H2受容体拮抗薬とPPIでのせん妄発現を比較した論文のビジアブ(ビジュアル・アブストラクト)を描いています。
最近あった実話を基に改めてまとめてみました。年に何回かはこの事例を見る気がしています。
果たしてPPIと比べてH2受容体拮抗薬ではせん妄が誘発されやすいのでしょうか?
もくじ
PPIと比べてH2受容体拮抗薬ではせん妄が誘発されやすい?
この人、95歳でファモチジンを20mg2錠2×で飲んでる……これは……
前のブログに書いたけど、せん妄とか起きないかしら……
日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」にもH2受容体拮抗薬(H2RA)は認知機能低下やせん妄のリスクがあるから可能な限り使用を控えるって書いてた気がする……!
ずっとこの量で飲んでるのかなあ。ずっと飲んでて問題ないならいいのかなあ
と思ったけどお薬手帳がないからわからない……とりあえず様子見かしら。
あっ薬剤師うさぎ! 昨日入院したおばあちゃん、夜めちゃくちゃ不穏で大変だったわ!!
なんと! 悪い予感が当たってしまった……!
ちょっと持参のファモチジンの影響もあるかもしれない……中止するかPPIに変えてもらうかあとで先生に相談してくる
ファモチジン? 胃薬なのに? よくわからないけどよろしく!
そして論文ないか探してみよう
文献:がん患者においてH2RAとPPIで誘発されるせん妄の比較と分析
Case Reports Case Rep Oncol, 5 (2), 409-12 May 2012
Comparison and Analysis of Delirium Induced by Histamine h(2) Receptor Antagonists and Proton Pump Inhibitors in Cancer Patients
Shiro Fujii 1, Hitoshi Tanimukai, Yujiro Kashiwagi
- 1Department of Psychosomatic and Palliative Medicine, Osaka Medical Center for Cancer and Cardiovascular Diseases, Osaka, Japan.
- PMID: 22949902
- PMCID: PMC3433017
- DOI: 10.1159/000341873
せん妄の程度はDRSで評価しているよ。
DRSとは3個の診断項目と13個の重症度項目をもとに重症度を経時的に評価するのに使われるツールで点数が大きいほうが重症度が高いよ。
せん妄が発現したH2RA13例のうち12例はファモチジン、1例はラニチジンで、PPI5例のうち2例はランソプラゾール、3例はオメプラゾールだったとのこと!
H2RAを中止することでせん妄発現が減ることが示唆されたという論文ですね。
せん妄リスクが高い人には、せん妄抑制のためにPPIを第一選択として使用することがせん妄の発現を減らすかもしれないと締めくくられています。
本研究はH2RAとPPIでのせん妄発現を比較した最初の報告だそうです!
興味深いね。
H2RAでせん妄が発現した患者が有意に多かったのだね。
H2RAの用量は適切だったのだろうか?
重度腎障害患者は開始前に除外されていて、せん妄が発症した患者のうち2名(67歳と68歳)だけが腎障害があって、その程度は中等度だったと記載されています。
H2RAの用量は本文にも記載されていないため適切だったかどうかはわからないですが、その2名以外は腎機能は正常だったと考えるとだいたい適切だったと考えていいんじゃないでしょうか。
ファモチジンの半減期は添付文書には約3時間って書かれてますが、腎障害のある高齢者に投与した際は20時間を超えるほど延長するらしいですね。
別の研究ではシメチジンを服用していて精神症状を呈している患者の脳脊髄液からシメチジンが検出されたとのことです。
加齢により血液脳関門が脆くなっていることが腎障害とも関連して血中と脳脊髄液中濃度上昇からのせん妄発現に寄与しているみたいですね。
この論文に何か弱みはあるだろうか?
①レトロスペクティブかつサンプルサイズが小さい
②ランダム化されてない
③H2RAの血中濃度と脳脊髄液中の濃度測定がされてない
ことの3点を筆者らも指摘してますね。
でもH2RAのせん妄との関係を示した初めての報告とのことなので意義は大きいと思います……!
これは2012年の報告ですがこれ以降ざっと見たところPubMedで類似の報告は見当たりませんでしたし……
そうなんだね
もしせん妄発現した患者がH2RAを飲んでいて、PPIに変更するだけで(H2RAが原因であれば)3日前後で改善するのであれば、迷わずそうするべきだと思いました。
あえてH2RAを使わなきゃいけない理由もたぶんあまりなさそうですしね。
うむ。
たかが胃薬、されど胃薬であるなあ。
文献はこちら!