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カルバペネム系抗菌薬はどうやって使い分ける?【比較と使い分け】

カルバペネム系抗菌薬は

イミペネム/シラスタチン(IPM/CS、チエナム®)
パニペネム/ベタミプロン(PAPM/BP、カルベニン®)
メロペネム(MEPM、メロペン®)
ビアペネム(BIPM、オメガシン ®)
ドリペネム(DRPM、フィニバックス ®)

と色々ありますが、

ねこ
ねこ

セフェム系みたいに〇〇世代とかないし、あまり使い分けとか本にも書いてないこと多いし、そもそもどうやって使い分ければいいの?

そんな風に思ったことはないですか?

今回はそんなそもそもなギモンを解消すべく、カルバペネムの使い分けについて調べてみました。

この記事でわかること

カルバペネム系抗菌薬の違いのようなもの

カルバペネム系抗菌薬はどうやって使い分ける?【比較と使い分け】

現在発売されている5つの注射用カルバペネム

  • イミペネム/シラスタチン(IPM/CS、チエナム®)
  • パニペネム/ベタミプロン(PAPM/BP、カルベニン®)
  • メロペネム(MEPM、メロペン®)
  • ビアペネム(BIPM、オメガシン ®)
  • ドリペネム(DRPM、フィニバックス ®)

※2021年11月に発売となったイミペネム/シラスタチン/レレバクタム(IPM/CSとβラクタマーゼ阻害薬レレバクタムの合剤)については今回はとりあえず対象外としました。

デヒドロペプチダーゼ1とその阻害作用と

イミペネム、パニペネムは腎で排泄される際に尿細管の冊子縁に存在するdehydropeptitase-1(DHP-1)により加水分解されて失活し、活性体の尿中排泄が低率になる。

シラスタチンはDHP-1阻害活性と有機アニオン輸送系阻害による腎毒性軽減作用をもち、これを配合したものがイミペネム/シラスタチン。

ちなみにパニペネムにも腎毒性軽減のためベタミプロンが配合されているがDHP-1阻害作用はない

イミペネムよりも後に出たのにDHP-1阻害作用は搭載されてないのね

メロペネム以降は五員環の1位にβメチル基を導入することでDHP-1に対する安定性を高め、かつ2位の側鎖の塩基性を低減して腎毒性を軽減する工夫がなされ、単剤使用が可能となった。

腎排泄

ヒトにおいてビアペネムは主に糸球体濾過により排泄されるのに対し,他の4剤は糸球体濾過と尿細管分泌の両方が関与している。

カルバペネム系抗菌薬の腎障害のメカニズムが尿細管上皮に及ばす影響と考えられることから、糸球体濾過が主排泄経路であるビアペネムは腎機能障害患者や高齢者に対して同系統の中では使い易いと考えられているよう。3)

ビアペネムの腎機能低下時の用法用量を調べようと思ったけれど、サンフォードにもプラチナマニュアルにもその他抗菌薬本にもビアペネム自体載っていなかったのでわからず……

中枢神経系の副作用

イミペネム/シラスタチンが開発された当初,中枢神経への安全性が問題になったことがある。一方、メロペネム、ビアペネム、ドリペネムでは安全性が高いと言われている。

想定されているメカニズムとして薬剤のGABA受容体への結合に関してイミペネム/シラスタチンの親和性がメロペネムより大きい、ということが挙げられている4)が、イミペネムとメロペネムを直接比較した研究ではけいれんリスクに統計的有意差はなかった(J Antimicrob Chemother 69: 2043, 2014).

添付文書ではけいれん発作の発症率はエルタペネムで0.5%,イミペネム/シラスタチンで0.4%,メロペネムで0.7%とされている。しかし、細菌性髄膜炎に対するメロペネムの3つの臨床試験では薬剤関連のけいれん発作は報告されなかった(Scand J Infect Dis 31: 3, 1999; Drug Saf 22: 191, 2000).

イミペネムでは中枢神経系の副作用が多いというのはよく聞きますが、実際はそんなに違いはないのかな?

PBPとの親和性の違い

イミペネム/シラスタチン、ビアペネムは主としてPBP2,4を、メロペネム、ドリペネムはPBP4,3を阻害する。

主にPBP2・4を阻害する薬剤では,細菌はフィラメント化することなく球状化をきたし短時間で殺菌されることが観察されている。

一方、主にPBP3を阻害する場合、菌はフィラメント化し殺菌されるが、フィラメント化の状態にある間に薬剤の濃度がMIC以下になると菌は再分裂する。

この話だけ聞くとイミペネム/シラスタチン、ビアペネムのほうが「なんかつよそう」ですが、実際に治療にどのくらい影響があるのかは不明……

耐性化のしやすさ

イミペネムを使って治療中に緑膿菌が耐性化するといわれている。一方、メロペネムは治療中の緑膿菌の耐性化は起こさないともいわれている。8)

比較表

臨床医薬 21(9): 956-957, 2005より引用

参考になりそうなカルバペネムの比較表があったので引用しておきます。

各種細菌に対する抗菌力の比較が載っていますが、

「肺炎球菌においては,いずれの薬剤も抗菌力が強く臨床での差はでないと考えるが,MICにおいてはカルベニン®が優れており,髄膜炎などで使用される事が多い」3)

とのことで、この表における抗菌力の差はあくまでもin vitroでのことのようであり、臨床的な差はあまり気にしなくても良さそうです。

MICにおいて優れている……?

