ザイボックス®(リネゾリド)の添付文書には
「14日を超えて本剤を投与される可能性のある患者には血液検査値に注意すること。貧血、白血球減少症、汎血球減少症、血小板減少症等の骨髄抑制の傾向や悪化が認められた場合には、本剤の投与中止等の適切な処置を行うこと」
との記載があり、血球減少に注意が必要なことは有名な話ですね。
では、どうして抗菌薬であるリネゾリドを投与することで血球減少が起こりうるのでしょうか。
また、「14日」の根拠はどのようなものなのでしょうか。
今回はそんなところについて書いていきます。
もくじ
リネゾリド(ザイボックス®)で血球減少が起こる理由
リネゾリドは14日以上投与する場合は血球減少に注意が必要
ふむふむ、ザイボックスは14日以上で血球減少が起こるから注意……と。
大事なことであるな。
では、なんでその副作用が起こるか知ってるかな?
むむ!
そう言われると確かに……。
菌を倒すはずが血球も倒してしまうとはこれ如何に
ではでは調べてみようか
添付文書の記載
まず添付文書の記載を再確認いたしましょう
重大な副作用
可逆的な貧血(4.8%)・白血球減少症(1.9%)・汎血球減少症(0.8%)・血小板減少症(11.9%)等の骨髄抑制
投与中止によって回復しうる貧血・白血球減少症・汎血球減少症・血小板減少症等の骨髄抑制があらわれることがあるので、血液検査を定期的に実施するなど観察を十分に行い、異常が認められた場合には、投与を中止するなど適切な処置を行うこと。なお、本剤の臨床試験において、14日を超えて本剤を投与した場合に血小板減少症の発現頻度が高くなる傾向が認められている。
ザイボックス錠600mg、ザイボックス注射液600mg添付文書
重大ですね……
特に血小板減少は11.9%と結構高い印象です
そうですなあ
理由については添付文書やインタビューフォームには書かれてないですね
うむ
では調べてみようか
リネゾリド(ザイボックス®)で血小板(血球)減少が起こる理由
調べる前に……
何が理由として考えられるだろうか?
う〜ん
リ、リネゾリドが菌と間違えて血小板を攻撃してるとか?
ほう、確かに血小板に直接影響してると考えるのがわかりやすいよね
ではこちらの文献をご覧ください
ラットPRP(血小板過剰血症)を様々な濃度のLZDに曝露しても、対照群と比較して乳酸脱水素酵素遊離の増加は検出されず、この化合物は血小板に対する細胞毒性はないことが示された。
Compared to the control population, an increase in lactate dehydrogenase release was not detected upon exposure of rat PRP to varying concentrations of LZD, indicating that this compound is not cytotoxic towards platelets.
Biol Pharm Bull. 2016;39(11):1846-1851.
なるほど、リネゾリドが血小板を攻撃しているわけではなさそうですね
ラットではあるが……その可能性は高そうだね
ほかには何が考えられるかな
むむむ
直接じゃなければ?
……間接!
LZDはMLC2のリン酸化を促進し、それによって成熟巨核球からの血小板の放出を抑制することで血小板減少を誘導しているのではないかと推測される。
we speculate that LZD induces thrombocytopenia by promoting MLC2 phosphorylation and thereby suppressing the release of platelets from mature megakaryocytes.
Biol Pharm Bull. 2016;39(11):1846-1851.
ほうほう
あとは酸化的損傷だったり
酸化ストレスマーカーはLZD誘発性薬剤性血小板減少症において増加しており、酸化損傷がその基礎となるメカニズムである可能性が示唆された。
The oxidative stress markers were increased in LZD-induced TP, suggesting that oxidative damage might be the underlying mechanism.
Clin Drug Investig. 2016;36(1):67–75.
免疫介在性の血小板減少とかが示唆されているようだよ
十分な正常な巨核球の存在は、骨髄抑制ではなく免疫介在性の血小板減少を示唆している。
The presence of adequate, normal-appearing megakaryocytes suggests immune-mediated thrombocytopenia, not marrow suppression.
Ann Pharmacother. 2003 Apr;37(4):517-20.
リネゾリド誘発性血小板減少症の正確な機序はまだ明らかにされていない。示唆されている機序としては、成熟巨核球からの血小板の放出抑制、循環血小板の酸化的損傷、免疫介在性の血小板破壊などが挙げられている。
The exact mechanism of linezolid-induced thrombocytopenia has not yet been elucidated. Proposed mechanisms include suppression of release of platelets from mature megakaryocytes, oxidative damage of circulating platelets, and immune-mediated platelet destruction.
Can J Hosp Pharm. Mar-Apr 2019;72(2):
なるほど……
まだ明らかにはなっていないんですね
決定的ではなく、あくまで示唆されているという理解で良さそうであるよ
なるほどですね
どうしてそんなことが起きるんですかね?
