非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬、いわゆるZ-Drug(Z薬)は国内においては「ゾルピデム(マイスリー®)」と「ゾピクロン(アモバン®)」、「エスゾピクロン(ルネスタ®)」の3つが販売されています。
エスゾピクロンはラセミ体であるゾピクロンから薬理効果のないR体を切り捨てた後のS体ということが有名ですが、果たして違いはどんなところにあるのでしょうか?
ゾルピデムとゾピクロン、エスゾピクロンはどのように使い分ければ良いのでしょう?
今回はそんなZ-Drugの使い分けについて調べてみました。
もくじ
Z-drugってどう使い分けるの?
こんにちは!薬剤師うさぎです
アモバンのR体です
薬理効果ほとんどないやつじゃないですか……
またの名をゾピクロンのR体です
苦そうですね……
それはそうと、Z-Drugって日本だと3種類ありますけど、いまいち違いがよくわからないんですよね〜
エスゾピクロンがあればゾピクロンはいらないんじゃないかと思ったり、どれでも同じなんじゃないかと思ったり
ふむ、使い分けを知りたいということだね
そういうことです
ではZ-Drugの使い分けについて、一緒に考えていこうぞ
GABA受容体
GABA受容体は覚えているかな?
脳に広く分布する抑制系の神経伝達物質であるGABAが結合する受容体のことですね。
GABAA受容体とGABAB受容体とGABAC受容体の3種類があって、GABAA受容体が催眠や抗不安作用に関与するんでしたよね。
そう、GABAA受容体はベンゾジアゼピン(BZ)系睡眠薬や精神安定剤、Z-Drugが作用するBZ受容体と複合体(GABA-BZ-Chloride Ionophore Complex:GBC)を形成しているんだったね。
そして、ω1受容体が催眠・鎮静作用に関わり、ω2受容体が抗不安作用や筋弛緩作用に関わるんだったね。
Z-drugはω1受容体選択性があるから、筋弛緩作用も少ないと。
ふふふ
?
せんぱい、今となってはω1、ω2は古いですよ。
従来のBZ 系は、 ω1,ω2 に同等の親和性をもつが、非 BZ 系はω1 に親和性が高いとされ、筋弛緩作用が弱いため安全であると説明されていた。しかし、GABAA 受容体遺伝子がクロー ニングされて分子実体が解明されると、受容体の概念は大きく変わり、BZ 受容体やω受容体という言葉は使われなくなった。
月刊薬事 2019.9(Vol.61 No.12) 53(2129)
な、なんですって?!
近年の知見では、GABAA受容体はサブユニットが5個組み合わさってできる五量体と考えられていて、特にα1〜α6まであるαサブユニットによって受容体の特性が異なることが明らかとなってきているんです。
な、なんですって?!
α1は鎮静作用により入眠を促し、
α2は視床下部における睡眠から覚醒への切り替えのスイッチに作用し、ノンレム睡眠中の徐波の出現に重要な役割を果たしていると考えられています。
α3も視床下部の網様核に作用し、睡眠の維持に重要な働きをする視床皮質変動と関連し、ノンレム睡眠の50%を占めるStage N2で出現する睡眠紡錘波の形成に関与します。
そして、α2とα3サブユニットには抗不安作用と関連が認められています。
な、なんですって?!
そしてそれをまとめた図がこちらになります
さらにGABAA受容体をアイソメトリックイラストにしてみました
な、なぜアイソメトリックイラストに
つい作りたくなってしまって……
そういえばZ-Drugそれぞれαサブユニットに対する選択性が違うと聞いたことがあるようなないような
そうでした!
そこから使い分けが見えてきそうなふんいき
そんなふんいき、あると思います
では早速それぞれの特徴について見てみようぞ
Z-Drug、αサブタイプへの親和性に着目したそれぞれの特徴
α2、α3に比べ、α1への選択性が高い
α5にはほとんど親和性なし
(動物実験におけるデータ)
ふむふむ
つまり?
鎮静・催眠作用が強い……!
ほうほう!
他のも気になりますね
α1だけでなく、α2、α3にも親和性を持つ
(動物実験におけるデータ)
ほうほう!
つまり、鎮静作用だけでなく、睡眠−覚醒の切り替えスイッチや大脳視床変動による睡眠の維持に作用しているということが想定されますね……!
なるほどですね
α2は抗不安作用もあるみたいですね
エスゾピクロンは不眠症状を伴ううつ病や全般性不安障害の患者に対してSSRIと併用することにより,不眠症状の改善だけでなく,原疾患の精神疾患に対しても付加的な改善効果がみられることが報告されている。
Biol Psychiatry 2006;59:1052-1060.
