高カルシウム血症の原因として3番目に多いとされるミルクアルカリ症候群。
ビタミンD3製剤と酸化マグネシウムの併用もリスク因子になったりその他注意が必要な併用薬もあったり。最近ではサプリメントの影響で増加している傾向もあるとか。
併用薬……サプリメント……これは薬剤師も対策できるように十分知っておく必要がある!
そう思い、今回はミルクアルカリ症候群について薬剤師が知っておきたいことをまとめてみました。
もくじ
ミルクアルカリ症候群について薬剤師が知っておきたいいくつかのこと
ミルクアルカリ症候群の概要
せんぱい、最近「ミルクアルカリ症候群」って単語を知ったんですが、それって何なんですか?
ミルクアルカリ症候群とは
高カルシウム血症
代謝性アルカローシス
腎機能低下
の三要素を特徴とする病態のことであるぞよ
三要素も……!
なにやら恐ろしげなふんいき
急性期に高カルシウム血症を急速に発症し、放置すると急性腎不全および転移性石灰化を発症することがあると言われている
「ミルクアルカリ」ということは牛乳のとりすぎとかが原因になるんですか?
うむ、かつてはそうだったんだけど今となってはちょっと違うと言えよう。
そもそもミルクアルカリ症候群は1930年代に消化性潰瘍の治療、題して「Sippy(シッピー)」に牛乳と炭酸水素ナトリウムを用いていたときに発見されたことから名付けられたんだけど、PPIやH2RAの登場でそんな治療法は今はもう使われてないよね。
シッピー……たしかに聞いたことないですね
では何が原因なんですか?
カルシウムとアルカリの過剰摂取が原因とされているよ
有識者の間では名前を「カルシウム-アルカリ症候群」に変えるべきという意見もあるよう
そうなんですね!
でもあんまり聞いたことない病態なのですが、そんなに頻度は多くないレア病態なんじゃないですか?
いや、ミルク-アルカリ症候群は現在、高カルシウム血症の10%以上を占めているとされていて、副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍の高カルシウム血症に次いで3番目に多い原因であることが示されているよ
なんと、知りませんでした
ミルクアルカリ症候群は、高カルシウム血症、代謝性アルカローシス、腎機能低下の三要素を特徴とし、カルシウムとアルカリの過剰摂取が原因である[1]
ミルク-アルカリ症候群は現在、高カルシウム血症の10%以上を占め、副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍の高カルシウム血症に次いで3番目に多い原因であることが示されている[3]
ミルクアルカリ症候群の最近
昔みたいに消化性潰瘍の治療に牛乳を使っているわけでもないのに、なんで高カルシウム血症の原因3番目になるほど多いんでしょうか?
最近はテレビのCMとか新聞とかいろんなところでカルシウムのサプリメントの宣伝がされていたり、テレビで芸能人がカルシウムをたくさん採っていることを話していたりするよね
そんなこんなで人々の間でカルシウムの重要性に対する認識が高まって、ドラッグストアで簡単に買えることもあり摂取量が増えていることが一因となっているようだよ
たしかにドラッグストアとかのサプリメントコーナーにはたくさんのサプリメントが売っていますよね
あと慢性腎臓病の患者には、二次性副甲状腺機能亢進症の予防のために炭酸カルシウムが頻繁に処方されていたりもする
シナカルセトとかですね
うむ。そんなこんなで、ここ数年でミルクアルカリ症候群の症例は増加しているようだよ
特に閉経後の女性に多くみられるようになっているとのこと
カルシウムの重要性に対する認識が高まり、入手が容易になり、カルシウムを含むサプリメントが頻繁に処方されるようになったことで、ここ数年でミルクアルカリ症候群の症例が増加している[1]
現在では、炭酸カルシウム製品の摂取量の増加により、閉経後の女性に多くみられるようになっている[3]
ミルクアルカリ症候群の機序
わたし、機序が気になります!