抗菌活性の違いについてのtips

VAP治療を検討したDRPM試験は、安全性への懸念から早期に中止された。DRPMで治療した患者はIPM/CSとの比較において、死亡率が高く治癒率が低かった(Crit Care 16: R218, 2012)

MEPMの抗菌活性は好気性グラム陰性菌に対してIPM/CSよりわずかに大きく、Staphylococcus およびStreptococcus に対してわずかに劣る、嫌気性菌にはIPM/CSと同等。Bacteroides ovatusB. distasonis はMEPMに対してより耐性。4)

パニペネム/ベタミプロンはグラム陽性菌に対する抗菌活性は優れているものの、P. aeruginosaをはじめとするグラム陰性菌に対しては抗菌活性が低い。メロペネム、ドリペネムはP. aeruginosaを含むグラム陰性菌に対する抗菌活性に優れている。ビアペネムは抗菌活性および腎毒性や中枢毒性などの安全性において、IPM/CSとMEPMの中間的な特性を有するとされる。5)

(MEPMは)IPM/CSに比べて、陰性菌への抗菌活性がいくらか高く、陽性菌には低いとされるが臨床効果への違いは不明である。7)

違いがありそうなふんいきはありますが、臨床効果への違いがどのくらいあるのかはよくわからないといった感じなふんいき

まとめ〜結局どう使い分ければいいの?

う〜ん、色々違いがあることはわかったけれど、結局どう使い分ければいいんだろう?

???
???

話は聞かせてもらった……!

えっ、その声は……?!

日本ではさまざまな抗菌薬が処方可能となっており,点滴用カルバペネム系抗菌薬だけでも 5 種類の抗菌薬が存在する.施設によってはこれら 5種類をすべて採用しているが,これらはほとんど同じスペクトラムを有しており,実際にはこれらの使い分けが求められることは臨床現場では皆無である.5 種類の同じスペクトラムの抗菌薬が施設内にあることでメリットがあるのは製薬会社だけであり,薬剤部の在庫は圧迫され,医師にとっては選択肢が多く混乱を招くことになる。1)

個人的な意見としてはメロペネム1剤でよいのではないかと思っています。しかし、ノカルジア、Mycobacterium abscessusなど一部の微生物に対しては歴史的にイミペネムが用いられてきた背景がありますので、個々の症例ごとにきちんと資料を調べて対応することが必要でしょう。6)

イミペネムとメロペネムで、in vitroではイミペネムのほうがグラム陽性菌に活性が強く、メロペネムのほうがグラム陰性桿菌には活性が強いとされます。ただ臨床的な差はほとんど感じません。8)

多種類のカルバペネム系が市場にあるが、臨床的な違いは大きくないため、最も標準的に使用されているMEPMを使いこなせれば問題ない。7)

以上。さらばっ……!

あ、ありがとうございました……!

(闇夜に消えていった)


薬剤師うさぎ
薬剤師うさぎ

ということで色々比較してきましたが、結局はだいたい同じで使い分けはあまり必要なさそうですね

プレーリードッグせんぱい
プレーリードッグせんぱい

せっかく調べたのにズコーっ

薬剤師うさぎ
薬剤師うさぎ

まあ、ただ「だいたい同じです」というよりは、「薬剤的には〇〇や△△みたいな違いはありますが、臨床的な違いはあまり大きくないです」みたいに根拠を持って言えたほうが薬剤師的にはカッコいいので知っておいて損はないのではないでしょうか……!

プレーリードッグせんぱい
プレーリードッグせんぱい

それはそうかもしれませぬな

薬剤師うさぎ
薬剤師うさぎ

(まとまった)

まとめ画像

参考文献

(1)忽那賢志「TIPS23 これはいらない? これはいる? 院内採用抗菌薬の決め方」インフェクションコントロール 22(6): 587-588, 2013.

(2)笠原 敬「カルバペネム系薬」MEDICAMENT NEWS (1887): 4-5, 2006.

(3)林泉「カルバペネム系5剤の使い分け」臨床医薬 21(9): 956-957, 2005.

(4)日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

(5)日本病院薬剤師会監修(2017)「薬剤師のための感染制御マニュアル第4版」薬事日報社

(6)羽田野義郎編「抗菌薬ドリル」レジデントノートVol.20 No.1

(7)岡秀明(2021)「感染症プラチナマニュアル Ver. 7 2021-2022」メディカルサイエンスインターナショナル

(8)大野博司(2006)「感染症入門レクチャーノーツ」医学書院

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