今回のテーマは蜂窩織炎!
蜂窩織炎の概要や原因微生物、薬物治療(使用する抗菌薬)と非薬物治療などについて種々の文献からまとめています。
蜂窩織炎とはなんぞや?
蜂窩織炎についてあまり知らない初学者向けにこれを読めば最低限の知識が得られるような記事を目指して書きました。
蜂窩織炎についてとりあえず知りたいという人はぜひ記事を読んでみてください。
不備、不足点などあればお気軽にコメント欄にてご指摘お願いします。
【2020/8/11】LRINEC scoreについて追記しました。
もくじ
蜂窩織炎とは?治療や抗菌薬まとめ
蜂窩織炎とは?
顔面や四肢、特に下腿に好発する有痛性皮膚病変。
皮下組織までのやや深い感染症であり、限局性の疼痛紅斑、膨脹、正常な皮膚との境界がハッキリせずやや盛り上がるのが特徴。
多くは外傷や小さな皮膚潰瘍、刺虫症、足白癬などのバリア機能の破綻した皮膚から経表皮的に生じる(明らかな先行病変を持たないこともある)。
- 炎症部位:真皮〜皮下組織(広がりがある)
- 症状:発熱、境界不明瞭な局所の疼痛・発赤・膨脹
- 身体所見:境界不明瞭な紅斑(広がりがあるため不明瞭となる)
蜂窩とは蜂の巣のことでWikipedia先生曰く蜂窩織炎とは「顕微鏡標本上に見える、浮遊している好中球をハチの幼虫に見立て、融解し切らずに残っている間質を巣の仕切りに見立てた名称」とのことでした!
写真は各々検索して見てみてください!
蜂の幼虫……
ガクガクブルブル
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
他疾患との鑑別は?
- せつ→おでき
- 丹毒→正常な皮膚との境界がハッキリしており(真皮に限局するため)あまり盛り上がらないのが特徴で、顔面や下肢に好発
- 壊死性筋膜炎(初期)→見た目と釣り合わない痛みで急速に進行する
- 接触性皮膚炎→痒みを伴う紅斑、刺虫症に対して用いた外用剤による接触皮膚炎は刺虫症から二次的に生じた蜂窩織炎と間違えやすい
- DVT→熱感を伴う発赤が見られる場合でも、蜂窩織炎ほどは赤くならないことが多い[9]。静脈エコーで深部静脈の閉塞像を認める。Dダイマー上昇。白血球やCRPはあまり上昇しないことが多い。
- 結節性紅斑→四肢、特に下腿に紅色結節が多発する。発熱や関節痛を伴う場合もある。丹毒や蜂窩織炎も引き金になりうるが、症状が出現した段階では抗菌薬は無効のことが多い。
- 痛風発作→足第一中足趾節関節、足関節に好発する疼痛、熱感、発赤膨脹。痛風発作中は血清尿酸値は必ずしも高値を示さない[12]。
- 偽痛風→膝関節、手関節、足関節などで1〜数カ所の関節炎が起こる。急性発作時は関節膨脹、熱感、疼痛があり、X線で軟骨石灰化症、関節液中にピロリン酸カルシウム結晶。
- ガス壊疽→紅斑部位の握雪感、捻髪音の聴取、悪臭あり。DICや敗血症性ショックなど全身症状を伴う。
蜂窩織炎は真皮から皮下組織まで広がりがあるから境界がはっきりしないけど、丹毒は真皮に限局するから境界がはっきりしているという違いがあるんですね!
- 疼痛が激しい場合
- 一見正常に見える部位まで非常に強い痛みを訴える場合
- バイタルに大きな異常がある場合
- 抗菌薬を使っても進行が急速な場合
- X線にガス像がある場合
- 初期から水疱を伴う場合(=深部血管の閉塞を示唆)
- 治療過程での水疱形成はよくある
- 皮膚の壊死がある場合
- 握雪感がある場合(教科書には書いてあるが珍しい→感度が低い)
- 皮膚の知覚麻痺(血管障害を示唆)
- 早期にショック(早いと10時間で)、意識障害(せん妄)、多臓器不全(特に腎不全)あり、急速進行性(1時間単位)
蜂窩織炎だと思ってたら実は壊死性筋膜炎だった! というのはヤバいのでちゃんとその可能性は排除しなくてはいけないということですね
壊死性筋膜炎と重症蜂窩織炎の鑑別にLRINEC(Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis)スコアの有用性が報告されている。
LRINECスコア6以上を壊死性筋膜炎とするためのカットオフ値とした場合、感度100%、特異度85.5%、陽性適中率40.7%、陰性適中率100%であったとのこと[14]
「構成する検査データは他のあらゆる感染症において異常値となりうる項目で壊死性筋膜炎に特異的ではないため他の疾患を除外することが重要」
「スコアが0の場合の壊死性筋膜炎も報告されており、スコアが低くても壊死性筋膜炎の除外診断は臨床、画像所見と合わせて総合的に行うべき」
と文献[14]では述べられています。
あくまで確定診断や除外診断の際の臨床初見に加えた補助的ツールとして用いましょうということだね。
血液培養は必要?
