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【薬剤師エッセイ】第1章 持参薬管理:ジェネリックを飲みたくない患者さんとあたふたする私

 昨今、薬剤師はやれ処方箋通りに袋詰めしているだけの誰でもできる仕事やら、やれAIに淘汰される職業やら言われたい放題である。

 それもこれも世の人があまり薬剤師について知らないのが一因ではないか。薬剤師はもっと自身について発信すべきである。私がその一端を担おうじゃないか。薬剤師の仕事を赤裸々に書いていこうではないか。

 薬剤師のありのままを綴ったエッセイ。

薬剤師エッセイの長いようで長くない前置き

薬剤師は袋詰めしているだけ?!

 昨今、薬剤師はやれ何をしているのかわからないやら、処方箋通りに袋詰めしているだけの誰でもできる仕事やら、AIに淘汰される職業やら様々な罵詈雑言が私の耳に入ってくる。まさに言われたい放題である。

 しかし、傍から見るとその気持ちもわからなくはない。

 医師なら白い巨塔然りDrコトー診療所然り有名なドラマ、映画、小説が枚挙にいとまがない。看護師も同様である。

 2020年1月は医療ドラマが6作も! 天海祐希は“失敗しない”米倉涼子を超えるのか Yahoo!ニュース 1/4(土) 18:00配信

 6作も! あるのに全部医者と看護師であった。こはいかに。

 人々はドラマを観て感動し医師は患者のために尽くしていて素晴らしい、看護師は白衣の天使であるともてはやすのである。

 では薬剤師はどうであろうか。

 近年、薬剤師を主人公とした漫画「アンサングシンデレラ」が颯爽と世に現れた。普段日の当たらない薬剤師の仕事ぶりをさながら本格医療ドラマのように描写し、薬剤師界隈ではまたたく間に一世を風靡した。

アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり 1巻 (ゼノンコミックス)

 ただ、世間的にはどうなのだろう。まだドラマ化などメディアミックスはなされていない。知名度はあまり無いといわれても仕方がないのかもしれない。

 薬剤師目線で見ても非常に面白いため、これが美女&イケメン主演のもと連続ドラマ化されれば、一大ムーブメントとなることうけあいである。

 薬剤師の地位向上のためにも日本薬剤師会等関係各所は全力でドラマ化を支援するべきだと私は考えている。

【2020/02/10追記】祝ドラマ化決定! 主演石原さとみとのこと。これは一大ムーブメント待ったなしと一人ウハウハしている私である。

 冒頭で書いた薬剤師軽視論は、上述したように薬剤師の仕事にフォーカスした作品があまり世に出ていないということが大きな一因ではないか。

 もちろん、地道に薬剤師としての仕事を実直に行っていればいつかは評価されるという意見もあるだろう。それには大いに同意する。ただ、それはいつになるのだろうか。

 罵詈雑言を言われっぱなしでいいのか。反旗を翻さなくていいのだろうか。

 薬剤師はもっと自身について発信すべきである

 私がその一端を担おうじゃないか。まずは書きやすいであろうエッセイから書き始めてみようではないか。薬剤師の仕事を赤裸々に書いてやろうではないか。

 前置きが長くなったが、これが唐突に一薬剤師がエッセイを書き始めた理由である。

 決して星野源のエッセイに影響されたとかではない。

 乞うご期待いただきたい。

 私のプロフィールはこちらを参照されたし。

このエッセイはフィクションです

 このエッセイに登場する薬剤師の仕事は間違いなくノンフィクションであるが、登場する人物はおおむねフィクションである。実在する人物、団体とは関係ないことを強調しておく。

 仮に性格の悪い先輩とかが出てきてもそれはフィクションである。そう、フィクションなのでこれはおれのことじゃないかと思って特定とかしないでいただきたく存じ上げたてまつる。

薬剤師のワンダフルライフ

 副題は「A Pharmacist’s Purpose」とした。私の大好きな映画「僕のワンダフルライフ」の原題「A Dog’s Purpose」のもじりである。

僕のワンダフル・ライフ (字幕版)

