新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するワクチンの接種が始まっていますね。
薬剤師の方は患者や他職種から内服薬の継続是非に関する問い合わせを受けることも多くなってくると思います。

私いろいろ薬を飲んでいるのですが、ワクチン打って大丈夫でしょうか?

コロナワクチンの後は熱が出やすいってテレビで言ってたでござる!
アセトアミノフェンとか解熱鎮痛薬ってワクチン後の発熱予防にあらかじめ飲んでおいて良いのかな?

抗ヒスタミン薬や解熱鎮痛薬はワクチン接種前には飲まないほうがいいって聞いたけど、定期的に服用している患者さんもきっちり休薬すべき?
今後も高齢者から若年者まで接種は続いていくと思うので、不必要な休薬や休薬すべき薬の未休薬を防ぐために、一度新型コロナウイルスワクチン接種時の薬の休薬についてまとめることにしました。
患者さんの内服薬の休薬について、判断に迷った際に役立ちそうな情報を集めています。
ぜひ参考にしていただけると幸いです。間違い等ありましたらご指摘お願いします。
また、これらはあくまで現時点での情報なので、今後新たな知見で情報が更新されるかもしれません。
できるだけ更新していこうとは思いますが、利用の際は参照元の改訂情報など最新情報を確認するようにしてください。
もくじ