この引用みたいにエスゾピクロンはうつ病や不安性全般障害に併存する不眠など精神疾患に併存する不眠の改善とともに、抗うつ、抗不安の増強作用もあることが報告されているよう
不眠症を患う成人のうち40%はうつや不安症などの精神疾患を併せ持っている。
J Clin Psychiatry. 2001;62 Suppl 10:27-32.
こんな報告もありますし、抗不安作用は有用ですね
エスゾピクロンに比べてα1やα5への効果が強い
ゾピクロンはエスゾピクロンと同じかと思ったら、ここにも違いがあるんですね
どっちかというとゾピクロンはゾルピデムに近い作用になりそうだね
ゾピクロン≒エスゾピクロンではなくて、ゾピクロン≒ゾルピデムと捉えたほうが良いんですかね
さもありなん
サブタイプへの親和性 | α1 | α2 | α3 | α5 |
---|---|---|---|---|
ゾルピデム | 21× | 1× | 1× | ほぼ0 |
エスゾピクロン | 8× | 5× | 1× | 8× |
ゾピクロン | 11× | 7× | 1× | 2× |
※文献1より引用
×21とかはどこから来たんですか?
ルネスタの審査報告書に次のような記載があったよ
GABAA受容体の種々の α サブユニット及び β2γ2 サブユニットを発現した培養細胞の膜画分を用いたin vitro 結合試験において、GABAA受容体に対する本薬、ゾピクロン、(R)-ゾピクロン、(S)-DMZ 及びゾルピデムの Ki 値(nM)は、α1、α2、α3 及び α5 サブユニットを発現させたものについて、本薬でそれぞれ 25、43、205 及び 27、ゾピクロンでそれぞれ 45、68、487 及び 256、(S)-DMZ でそれぞれ 104、353、1070 及び 608、ゾルピデムでそれぞれ 18、370、391 及び 10000 超であった。
ルネスタ®審査報告書
※DMZはエスゾピクロンの代謝物である(S)-脱メチルゾピクロンのこと
む、Ki値ってなんですか?
それはね……
親和性定数のこと。
ある薬物が受容体の結合能を50%抑制する濃度(IC50値)等をもとに算出され、受容体に対する結合親和性が高いほど低値を示す。
(大鵬薬品工業 Drug Informationより引用)
なるほど、つまり値が小さい方が少ない濃度で効果があるってことですね!
この結果を見ると、ゾルピデムのKi値はα1で18、α2で370、α3で391となっているよ。
370と391をほとんど同じとすると、α1とα2、α3はそれぞれだいたい21×、1×、1×となるのがわかるね。
なるほど、わかりました
ちなみにゾピクロンのR体については次のような記載だったよ
なお、(R)-ゾピクロンはいずれの α サブユニットを発現させたものについても結合親和性を示さなかった
ルネスタ®審査報告書
むむ、やはりR体はあまり薬理効果がなさそう……
全く無いというわけではなくて大量に作用させるとちょっと効果が出るといったような記載もあったけど、やはりあまり効果はないと考えるのが無難かもしれない
でもこれって上の例でも培養した細胞を使っているようですし、人でも同じ感じになるんですかね?
ふむ、次のようなデータがあるよ
米国における高齢者や障害者に対する公的保険であるメディケアのビックデータをもとにしたZdrugの転倒リスクに関する検討では、ゾルピデムにおいては転倒と関連する頭部外傷や大腿骨頸部骨折との有意な関連が認められたが、エスゾピクロンでは有意差がなく、高齢者の転倒リスクからはゾルピデムよりエスゾピクロンのほうが安全な可能性が示唆されている。
Sarah E Tom et al, Sleep. 2016 May 1;39(5):1009-14.
むむ、ゾルピデムは筋弛緩に関連するサブユニットであるα2やα3にはあまり作用しないから転倒リスクもエスゾピクロンより低いんじゃないかと思っていましたが、逆なんですね
なんということでしょう
なんでエスゾピクロンは筋弛緩作用があるα2に作用するのに転倒リスクが低い結果に……??
なにやら用量とかも影響しているようだよ
また,エスゾピクロンのα2およびα3受容体を介した筋弛緩作用による転倒事故発生の懸念が推察されるが,筋弛緩作用はエスゾピクロンの臨床用量では出現しにくいことが報告されており,本研究や先行研究とあわせてエスゾピクロンの転倒率が低い要因の1つと考えられる。
日本病院薬剤師会雑誌 54(6): 749-754, 2018.