 直訳すると「薬剤師の目的」となり本エッセイのコンセプトにもあっている。

 邦題に合わせて日本語にすると「薬剤師のワンダフルライフ」となるだろうか。こっちも良い響きである。

薬剤師エッセイ 第1章 ジェネリックを飲みたくない患者とあたふたする私

 さっそくだが1話目。

持参薬管理

 病院薬剤師の業務の一つに入院患者の持参薬管理というものがある。

 持参薬管理とはなんぞや。

 読んで字の如く入院患者の持参薬を管理することである。

 入院時に患者の持ってきた薬を調べて用法用量は正しいか、腎機能が悪ければその腎機能に似合う用量に減量されているか、薬と薬の相互作用は問題ないか、その他検査値などを見て入院中もこの薬を飲み続けて問題ないかなどなど、それはもうたくさんのことを確認している。

 そしてそれぞれ錠数を数えて電子カルテに一つずつ登録する。これにより医師をはじめ、患者に携わる全ての医療従事者にこの患者がいま何の薬を飲んでいるのか、すぐにわかるようにしている。

 この登録なくしては、医師が既に飲んでいる薬と同じような薬を処方してしまうことや、患者に危険が及ぶ相互作用のある薬を処方してしまうことなどを未然に防ぐことはできないといっても過言ではないだろう。

 実際にはせっかく登録した持参薬を医師が見てくれておらず、同じような薬が重複して処方になってしまうことが(当院では)まれによくあることはここでは大きな声では言わないようにする。仮に処方になったとしてもしっかりと薬剤師が見ておりストップをかけるので心配は無用である。

持とう、お薬手帳。

 そのため、患者様各位にはぜひお薬手帳、または薬局でもらう薬の説明書を薬と一緒に持参していただきたい

 たまにお薬手帳も薬の説明書もなく、薬袋(薬が入っている袋)にも何も書いていない薬を持参される方がいるが、何の薬なのか調べるのにたいへん労を要する。

 上述した例はまだ良い方で、何らかのケースに薬を取り出した状態で詰めて持ってこられる方もいる。

 お薬手帳があれば何の問題もなくきちんと管理できている患者さんという印象を受けるが、お薬手帳がないと気分がふさぎにふさぎこんでしまうことうけあいである。薬の専門家である薬剤師とて裸の薬を見ただけでは何の薬かはわからない。

こんな感じ

 いや、薬の刻印を調べればわかるのであるが、お薬手帳があれば1秒でわかるのに反し、刻印を調べると少なくとも1分はかかる。なんとおよそ60倍である。

 その時間をもっと相互作用などなどを調べたりするのに使いたい。刻印を調べることで時間がなくなって相互作用などなどを調べることができなくなるかもしれない。刻印を読み間違えて違う薬として登録してしまうかもしれない。これは大変大きなことである。命にかかわるやもしれぬ。

 そんなおおげさなと思うかもしれないが、中には10種類、20種類などたくさんの薬を飲んでいる方もいる。

 お薬手帳がなければ超大変なのである。

 ちなみに、お薬手帳を持ってない人では同じ効果の薬が違う医療機関から処方となって重複してしまっており持参薬を確認したときに気付くことがまれにある。これは本当である。そういうときはすぐに医師に報告してどちらかを止めてもらっている。

 お薬手帳を持っている人ではそういったことは今までない

 持とう。お薬手帳。

 お薬手帳は命を救うといっても過言ではない。 

持参薬がなくなったら?