解熱鎮痛薬
ワクチン接種後の発熱を予防するためにアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬を服用して良いのでしょうか?
答えはNoです。
ワクチン接種後の症状を予防する目的で解熱剤や鎮痛剤を予防的に投与することは、COVID-19ワクチンによる抗体産生への影響に関する情報が集積されていない2)という理由で現在のところ推奨されていません。
CDCも「ワクチン関連の副作用を予防する目的で、予防接種前にイブプロフェン、アスピリン、アセトアミノフェンなどの市販薬を服用することはお勧めできない1)」としています。
では、疼痛緩和目的等で定期服用している解熱鎮痛薬をあえて休薬する必要はあるのでしょうか。
CDCは接種前に解熱鎮痛剤を服用することは「『これらの薬を定期的な薬の一部として服用している場合を除き』推奨されない2)」としており、
米国リウマチ学会の見解では、アセトアミノフェンやNSAIDsは「『病状が安定していることを前提に』ワクチン接種前に24時間休薬する(推奨度:中等度)3)」となっています。
これらをまとめると、
ワクチンの効果を最大限に発揮するためには解熱鎮痛薬は飲まないほうが現状では望ましいが、休薬により病状が悪くなる場合(疼痛コントロールがつかなくなるなど)は必ずしも休薬する必要はない。
と言えそうです。
ちなみに、ワクチン接種後の症状改善のための使用には制限なしとされています。
抗ヒスタミン薬
アレルギーが起きないように抗ヒスタミン薬を予防的に飲むのはどうでしょうか。
これも答えはNoです。
日本アレルギー学会では「予防的なヒスタミン H1受容体拮抗薬投与は、かえってアナフィラキシーの初期症状を不明瞭にしてしまう危険性があるため好ましくない4)」としています。
CDCも
「アレルギー反応を予防するためにCOVID-19ワクチンの接種前に抗ヒスタミン剤を投与することは推奨されない5)」
「抗ヒスタミン剤はアナフィラキシーを予防しない5)」
「抗ヒスタミン剤の使用は皮膚症状を覆い隠してしまう可能性があり、アナフィラキシーの診断と治療を遅らせることになる5)」
としており、アレルギーやアナフィラキシーが起こるのが嫌だからと予防的に抗ヒスタミン薬を飲むのは意味がないだけでなくむしろ悪影響があるためやめた方がいい、というのは間違いなさそうです。
では、定期的に飲んでいる抗ヒスタミン薬を休薬する必要はあるのでしょうか。
日本アレルギー学会では「他の疾患に対して投与中のヒスタミンH1受容体拮抗薬を中止する必要はない4)」としています。
これは私見ですが、継続中の抗ヒスタミン薬を中止して鼻炎や蕁麻疹が再燃したり掻痒が発生したりした場合に、それはそれでアレルギー反応との鑑別が難しくなりそうな気がするので、普段と変えない方が良いのかもしれません。
つまり、解熱鎮痛薬と同じように
できれば飲まないほうが良いが、定期的に飲んでいて休薬により症状悪化が懸念される場合は必ずしも休薬する必要はない。
と言えるかと思います。
抗凝固薬、抗血小板薬
休薬する必要はありません。
厚生労働省の資料6)では、抗凝固薬は「接種後の出血に注意が必要なために、2分間以上はしっかり押さえる」とされているので、その点はしっかりと患者さんに伝える必要があるでしょう。
(抗血小板薬の場合は特に押さえる必要はないとされています)
予診票に記載された「血をサラサラにする薬」について(外部リンク)
ステロイド、免疫抑制薬、抗リウマチ薬
日本リウマチ学会のHPではステロイドや免疫抑制剤の服用に関して、
現時点でステロイドや免疫抑制剤がこのワクチンにあたえる影響はわかっていません。 一般論としてリツキシマブ投与によってインフルエンザや肺炎球菌ワクチンの抗体産生が抑制されるとの報告がありますが、2020年にヨーロッパリウマチ学会から発表されたワクチン接種に対する一般的な推奨では、ベネフィットを考慮した上であればリツキシマブの影響下であってもワクチン接種を行ってもかまわないとされています。 通常のワクチン接種の場合、免疫抑制剤やステロイドを中止・減量することはありませんので、接種前後で免疫抑制剤やステロイドは変更せず継続すべきと考えます。
と記載されています。
また、これとは別に米国リウマチ学会で抗リウマチ薬のワクチン接種時の対応がまとめられていたので表にしました。
名前 | 変更ありorなし | 推奨度 |
---|---|---|
ステロイド(プレドニゾロン相当<20mg/日) | 変更なし | 強〜中等度 |
ステロイド(プレドニゾロン相当>20mg/日) | 変更なし | 中等度 |
メトトレキサート(リウマトレックス®) | 疾患が十分にコントロールされている場合、2回とも接種後に1週間休薬する(1回接種の場合は2週間)。 | 中等度 |
JAK阻害薬(ゼルヤンツ®、オルミエント®、リンヴォック®) | ワクチン接種後、1週間休薬する。 | 中等度 |
アバタセプト(オレンシア®)皮下注 | 初回接種の前後1週間は休薬(2回目は休薬なし) | 中等度 |
アバタセプト(オレンシア®)点滴静注 | 1回目のワクチン接種をアバタセプトの点滴から4週間後に行い、2回目以降のアバタセプトの点滴を1週間遅らせる(合計5週間空ける)ようにワクチン投与のタイミングを調整する(2回目は休薬なし) | 中等度 |
シクロホスファミド(エンドキサン®) | 可能であれば各ワクチン接種の約1週間後に投与するよう設定する。 | 中等度 |
リツキシマブ(リツキサン®) | 患者のCOVID-19リスクが低いか、健康上の予防措置(自己隔離など)によってリスクを軽減できると仮定して、次回のリツキシマブ投与予定約4週間前に開始するようワクチン接種をスケジュールする。 ワクチン接種後、可能であれば最終ワクチン接種から2~4週間後に投与を延期する。 | 中等度 |
その他休薬の必要がない薬として記載のあった薬:サラゾスルファピリジン(アザルフィジン)、レフルノミド(アラバ)、アザチオプリン(イムラン)、シクロホスファミド(経口)、TNFα阻害薬(レミケード、エンブレル、エタネルセプト、ヒュミラ、アダリムマブなど)、IL-6R抗体(アクテムラ)、IL-17阻害薬(コンセンティクス)、ベリムマブ(ベンリスタ)、経口カルシニューリン阻害剤)シクロスポリン(ネオーラル)、タクロリムス(プログラフ)
どうやら間隔を空けたほうが良さそうな薬がいくつかありますね。
ただこれは絶対休薬すべきというものではなく、あくまでも米国リウマチ学会としての見解であって確固たるエビデンスがあるものでもないようです。
日本リウマチ学会では特にこれらを中止すべきだとは述べられていないということもあり、あくまでも参考情報の一つとして、症状などを見ながら主治医と相談して決める必要があるでしょう。
ちなみに、リツキシマブに関して日本腎臓学会では次のような見解7)でした。
リツキシマブは B 細胞を枯渇させ、インフルエンザや肺炎球菌ワクチン接種後の抗体産⽣を抑制することが知られています。そのため、リツキシマブ使⽤中の患者については、ワクチン接種時期の検討が必要かもしれません。 (中略) 実際には、⼗分な間隔をあけることが難しい症例も多く、個々の患者における疾患活動性や感染リスクを考慮し、接種時期を決定する必要があると考えられます。また、COVID-19 ワクチンは細胞性免疫も活性化すると考えられており、B 細胞が少ない状況で接種した場合も、ある程度の効果が期待できる可能性があります。
日本国内においても学会によって意見が分かれているということもあり、やはり最終的には個々の患者に応じて検討すべきということでしょう。
抗がん剤
抗がん剤については、日本癌治療学会、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会の3学会が合同で作成しているページに情報が網羅されているためリンクを貼っておきます。
新型コロナウイルス感染症とがん診療についてQ&A-患者さんと医療従事者向けワクチン編 第1版-(3/31)(日本臨床腫瘍学会の外部リンク)
細胞傷害性抗腫瘍薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などについて、接種の可否や接種のタイミング、投与後の注意などがわかりやすくまとまっています。