いくつかの因子が絡み合っているといえよう
以下のフローチャートに示してみました
Ca摂取増などさまざまな要因にて
尿細管のカルシウム濃度が上昇すると、ナトリウム排泄と自由水クリアランスが増加し循環血漿量が減少するため、近位尿細管での重炭酸塩の再吸収が促進される。血清カルシウム濃度上昇に伴うPTH(副甲状腺ホルモン)分泌減少も重炭酸塩再吸収を促進する[6]
STEP2.の作用にてアルカローシスが維持される
アルカローシスにより遠位尿細管でのCa再吸収増加
アルカローシスが血清カルシウム濃度上昇の原動力となる
高カルシウム血症は腎血流およびGFRを低下させる血管収縮、ナトリウムおよび遊離水排泄物の増加、体積減少を誘発する吐き気および嘔吐を介して腎機能を低下させる[2]
高カルシウム血症で腎血管収縮が引き起こされ、それによってGFRが低下すると、ろ過されるカルシウム量が減少して悪循環を自己進行させる[5]
高Ca血症は,集合管のHポンプを刺激してアルカローシスを増強する[7]
Caの上昇はPTH分泌をますます抑制する[7]
一度確立されると、高カルシウム血症、アルカローシス、および腎機能の低下は、自己永続的なサイクルを促進し、持続・増悪していく[2]
とりあえずアルカローシスとカルシウム負荷が共存している場合に起こりうるものと覚えておきましょうぞ
ミルク-アルカリ症候群の病態生理学的メカニズムは複雑であり、いくつかの相互に関連する因子が関与している。
ミルク-アルカリ症候群は、アルカローシスとカルシウム負荷が共存している場合に起こりうるものであり、カルシウム源でありアルカリ源でもある炭酸カルシウムの過剰摂取は、カルシウム-アルカリ症候群の現代症例の主な原因となっている[1]
ミルクアルカリ症候群の併用薬の影響
注意するべき薬とかありますかね
まずはビタミンD3製剤だね
ビタミンDは腸管からのカルシウム吸収や腎臓におけるカルシウム再吸収を促進して、ミルクアルカリ症候群の発症に寄与しますからね
酸化マグネシウムも要因の一つとたりえるよ
なんと、ビタミンD3製剤と酸化マグネシウムを併用している高齢の方はたくさんいますよ
活性型ビタミンD(アルファカルシドール、1.0μg/d)と酸化マグネシウムの過剰摂取(6.0g/d、通常の3倍)で発症した例[2]があるよ
なんと、なんとなんと
このときの考察として筆者は次のように述べておりました
酸化マグネシウムは胃で制酸剤として作用し、腸管内で炭酸マグネシウムと炭酸水素マグネシウムに変換されるが、いずれも吸収性が低く、浸透圧的に保水を媒介して下剤として作用する。
多量の酸化マグネシウムを摂取することで、マグネシウムと重炭酸マグネシウムの腸管吸収が大幅に誘導された可能性がある。
……つまり?
つまり、MgはCa感知受容体(calcium-sensingreceptor;CaSR)を刺激して副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を抑制するから、それによるPTH低下のために腎臓からのHCO3-の再吸収が増えてアルカローシス方向に向かうということだね[7]
この症例では酸化マグネシウムを6g/日とたくさん飲んでいたようですが、この記述を見ると通常量でも誘因となる可能性は十分ありそうですね
ビタミンD3製剤と酸化マグネシウムを併用している人は特に注意が必要かもしれないね
他にも文献では次のような薬がミルクアルカリ症候群と関連する薬剤として挙げられていたよ
チアジド系利尿薬は、腎臓からのカルシウムの再吸収を増加させ、体積減少によるアルカローシスが促進されるため、ミルクアルカリ症候群になりやすい[3]
アンジオテンシン変換酵素阻害薬、非ステロイド性抗炎症薬はGFRを低下させて腎カルシウム排泄を減少させるため、ミルクアルカリ症候群と関連する[3]