 持ってきた持参薬がなくなったらどうすればいいのだろう。病院で出してくれるのかしら。

 そう思っている患者さんは世にたくさんいるとされる(当社調べ)。

 結論から言うと、病院で代わりの薬を出すことになる。

 ただ、病院にはたくさん薬は置いていない。その薬と同じものがあればその薬を処方してもらえるが、無ければ代わりの薬ということになる。

 代わりの薬は、薬剤師が院内に置いてある薬の中からできるだけ効果が同じになるようなものを選んで、医師に処方してもらっている。

 これも薬剤師が色々な薬の知識を駆使し、できるだけ変更の影響が出ないようにしている

 この血圧の薬を違う血圧の薬に変えれば良いんでしょ? 簡単じゃない? と思われる方がいるかもしれない。

 いや、簡単ではないのである。あの血圧の薬とこの血圧の薬は似ているようで作用が違うということが多い。同じ効果が出る薬の量もそれぞれ違うことが多い。

 それはもう色々な知識を駆使して、安全に変更しているのである。

 ただ当然、その病院の採用薬によって先発品がジェネリックになったり、ジェネリックが先発品になったりすることはある。

 たまにジェネリックは断固反対という人がいるが、ジェネリックしか置いていないのでどうすることもできないというのが正直なところである。

ジェネリックを飲みたくない患者と困ってしまう私

 たまにジェネリックが嫌という人がいる。

 「405号室のAさん、薬剤師さんを呼んでほしいって。なんだか薬のことで言いたいことがあるらしいです」

 看護師に声を掛けられる。

 Aさんは今日から持参薬が無くなるためジェネリックに切り替えた人だ。

 嫌な予感を胸にしつつ、患者のもとへ向かう。

ジェネリックは嫌です

 予想が当たった。

 ジェネリックは嫌と言われてもうちにはジェネリックしか無いんだよなあ……と思いつつ万が一何か過去にジェネリックを飲んで大変なことが起こったとか深刻な理由があるかもしれないと思い理由を聞いてみる。

別に何も起こったことはないけど、よく雑誌とかでジェネリックは良くないって言うじゃない

 ……何もないんかい!

 雑誌よ……

 なぜそんな勝手なことを書いてくれるのか。

 記事を書いた人はジェネリックしか置いていない病院に勤めている薬剤師の気持ちを考えたことがあるのだろうか。

 記事を書いた人はジェネリックしか置いていないのにジェネリックは嫌だから先発にしてと言われてしまう薬剤師の気持ちを考えたことがあるのだろうか。

 いや、ないだろう(反語)。

 仮にジェネリックを飲んで意識を失ったとか、全身に湿疹が出たとかであれば情状酌量の余地は大いにあるだろう。

 それが雑誌に書いてたからとは。

 仕方がない。ここは薬剤師の腕の見せどころである。

そのときの私の近影(写真右側)

 なんとかして納得させてみせよう。まずは共感だ。

 「そうなんですね。たしかに雑誌などで悪く書かれているのを見ると不安ですよね」

 「……(うなずく)」

 いける。

 「でも、ジェネリックは先発品と同等の効果があることが試験で証明されているんですよ」

 「…………」

 「しかも安いんです」

 「…………」

 「なので私はジェネリックしか飲まないです(ドヤ顔)

 「…………」

 「どうです? まだ不安ですか」

 「だって中国製とかって聞くし」

 中国製……! 確かに中国の工場で作っているものも中にはあるだろうが、雑誌にどのように書かれていたのだろう。一度その雑誌を読んでみたい。

 「中国製じゃないです」

 「…………」

 だめだ、埒が明かない。こうなったら最終手段である。情に訴えるしかない。

「病院にはジェネリックしか置いてなくて、仕方がないんですよね……」

「…………」

「なので、入院中は我慢してもらって、退院してからもとの薬に戻してもらうというのが最善だと思いますね……」

「…………」

「もちろん、飲んでなにか気になる点があればできるだけ対処するので、すぐに言ってください」

「…………」

「患者さん向けのパンフレットを探して持ってきましょうか?」

「……いやいいです」

「わかりました、それでは」

 ……

 ……

 ……

 どうであろうか。

 完全にダメダメな例である。

 薬剤師として患者の不安を拭うことができなかった。薬剤師失格である。

 果たして、どうすれば良かったのだろう。

 薬剤師メモでは現在、全国の皆様からご意見を募集中です。下のコメント欄よりご意見ご指導ご鞭撻お待ちしております(切実)。


 薬剤師の素晴らしき仕事ぶりを世に示すつもりが、ダメな例を世にあらわにしてしまった。世の薬剤師の方々にはたいへん申し訳なく感じている。

 次回からはきちんと薬剤師ってすごい! すてき! と思われるようなエッセイを書く所存である。決して前フリではない。

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