蜂窩織炎における血液培養の陽性率は5%程度
- 入院を要する患者では施行[1]
- 起因菌に絞った治療を行うので血液培養は全例必須[2]
- 細菌学的検査は不要。ただし重篤感がある場合や免疫不全患者、動物咬傷などの外傷では抗生剤の開始前に培養検査を行う[13]
入院患者ではとっておいたほうが良さそうなふんいき……
重症度や患者背景(耐性菌リスクetc)を考慮しよう
原因微生物は?
黄色ブドウ球菌、A群β溶連菌が主
インフルエンザ菌も関与
上記患者では緑膿菌も原因となる
淡水(エロモナス・ハイドロフィア、マイコバクテリウム・マリナム)、海水(ビブリオ・バルニフィカス)への曝露を聴取する。
混合感染(Streptococcus、Staphylococcus)はまれ[7]
基本は黄色ブドウ球菌と溶連菌!
薬物治療(抗菌薬)は何を使う?
黄色ブドウ球菌や溶連菌のカバー
第一選択
セファレキシン(CEX) 6 cap 分3[1]
他の選択肢
アモキシシリン/クラブラン酸(AMPC/CVA)250mg/125mg+アモキシシリン(AMPC)250mg1日3回[4]
第一選択
セファゾリン(CEZ) 2gを8時間毎に7-10日間[1]
CEZ 1gを8時間ごと静注[4][7]
治療期間の目安は炎症がおさまった3日後(だいたい1週間)まで[2]
他の選択肢
アンピシリン・スルバクタム3gを6時間ごとに静注[4]
クリンダマイシン(CLDM)経口薬900mg分3、CLDM点滴600mgを8時間毎[1]
ST合剤やCLDMも同様に有効[10]。ただし、通常の蜂窩織炎はCEX単独でもST合剤(MRSAカバー)を併用しても効果は変わらなかった[11]ため、ルーチンのMRSAカバーは不要[1]
口腔内嫌気性菌やパスツレラ・ムルトシダのカバー
アモキシシリン/クラブラン酸(AMPC/CVA) 3 cap分3+AMPC 3 cap分3[1]
黄色ブドウ球菌への抗菌活性が第1世代に劣るため、あまり適切な処方ではない[1]
肝硬変患者の重症軟部組織感染症、Vibrio vulnificus感染症のときや、水との暴露で起きるAeromonas、インフルエンザ菌などが原因となる顔面の蜂窩織炎では第3世代セフェム(点滴)でもOKのことが多い[5]
基本は黄色ブドウ球菌と溶連菌カバー目的で第一世代セフェム!
非薬物治療は何をする?
RICEが重要[1]
- R(rest):安静
- I(ice):冷却
- C(compression):圧迫
- E(elevation):挙上
米と覚えましょう
Cを引いたRIEが重要との記述[2]もあり。
蜂窩織炎はCEZ+RIEで治療する!
天沢ヒロ(2017)「使いこなす抗菌薬 (Essence for Resident)」医学書院
むむ、C(圧迫)はすべきなのかするべきではないのか……
別の文献[8]には「浮腫があれば急性期が過ぎてから圧迫療法を行う」との記載があったよ
なるほど、じゃあとりあえず急性期はRIEってことですね……!
RIEをする際に1点気をつけておきたいのが、足の皮膚は非常にデリケートであるので、下肢蜂窩織炎にIcingを行う場合には、直接患部を刺激し過ぎないようにアドバイスしましょう。具体的には、タオルに包んでゆっくり冷やすようにしてもらいます。
天沢ヒロ(2017)「使いこなす抗菌薬 (Essence for Resident)」医学書院
直接刺激しすぎはダメゼッタイ
下腿の蜂窩織炎の治療も抗菌薬だけではなく、患肢の挙上が重要です。セファゾリンで治療していてなかなかよくならない。「バンコマイシンか?」「リネゾリドか?」と悩む前に、脚を持ち上げてみましょう。こういうケースは非常に多いです。
岩田健太郎(2017)「高齢者のための感染症診療」丸善出版
外来での蜂窩織炎の治療失敗の多くは、抗菌薬の問題ではない。自宅では冷却、患部挙上、安静ができないことが多いためである。
岸田直樹(2014)「感染症非専門医・薬剤師のための 感染症コンサルテーション」じほう
抗菌薬だけちゃんとしていても不十分ということだね
サンフォード[7]にも第一選択として「患肢を挙上する」と記載されています!