どれもよく飲んでいる人が多い薬ですね
ミルクアルカリ症候群の治療
治療はどうすれば良いのでしょう
下をごらんください
軽度の高カルシウム血症の場合、必要な介入はほとんどの場合炭酸カルシウムである原因物質を取り除くことだけである。高カルシウム血症およびアルカローシスは、ミルクアルカリ症候群では原因物質が除去されることで急速に是正される[1]
重度の高カルシウム血症は病院で管理される。細胞外液量の回復、GFRとカルシウム排泄量の増加、カルシウム補給の中止が最良の治療法である[5]。遷延する場合は、十分な輸液をした上で利尿薬、ビスボスホネート製剤、カルシトニン製剤を適宜使用する[9]
基本的には早急に原因を取り除きましょうということだね
薬剤師としては、普段行っているように検査値を見てカルシウム値が高ければカルシウム製剤の休薬を医師に確認したりすべきということですね
アルブミン値をチェックして、低アルブミン血症の患者では補正したカルシウム値を計算することを忘れないようにしようぞ
補正Ca(mg/dL)=実測Ca(mg/dL)+4-血清アルブミン濃度(g/dL)
ミルクアルカリ症候群の指導
最初に書いたようにいまは多彩なサプリメントを容易に入手できることを考えると、患者さんの併用薬だけではなくOTC、サプリメントの服用状況もしっかりと把握しておきたいところだね
処方薬と市販薬での成分の重複なども起こりうるだろうし、サプリメント同士で成分が重複してしまうことも少なくないだろうし
患者さんにもサプリメントを買うときは必ず薬剤師に相談してもらったり、自分でも含有成分に注意してもらうようにしてもらいたいですね
あとは高カルシウム血症の一般的な症状について説明して、自分でも気付けるように指導するのも重要であろう
高カルシウム血症は、特徴的な症状に乏しいです。軽度の場合は無症状です。血清カルシウム値が、12~13mg/dl以上で倦怠感、疲労感、食欲不振などが起こり、さらに高度になると筋力低下、口渇、多飲、多尿、悪心、嘔吐等が出現します。
日本内分泌学会HPより
これが高カルシウム血症の一般的な症状ですね
あとミルクアルカリ症候群の病型ごとに特徴的な症状と、その他検査所見などは下表のようになるよ
急性 | 亜急性(Cope症候群) | 慢性(Burnett症候群) | |
---|---|---|---|
ミルク・アルカリによる治療期間 | 数日から1週間 | 数年間 | より長期間 |
症状 | 嘔気・嘔吐、食欲不振、脱力感、傾眠、精神症状、頭痛、めまい | 嘔気・嘔吐、食欲不振、精神症状、衰弱、筋痛、多飲・多尿、結膜炎 | 嘔気・嘔吐、食欲不振、精神症状、衰弱、筋痛、多飲・多尿、掻痒感 |
検査所見 | Ca, UN, Cr:上昇 IP, HCO3-:上昇または横ばい | 同左 | 同左 |
合併症 | ときに帯状角膜症 | 帯状角膜症、石灰沈着(とくに腎と肺) | |
ミルク・アルカリ中止後の回復 | 自覚症状、腎異常ともに速やかに回復 | 速やかに、またはやや送れて自覚症状は回復。 腎症状も遅れて回復する。 | 自覚症状は遅れて回復(掻痒感と筋痛がもっとも遅れる) 腎症状は回復せず |
病型によって微妙に症状が違いますが、嘔気や食欲低下、脱力感・筋痛など共通していてわかりやすい症状を伝えるのが良さそうですね
カルシウム・アルカリ症候群の予防には、活性型ビタミンD製剤を内服中の患者の血清カルシウム値を定期的に検査することが大事です。
そして体調を崩し経口摂取が不良にもかかわらず、内服薬だけはきちんと飲んでいる高齢者は少なくありません。このような体調が悪いとき、つまり“シックデイ”には活性型ビタミンD製剤は飲まないようあらかじめ指導しておくこともポイントです。
日本医事新報 (4923): 55-55, 2018.