むむむ、そうなんですね
あとはin vivoとin vitroの違い、というやつだろうか
現時点では,ヒトの脳でのサブユニット別の発現量の違いや機能についての明確なデータがないことから、in vitro実験と動物実験で得られた結果による違いのみで、in vivoのヒトの薬効の差を説明するのは無理がある、と筆者はみなしている。
そのため、最近の総説ではサブユニット別の薬効が表にまとめられているものが多いが、ω1、ω2 のときと同様に実体とは異なる可能性もあり、誤解を招くと考える。
月刊薬事 2019.9(Vol.61 No.12) 53(2129)
やはり無理があるとみなすのが良いのでしょうか
なんかせっかく使い分けがわかるようになったと思ったのに悲しいですね
でも上で紹介したエスゾピクロンの抗不安作用を報告した文献みたいなのもあるし、全く参考にならないというわけではなさそう
あくまで参考程度にとどめておくって感じですかね
やはり薬物動態から考えるほうが無難なのかも……
Z-Drug、薬物動態に着目したそれぞれの特徴からの使い分け
ということで、基本に返って薬物動態から見ていこうか
よく見るベンゾジアゼピンの作用時間の表ではZ-drugの3剤はどれも「超短時間作用型」となっていますよね
なのでどれも入眠困難に用いられるとおもわれます
そうだねそうだね
でも、もう少し詳しく見てみようか
一般名 | Tmax | T1/2 |
ゾルピデム | 0.8 | 2 |
ゾピクロン | 1 | 3.8 |
エスゾピクロン | 1 | 5 |
最高血中濃度到達時間(Tmax)はだいたいどれも同じですが、血中半減期(T1/2)は意外と差があるんですね
そうだね
短時間作用型のブロチゾラムはT1/2が7時間なので、どちらかというとエスゾピクロンは短時間作用型に近いのかもしれない
確かにエスゾピクロンはインタビューフォームとかで中途覚醒にも効果があると書いてあった気がします
差が少し見えてきたね
特殊条件の患者に対する差も気になります
高齢者に対してはどれもT1/2が延長するよう
肝障害患者へはどうでしょう?
こんな感じのよう
ゾルピデムを肝硬変患者に投与すると T1/2 は約 10 時間に延長し、血中薬物濃度−時間曲線下面積(AUC)は5.3 倍大きくな り、Cmax は 2 倍にまで増加した。
エスゾピクロンも高度肝機能障害の患者で T1/2 と AUC は増加する傾向がみられたが、Cmaxに顕著な増加はなかった。
ふむ、エスゾピクロンのほうが比較的安全に使えそうな雰囲気ですね
添付文書でもゾルピデムは重篤な肝障害患者に対しては禁忌となっているが、エスゾピクロンとゾピクロンは禁忌とはなっていないね
腎障害患者に対してはどうでしょう?
ゾピクロン、エスゾピクロン
→腎機能正常者と同じ
エスゾピクロン
→CCr<60ml/minでは、腎機能正常者と同じだが腎機能低下によりAUCの上昇、T1/2の延長が見られるため1mgから開始
(参考:腎機能別薬剤投与量 POCKET BOOK)
エスゾピクロンは少し注意が必要だね
食事が血中濃度に影響するって聞いたことがあります
ゾルピデムは食事にほとんど影響されない。
エスゾピクロンは摂食群で Tmax が 2.5 時間ほど延長し、Cmaxは30%低下する。
ゾピクロンは記載が見つかりませんでしたが、なんとなくエスゾピクロンに近そうな気はします
ふむ
帰るのが遅くて夕食を食べてすぐ寝るような生活の人はエスゾピクロンやゾピクロンよりゾルピデムのほうが良さそうですね
あとはやっぱりゾピクロンは苦味ですよね
確かに気にする必要はあろうぞ
僕は飲んだことないのでわかりませんが、吸収されたあとも唾液腺から分泌されて苦いのが結構続くみたいですね
S体にも苦味はあるから結局エスゾピクロンでも苦味はあるようだね
苦いのがどうしても無理って人は考えものですね
エスゾピクロンだけ30日制限がないんですよね
ゾピクロンは制限あるのにエスゾピクロンは制限ないとはこれいかに
インタビューフォームにこんな記載がありました
また、投与期間に関わらず臨床的に問題となる副作用(依存性、持ち越し効果等)は認められなかった。長期投与による耐性の形成、投与離脱時の退薬症候や反跳性不眠も認められなかったことから、米国では睡眠薬として初めて投与期間に関する制限なしで承認された。
ルネスタ®インタビューフォーム
う〜ん、エスゾピクロンでこれなら他のも同じようになりそうだけれど……
謎は深まるばかり
あとはやっぱり値段ですかね
そうだね、できれば安いほうがよいなあ
表にしてみました
2021年2月現在の薬価(円) | 先発品 | 後発品 |
ルネスタ1mg | 47.3 | なし |
ルネスタ2mg | 75.2 | なし |
ルネスタ3mg | 94.6 | なし |
ゾピクロン7.5mg | 15.8 | 7.0 |
ゾピクロン10mg | 17.7 | 7.8 |
ゾルピデム5mg | 33.9 | 10.1-10.9 |