現時点で見つかった新型コロナウイルスワクチン接種時の薬の内服について参考になりそうな情報をまとめました。
今のところ確実に言えるのは今まで飲んでいなかった解熱薬や抗ヒスタミン薬などの薬を予防的に飲むのは避けたほうがいいということでしょうか。
医療従事者以外の人で普段飲んでいる薬がある人は自己判断で休薬せず、主治医や薬剤師に相談するようにしてください。
医療従事者の方は患者の内服薬の休薬について迷った際に参考にしていただけると幸いです。
また、これらはあくまで現時点での情報なので、今後新たな知見で情報が更新されるかもしれません。
できるだけ更新していこうとは思いますが、使用の際は参考元の改訂情報などを確認するようにしてください。
- CDC-Answering Patients’ Questions About COVID-19 Vaccine and Vaccination(https://www.cdc.gov/vaccines/covid-19/hcp/answering-questions.html 2021/5/27取得)
- CDC-Preparing for Your COVID-19 Vaccination(https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/prepare-for-vaccination.html 2021/5/27取得)
- AMERICAN COLLEGE ofRHEUMATOLOGY COVID-19 Vaccine Clinical Guidance Summary for Patients with Rheumatic and Musculoskeletal Diseases Developed by the ACR COVID-19 Vaccine Clinical Guidance Task Force 2021/5/27取得
- 一般社団法人日本アレルギー学会「新型コロナウイルスワクチン接種にともなう重度の過敏症(アナフィラキシー等)の管理・診断・治療」
- Interim Clinical Considerations for Use of COVID-19 Vaccines Currently Authorized in the United States(https://www.cdc.gov/vaccines/covid-19/info-by-product/clinical-considerations.html 2021/5/27取得)
- 厚生労働省 予診票に記載された「血をサラサラにする薬」について
- 日本腎臓学会「腎臓病で免疫抑制療法を受けている患者さんへのCOVID-19ワクチン接種に関する見解」https://jsn.or.jp/medic/data/For-healthcare-professionals_ver%202.pdf 2021/5/27取得
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