シックデイ、気を付けるのは糖尿病薬だけだと思っていました
高齢者やCKD患者などでは特に高Ca血症になるとAKI(急性腎障害)を誘発してしまう可能性があると思うので、たしかに元々脱水etcでAKIリスクの高いシックデイにはビタミンD3製剤は休薬するという指導も患者によっては必要かもしれない
患者には本疾患の病態と高カルシウム血症の一般的な症状についての説明が必要である。患者は、摂取しているサプリメントとその成分に注意しなければならない。頻繁に、患者は知らず知らずのうちに複数の供給源からカルシウムを摂取している[1]
ミルクアルカリ症候群について薬剤師が知っておきたいいくつかのことのまとめ
- ミルクアルカリ症候群は、高カルシウム血症、代謝性アルカローシス、腎機能低下の三要素を特徴とし、カルシウムとアルカリの過剰摂取が原因。
- ミルク-アルカリ症候群は現在、高カルシウム血症の10%以上を占め、副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍の高カルシウム血症に次いで3番目に多い原因であることが示されている。
- カルシウムの重要性に対する認識が高まり、入手が容易になり、カルシウムを含むサプリメントが頻繁に処方されるようになったことで、ここ数年でミルクアルカリ症候群の症例が増加している。
- 現在では、炭酸カルシウム製品の摂取量の増加により、閉経後の女性に多くみられるようになっている。
- ミルク-アルカリ症候群の病態生理学的メカニズムは複雑であり、いくつかの相互に関連する因子が関与している。
- ミルク-アルカリ症候群は、アルカローシスとカルシウム負荷が共存している場合に起こりうるものであり、カルシウム源でありアルカリ源でもある炭酸カルシウムの過剰摂取は、カルシウム-アルカリ症候群の現代症例の主な原因となっている。
- 酸化マグネシウムやACE阻害薬、NSAIDsなどもミルクアルカリ症候群の発症と関連している。
- 軽度の高カルシウム血症の場合、必要な介入はほとんどの場合炭酸カルシウムである原因物質を取り除くことだけである。高カルシウム血症およびアルカローシスは、ミルクアルカリ症候群では原因物質が除去されることで急速に是正される。
- 患者には本疾患の病態と高カルシウム血症の一般的な症状についての説明が必要である。患者は、摂取しているサプリメントとその成分に注意しなければならない。知らず知らずのうちに複数の供給源からカルシウムを摂取していることもあるからである。
薬剤師が予防的に介入できそうなところが多い印象でしたね!
そうだね、特にサプリメントとかは薬剤師が積極的に介入すべきところかもしれない
目を光らせるようにします!
参考文献
- Ali R, Patel C., Milk-Alkali Syndrome., 2020 May 30. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2021 Jan–.
- Shigeru Hanada et al.,Calcium-Alkali Syndrome Due to Vitamin D Administration and Magnesium Oxide Administration, ACID-BASE AND ELECTROLYTE TEACHING CASE| VOLUME 53, ISSUE 4, P711-714, APRIL 01, 2009
- Patel AM, Goldfarb S. Got calcium? Welcome to the calcium-alkali syndrome. J Am Soc Nephrol. 2010 Sep;21(9):1440-3.
- Parvez B, Emuwa C, Faulkner ML, Murray JJ. Milk alkali and hydrochlorothiazide: a case report. Case Rep Med. 2011;2011:729862.
- Patel AM, Goldfarb S. Got calcium? Welcome to the calcium-alkali syndrome. J Am Soc Nephrol. 2010 Sep;21(9):1440-3.
- 大嶋清宏ほか「ミルクアルカリ症候群にて高カルシウム血症性クリーゼを来した1例」日救急医会誌. 2013; 24: 345-50
- 石橋賢一「第2回 「ミルク・アルカリ症候群」を覚えていますか?」明治薬科大学病態生理学教室Fluid Management Renaissance 1(2): 195-197, 2011.
- 大竹明「ミルクアルカリ症候群について教えてください. また, ビタミンD製剤の服用により発現する可能性はありますか? 薬剤師がチェックすべきポイントを教えてください」埼玉医科大学病院小児科、薬局 59(7): 2586-2588, 2008.
- 今井直彦「他科への手紙 腎臓内科→整形外科」聖マリアンナ医科大学腎臓・高血圧内科 講師、日本医事新報 (4923): 55-55, 2018.