挙上することで浮腫の軽減を期待していると思われるよ
治療に反応しない場合はどうする?
- RICEが足りない
- 感染症ではない(DVTなど)
- 皮下膿瘍
- 抗菌薬が適切でない
- MRSA、緑膿菌、真菌、抗酸菌症
治療に反応しない場合は一旦このあたりを検討するのが良いとのことです
セファゾリン投与してるのにあまり改善しないときとかたまにある……
なんにせよ米不足だと良くないということですね
米を配給して米騒動を鎮めると覚えよう
「蜂窩織炎とは?治療や抗菌薬まとめ」のまとめ
- 蜂窩織炎は下腿に好発する有痛性皮膚病変であり、正常な皮膚との境界がハッキリしないのが特徴
- 他疾患、特に壊死性筋膜炎との鑑別が重要!
- 血液培養は入院患者ではとったほうが良さそう
- 原因微生物は黄色ブドウ球菌と溶連菌が主
- 抗菌薬は黄色ブドウ球菌と溶連菌カバー目的で第一世代セフェムが主
- 非薬物治療としてRIE(RICE)、特に患肢の挙上が重要
- 治療に反応しない場合は他の可能性を考える
参考文献
[1]岡秀昭(2020)「感染症プラチナマニュアル 2020」メディカルサイエンスインターナショナル
[2]天沢ヒロ(2017)「使いこなす抗菌薬 (Essence for Resident)」医学書院
[3]天沢ヒロ(2017)「わかる抗菌薬 (Essence for Resident)」医学書院
[4]岸田直樹(2014)「感染症非専門医・薬剤師のための 感染症コンサルテーション」じほう
[5]岩田健太郎(2015)「絵でわかる感染症 with もやしもん (KS絵でわかるシリーズ)」講談社
[6]岩田健太郎(2017)「高齢者のための感染症診療」丸善出版
[7]菊池賢,橋本正良監修,David N.Gilbert編集(2020)「日本語版 サンフォード感染症治療ガイド2020(第50版)」ライフサイエンス出版
[8]山口哲央(2019)「20 蜂窩織炎・壊死性筋膜炎 – b 抗菌薬治療・非薬物治療」Emer-Log 32(6): 893-897
[9]伊原千夏,簗場瑞貴,鈴木貴子,他:下肢の蜂窩織炎が疑われた深部静脈血栓症の2例.日本皮膚科学雑誌2011:121(6);1063-1068
[10]N Eng J Med 2015 ; 372 : 1093-103、PMID : 25785967
[11]JAMA 2017 ; 317 : 2088-96. PMID : 28535235
[12]日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改定委員会:高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版[2012年追補ダイジェスト版].メディカルレビュー社,2012,p.8.
[13]荻堂優子(2016)「皮膚感染症 – 蜂窩織炎と丹毒を中心に -」月刊地域医学 30(8): 647-651
[14]石川耕資ほか(2014)「壊死性筋膜炎と重症蜂窩織炎の鑑別診断におけるLRINEC scoreの有用性の検討」創傷5(1):22-26
いつも勉強させていただいていおります。
重症蜂窩織炎では壊死性筋膜炎との鑑別が重要で、患者さんの生死に関わります。
急速に進行する病変の場合には患部切開にて皮下組織の観察が必要になります。病歴聴取はもちろんのことLRINECスコアで鑑別に入るようであれば、整形外科もしくは外科へのコンサルテーションも必要になると思います。薬剤師でも「おかしいな」と思ったら主治医へ確認すべきことだと思います。またSTSSにも注意が必要ですね。
ふろねこさん
コメントありがとうございます。
あまり蜂窩織炎の患者を担当する機会がなく知識不足を痛感しているので「おかしいな」と思えて主治医に進言できるように精進したいです。
LRINECスコア、初耳でした。勉強して記事に追記させていただきますね。STSSも併せて勉強したいと思います。
ご指摘いただきありがとうございました。とてもありがたいです。
また何かあればぜひ今後ともよろしくお願いします。