ゾルピデム10mg | 54.6 | 14.1-17.9 |
ゾピクロンは一番古いということもあり、やはり安いですね
価格というのも選択においては重要な要素となりますな
- GABAA受容体はサブユニットが5個組み合わさってできる五量体と考えられていて、特にα1〜α6まであるαサブユニットによって受容体の特性が異なる
- α1は鎮静作用により入眠を促す
- α2とα3サブユニットには抗不安作用と関連が認められている
- ゾルピデムはα2、α3に比べ、α1への選択性が高い
- エスゾピクロンはα1だけでなく、α2、α3にも親和性を持つ
- ゾピクロンはエスゾピクロンに比べてα1やα5への効果が強い
- in vitro実験と動物実験で得られた結果による違いのみで、in vivoのヒトの薬効の差を説明するのは無理があるとの意見も
- エスゾピクロンはうつ病や不安性全般障害に併存する不眠など精神疾患に併存する不眠の改善とともに、抗うつ、抗不安の増強作用もあるという報告もあり
- 参考程度には使えるかもしれない
- 3剤はどれも超短時間作用型に分類されているが、ゾルピデムのT1/2は2時間なのに対し、エスゾピクロンのT1/2は7時間とそれなりの差がある
- 肝障害患者に対して、ゾルピデムは重篤な肝障害患者に対しては禁忌となっているが、エスゾピクロン、ゾピクロンは禁忌とはなっていない
- 腎障害患者に対して、エスゾピクロンは特に腎機能低下によりAUCの上昇、T1/2の延長が見られるため注意が必要
- エスゾピクロンは薬物動態が食事に影響されるが、ゾルピデムは影響されない
- エスゾピクロンは苦味を感じやすい
- エスゾピクロンには30日制限が無い
- ゾピクロンは安い
もろもろ考慮して使い分けは考えるべきだとは思いますが、一応「Z-Drugの中で使い分けに迷ったとき」の目安も独断でまとめておきます
- とにかく入眠困難がつらい
- ゾルピデム
- 中途覚醒にも効くほうがいい
- エスゾピクロン
- 抗不安作用もあればなおよい
- エスゾピクロン
- 重篤な肝障害あり
- エスゾピクロン、ゾピクロン
- 食事が夜遅い(寝る直前)
- ゾルピデム
- 苦いのはもう嫌だ
- ゾルピデム
- とにかく安ければ安いほうがよい
- ゾピクロン
同じZdrugといえど、結構違いがあることがわかりましたね
最近の知見からはZdrugはひとまとめにして考えられる薬剤ではない
ねむりとマネージメント 4(1): 11-14, 2017.
こんな言葉もあるし、もはや別物と考えたほうが良いのかもしれないなあ
私も兄弟がたくさんいますがみんな性格が違います
なんか似たような分類だから同じだろうと考えてはいけないってことですね
そうだね、みんな違ってみんないい、というやつだね
(締まった)
- 各添付文書
- 各インタビューフォーム
- 各審査報告書
- 大鵬薬品工業 Drug Information
- 日本腎臓病薬物療法学会 腎機能別薬剤投与方法一覧作成委員会/編「腎機能別薬剤投与量POCKETBOOK 第3版」じほう
- 中川寛之ほか「ゾルピデムvsエスゾピクロン」 月刊薬事2019.9(Vol.61 No.12)── 53(2129)
- 谷口充孝「Z drug (非ベンゾジアゼピン系睡眠薬) の使い分けを考える」ねむりとマネージメント 4(1): 11-14, 2017.
- 谷口充孝「第34回 Question 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬をZ drugと呼ぶことがありますが, なぜですか? また, Z drugの中でも, それぞれ特徴があるのでしょうか? 臨床における使い分けについても教えてください」睡眠医療 9(2): 273-277, 2015.
- 加藤豊範「睡眠導入剤と転倒率の関係性~再転倒患者に対するエスゾピクロンへの変更の有用性~」日本病院薬剤師会雑誌 54(6): 749-754, 2018.
- Fava M et al:Eszopiclone co-administered with fluoxetine in patients with insomnia coexisting with major depressive disorder. Biol Psychiatry 2006;59:1052-1060.
- Sarah E Tom et al, Sleep. 2016 May 1;39(5):1009-14.doi: 10.5665/sleep.5742.Nonbenzodiazepine Sedative Hypnotics and Risk of Fall-Related Injury
- W V McCall, A psychiatric perspective on insomnia, J Clin Psychiatry. 2001;62 Suppl 10:27-32.