効果は認められなかったとする報告もある。

・つわり、抗レトロウイルス誘発性や術後の吐き気、嘔吐の軽減、月経困難症、めまい、変形性関節症に対して有効性が示唆されている。

National Institutes of Biomedical Innovation, Health and Nutrition. 

生姜は乗り物酔いへの効果があるとして使用を承認されている国もあるようですが、効果がないという報告もあるようです。

しかし、吐き気や嘔吐の軽減への有効性が示唆されているということからは、乗り物酔いへも一定の効果が認められそうですがどうなのでしょうか。

乗り物酔いに生姜が効く機序

生姜に含まれる物質は、嘔吐中枢に重要な役割を持つ5-HT3受容体阻害薬として作用すると考えられています

The substances it contains are believed to act as antagonists at the 5-HT3 receptor, which has an important role in the vomiting center.

Dtsch Arztebl Int. 2018 Oct; 115(41): 687–996.

生姜の成分が5-HT3受容体阻害作用を持つと考えれているとのこと。

生姜の主な成分としては、ショウガオールとジンゲロールが有名ですね。

詳細な成分としては以下の通り。

生姜の主な成分

辛味関連成分 (6-ジンゲロール、8-ジンゲロール、10-ジンゲロール、6-ショウガオール、8-ショウガオール、10-ショウガオール、ジンゲロン、ジンジャジオール、ジンジャジオン) 、セスキテルペン、ビフェニルヘプタノイド等

種々の前臨床研究や臨床研究により、生姜は様々な催吐性刺激に対して制吐効果があることが示されているようです。

乗り物酔いに生姜が効くという報告

前向きプラセボ比較試験において生姜は副作用の少ない制吐剤として使用しうることが示されている。

There are indications, even including a prospective, placebo-controlled study of sea cadets, showing that ginger can be used as an antiemetic with few adverse effects.

Dtsch Arztebl Int. 2018 Oct; 115(41): 687–996.

生姜は制吐剤として使用しうるとの見解。

元文献を辿ってみたところ、1988年の二重盲検無作為化プラセボ試験(PMID: 3277342)の結果ようです。

まだ航海に慣れていない80名の海軍士官候補生が、航海中に1gの生姜の粉末根茎またはプラセボを摂取した後、4時間の間1時間ごとに船酔いの症状を報告しています。

生姜を摂取することにより、嘔吐と冷や汗がプラセボよりも有意(p<0.05)に改善しているようですね。

この文献では「乗り物酔いに対する非薬学的介入」として、摂取するものとしては生姜の他にもビタミンCやプラセボを挙げています。

エビデンスレベルをA〜Cの三段階で分類しており、ビタミンCやプラセボはCなのに対して生姜はBとなっていました。

ちなみにその他の非薬学的介入も含めて唯一のエビデンスレベルAは「慣れ」でした。慣れるまでがつらいのです……という感じはしますね。

多くの人が船酔いの症状は数日の海上生活を経てなくなるし、宇宙飛行士も重力に慣れる、とのこと。

慣れるまでがつらいのです……その数日間がつらいのです……。

嘔吐が有意に減ったとのことなので、しゃにむに生姜をむさぼれば良いのでしょうか。

効かないという報告も見てみましょう。

乗り物酔いに生姜が効かないという報告

非鎮静性抗ヒスタミン薬、オンダンセトロン、生姜根は乗り物酔いの予防と治療には無効である。

生姜根はよく乗り物酔いを予防することが報告されているが、80人の海軍士官候補生を対象としたRCTでは、統計的に有意な効果はなかった。

Nonsedating antihistamines, ondansetron, and ginger root are not effective in the prevention and treatment of motion sickness.

Although ginger root is often reported to prevent motion sickness, it had no statistically significant effects in an RCT of 80 naval cadets

Am Fam Physician. 2014 Jul 1;90(1):41-6

乗り物酔いには生姜は効かなかったという報告。

元文献を辿ってみたところ、1988年の文献(PMID: 3277342)のようです。

1988年の文献……。

……上で効果があったとする報告と同じ……!!なんということでしょう。

上述したように生姜を摂取することにより嘔吐と冷や汗に関してはプラセボよりも有意に改善させていますが、文献にはまだ続きがありました。

なにかというと、プラセボよりは少なかったようですが吐き気とめまいの症状に関してはその差は統計的に有意ではなかったとのこと。

どのくらい少なかったかはアブストラクトしか読めなかったのでわかりませんが、「Remarkably fewer symptoms」とのことで著しく症状は少なかったようです。

「乗り物酔い」の解釈にもよるのでしょうか。確かによく見てみると先に挙げた「有効」とした文献では「酔い止め」として有効とは言っていないようにも見えます。

ただ、この文献からは生姜が嘔吐を減らすことは確認されているようです。

臨床研究では生姜の粉末は他の旅行で引き起こされる吐き気や嘔吐の出現抑制において他の制吐薬と同様に有効であることが実証されているが、探索的な介入研究ではおそらく異なる刺激パターンや評価方法のため物議を醸す結果となっているようだ。

Clinical studies have demonstrated that powdered ginger was as effective as other anti‐emetics in reducing the incidence of nausea and vomiting caused by traveling, while exploratory experimental studies had controversial outcomes possibly due to different stimulation patterns and evaluation methods 

CNS Neurosci Ther. 2016 Jan; 22(1): 15–24.

これも一定の効果は見込めているが、様々なパターンで検証したところ必ずしも全例で有効とは言えないといった見解のようですね。

まとめ

今回の記事では、生姜の乗り物酔いに対する効果について文献を基に検証しました。

本記事のまとめ
  • 乗り物酔いに対しての使用を承認している国もあるが、効果が認められなかったとする報告もある。
  • 生姜はつわり、抗レトロウイルス誘発性や術後の吐き気、嘔吐の軽減、月経困難症、めまい、変形性関節症に対して有効性が示唆されている。
  • 乗り物酔いによる嘔吐と冷や汗はプラセボよりも有意に改善したが、吐き気やめまいの軽減は有意に改善しなかった(著しく軽減はしていた)。

有効である可能性がある反面、有効でない可能性もあるという歯切れの悪い結果になってしまいました。

ただ、薬でも100%有効というものはあまり無いのでこんなものでしょうといった気はします。

食べ物なので薬(他の酔い止め)のような副作用の心配をあまりしなくて良いというところは大きなメリットだと思います。

そのため、乗り物酔いしやすい人はとりあえずおやつとして生姜をひとかけら持っていくというのも、ありなのではないでしょうか。

そんなことを思った今日この頃でした。

参考文献

  • Andrew Brainard et al, Prevention and Treatment of Motion Sickness, Am Fam Physician. 2014 Jul 1;90(1):41-6.
  • Li‐Li Zhang et al, Motion Sickness: Current Knowledge and Recent Advance, CNS Neurosci Ther. 2016 Jan; 22(1): 15–24.
  • A Grøntved et al, Ginger Root Against Seasickness. A Controlled Trial on the Open Sea, Acta Otolaryngol. Jan-Feb 1988;105(1-2):45-9.

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