むむ、それはわからぬ……
ちょっと調べてみようか
リネゾリドと同じオキサゾリジノン系の抗菌薬であるテジゾリド(シベクトロ®)の審査報告書には次のように書かれていたよ
LZDで骨髄抑制、末梢性ニューロパチー及び乳酸アシドーシスがミトコンドリア毒性に関連し、その発現割合は用量及び投与期間に依存的であることが示されている。
シベクトロ®審査報告書
ミトコンドリア……毒性……!
ミトコンドリア……!
大学時代の記憶……
この子ですね(いらすとやより)
(いらすとやさんすごい)
ミトコンドリアのタンパク質合成が阻害されることによってミトコンドリア機能が障害されて発現するもよう
なるほどなるほど!
わかったようなわからないような
ミトコンドリアについての復習が必要であるな
興味のある人は各々調べてみてください
以下余談となります
14日以内ならセーフ?
本剤の臨床試験において、14日を超えて本剤を投与した場合に血小板減少症の発現頻度が高くなる傾向が認められている。
ザイボックス錠600mg、ザイボックス注射液600mg添付文書
やはり14日を超えて投与したときに頻度が高くなるみたいですね
14日以内ならセーフなんでしょうか?
下の図をご覧ください
14日以内なら大丈夫というわけではなく、治療期間を通して認められたが14日以降に多く認められたことから「14日」としているようだよ
そうなんですね!
グラフを見ると14日も12日も10日もそんなに変わらなく見えます
そうだね。14日までならセーフと考えるのではなく、治療期間はいつでも起こりうると考えたほうが良さそうだよ。
リネゾリドを最低5日間投与された患者における血小板減少症の新規発症頻度は17.6%であった。
The real-life frequency of new-onset of thrombocytopenia in patients receiving linezolid for a minimum of 5 days was 17.6%.
Can J Hosp Pharm. Mar-Apr 2019;72(2):
三次医療機関の入院患者を対象としたレトロスペクティブ観察コホート研究
この論文では血小板減少が起こらなかった患者の平均投与期間は12±7日だったのに対して、血小板減少が起こった患者では22±18日となっていたようだね。
傾向としては長期間投与したほうが起こりやすそうですが、やはり治療期間を通してリスクはありそうですね
リスク因子は?
どんなことがリスクになるんでしょう
種々の文献では次のような因子がリスク要因として挙げられているようだよ。
- 体重ベースの用量が多い
- 腎不全
- 血液透析
- 治療期間の延長
- ベースラインの白血球濃度の上昇
- ベースラインの白血球濃度の低下
- ベースラインの血清タンパク質濃度の低下
- 慢性肝疾患
- バンコマイシンの使用歴
リネゾリド誘発性血小板減少症の危険因子には、治療期間の長期化、腎障害、未分画ヘパリンの併用が含まれていた。
Risk factors for linezolid-induced thrombocytopenia included prolonged duration of therapy, renal impairment, and concomitant unfractionated heparin.
Can J Hosp Pharm. Mar-Apr 2019;72(2):
ふむふむ、ちょっとよくわからないのもありますが基礎疾患のある人などは特に注意が必要ということですかね
そんなところだろうか
まとめ
- リネゾリド誘発性血小板減少症の正確な機序はまだ明らかにされていない。
- 示唆されている機序としては、成熟巨核球からの血小板の放出抑制、循環血小板の酸化的損傷、免疫介在性の血小板破壊などが挙げられている。
- ミトコンドリア毒性が関連していることが示されている。
- 14日を超えて本剤を投与した場合に血小板減少症の発現頻度が高くなる傾向が認められている。
- 14日以内なら大丈夫というわけではなく、血小板減少症は治療期間を通して認められたが14日以降に多く認められたことから「14日」とされている。
- リネゾリド誘発性血小板減少症の危険因子には、治療期間の長期化、腎障害、肝障害などがある。
参考文献
- Masataka Tajima et al,. Linezolid-Induced Thrombocytopenia Is Caused by Suppression of Platelet Production via Phosphorylation of Myosin Light Chain 2, Biol Pharm Bull. 2016;39(11):1846-1851.
- Masataka Tajima et al,. Linezolid-Induced Thrombocytopenia Is Caused by Suppression of Platelet Production via Phosphorylation of Myosin Light Chain 2, Biol Pharm Bull. 2016;39(11):1846-185
- Bernstein WB, Trotta RF, Rector JT, Tjaden JA, Barile AJ. Mechanisms for linezolid-induced anemia and thrombocytopenia. Ann Pharmacother. 2003;37(4):517–20.
- Wang TL, Guo DH, Bai Y, Wen K, Han WY, Wang R. Thrombocytopenia in patients receiving prolonged linezolid may be caused by oxidative stress. Clin Drug Investig. 2016;36(1):67–75.
- Nicole Giunio-Zorkin, Real-Life Frequency of New-Onset Thrombocytopenia during Linezolid Treatment, Can J Hosp Pharm. 2019 Mar-Apr; 72(2): 133–138.
- ザイボックス®添付文書
- ザイボックス®インタビューフォーム
- シベクトロ®審査報告書